26.元婚約者の事情3
悔しい!
くそぅ。クソクソクソクソ……!!
僕はなんと惨めなのだろうか……!!
ルビナが持ち出したのであろう金や調味料を取り返すため、ルビナを連れていったエンダース侯爵の息子、騎士クレスにルビナの居所を知らないかと伺う手紙を書いた。
返ってきた返事には、ルビナは今エンダース家にいるということが書かれていた。
なぜだ……!!? と、俄には信じられなかったが、指定された日時にエンダース家を訪ねてみれば、たしかにルビナはそこにいた。
メイド服ではない高そうな服を着て、騎士クレスと並んでいた。
僕たちがあんなに大変な思いをしているというのに……!
この女はこんな立派な屋敷で暮らしていたのか!!
それを思うと腹が立ち、応接室で二人きりになったところで早急にルビナを責め立てた。
しかし、ルビナは白を切るつもりでいるらしく、僕の言葉を否定した。
焦る様子も見せず、淡々と答えるルビナは本当に可愛げがない!
『ごめんなさい、ワルター様! 私、貴方の元から離れるのが不安だったの! どうか許して!』
そう言って泣いて許しを乞えば、まぁ家に戻ってくることを許してやらないこともないと思っていたが、本当に傲慢な女だった。
腹が立ち、思わず手が出そうになったところで、騎士クレスがやって来た。
クレスは魔導騎士らしく、魔法を使って僕の体を拘束した。
なんとも情けなく、僕の体は右腕を振り上げたまま動けなくなってしまった。
わざわざ僕が出向いてやったというのに、土産のひとつも持たせないクレスとルビナに、僕は今まで生きてきた中で一番腹を立て、むしゃくしゃしたまますっかり自分の家のようになっているアイマーン家へ帰った。
「おかえりなさい、ワルター様!」
可愛いイナが僕をお決まりのセリフと笑顔で出迎えてくれたおかげで一瞬心が和みそうになったが、その背景は相変わらず散らかったままだった。
少しずつでも片付けてくれないかと思いながら「ただいま」と答えると、イナは期待に満ちた瞳を僕に向けたまま「それで、どうでした?」と聞いてきた。
もしルビナが白を切ったり、金をもう使ってしまっていた場合、代わりにエンダース邸から何かもらってこようと二人で話していたのだ。
だがそれはクレスに見透かされていた。
くそぅ、あの男……。
僕を蔑んだような目で見やがって……!!
今思い出しても腹が立つ。
「ねぇ、ワルター様。どうだったのですか?」
「……すまない、イナ。ルビナは何も持ち出していないと言い張り……土産も何ももらえなかったんだ」
可愛いイナを前に、心を落ち着けてそう言ったが、イナからは「ええっ!」という非難の声。
「では、せっかく行ったのに何もないのですか? そんなぁ、じゃあこれからどうするのですか! 私、お腹が空きました!」
自分は片付けもせずに呑気に家で待っていただけのくせに、こいつは……!!
「うるさい!! 何もしないくせに文句を言うな!!」
「……!」
思わず、大きな声を出してしまった。
すぐにハッとしてイナを見て、「ごめん」と声をかけたが、イナの瞳は一瞬で潤み、くにゃりと歪んだ。
「ワルター様、こわいです……っ」
「ごめん、悪かった、僕もカッとしていて……」
「ふぇーん! どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないのぉ、お腹が空きましたぁ、もう塩ゆで野菜は嫌ですぅ、お姉様の料理が食べたいです〜! わぁぁぁ――!」
大きな声を上げて子供のようにピーピー泣き叫ぶイナに、苛つきを覚える。
本当にうるさいなぁ。もう十六にもなったんだから、いちいち泣くなよ……。めんどくさい。
イナはたぶん、よしよしと甘やかしてくれるのを待っているのだろうが、疲れていた僕はもうそれも面倒くさくて、彼女を放置したまま自室として使っている二階の部屋へと向かった。
放っておけばそのうち諦めて泣き止むだろう。
しかし、ルビナがいてくれたら……。
深く息を吐き、自室で冷静に考えてみた。
今まであいつがどれだけこの家のことをしてくれていたのか、いなくなってみてようやくわかった。それはもう、認めざるを得なかった。
この家に……僕に必要なのはルビナだった。イナじゃない。
一度認めてしまえば、どんどんその感情が溢れ出してくる。
そうだよ、ルビナ。悪かった。
僕が間違えていたんだ。
ああ……、どうして今まで気がつかなかったんだろう。
愚かな僕をどうか許してほしい。
あいつは優しい女だから、こうして素直に謝ればきっと許してくれるはずだ。
あいつも少し意地を張っているだけで、本当は僕のところへ戻りたいはずだ。そうに違いない。
確かにエンダースの家はここより豪華で、立派で、金持ちだ。だがきっとあの騎士に何か弱味でも握られて、良いように使われているに違いない。
ルビナは他の使用人たちのようにメイド服を着ていなかったから、もしかしたら使用人というよりは、あの騎士に色々といやらしいことをされている可能性だってある。
これだから金持ちの男は下品で嫌なんだ!
金さえあれば何でも思い通りにできると思っているのだろう!
それならば今すぐにでもルビナを助け出してやらなければ!
よく考えたらルビナはとても美人だ。
イナとは違う美しさがある。
僕は今までどうしていたのだろうか。
頭がおかしくなっていたのか?
アイマーン家の跡継ぎの資格があるのも、優秀なのも、どう考えてもルビナの方だ。ルビナが相応しいに決まっている。
突然頭が冴えてきた。何か曇っていたものが晴れていくように。
そうだ、初めて彼女に会った時はその美しさに見惚れたじゃないか! ルビナとの結婚を喜んだじゃないか!
なのにあんな人形に騙されていたなんて……!
そうだ、ルビナともう一度婚約を結び直して、彼女を妻として迎え入れよう。
やはり最初からそうするのが一番良かったのだ!
うん、そうだな、そうしよう!
ルビナは、イナを可愛がる僕に嫉妬していたのかもしれない。
むしろそうだろう、それしかない。
そうと決まれば善は急げだ。
すぐにでもルビナを迎えに行こうと、僕は仕事の予定を調整した。
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