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16.メイドのメリとのお茶会

「――ルビナはクレス様のこと、どう思ってるの?」


 その日、仕事を終えたメリを私の部屋に招待して、二人で小さなお茶会を開いた。

 今日はクレスの帰りが遅くなる予定だったから、まだ少し時間があったのだ。


 けれど、メリの口から飛び出した質問に、私の胸はドキリと跳ね上がった。


「どうって……別に。主だと思っているわよ、私は彼に雇われた使用人なんだから」

「……クレス様はルビナのこと、使用人だなんて思っていないと思うけど。それに寝室が繋がっていて、この一週間何もないの?」

「ないわよ……! ない、あるわけないじゃない!!」


 メリったら、突然何を言い出すのかと思えば……。


 寝室が繋がっていることも半分忘れかけていた。

 あの一度きり以来、扉を開けたこともなければ鍵に触れてもいない。


「……クレス様のこと、好きになったりしてない?」

「まさか……!」


 私が? クレスを?


 ないない、あり得ない……!


 ぶんぶんと頭を振って、言葉より先に自分の心を否定する。


 ふと浮かんだのは、クレスの大型犬のような愛くるしい笑顔。

 思い出すと少しだけ、胸がきゅんとする。


 ……まぁ、あり得ないことはないか。


「そう。何もないならいいのだけど」

「……でもまぁ、確かに素敵な方よね。律儀だし、優しいし、真面目だし、可愛いし」

「……可愛いはよくわからないけど、侯爵家の跡継ぎという地位と、あの顔と身体に、騎士としても優秀だからね。クレス様はとてもモテるのよ」

「……」


 やっぱりクレスはモテるんだ。


 メリはあまり感情を表に出して話すタイプではない。だけど今はなんとなく、切なげに顔が曇っている。


「あの戦で怪我をされて戻られたクレス様を助けてくれたご令嬢――貴女にお礼をしに出て行った時のクレス様のお顔は、今でも覚えているわ」

「え?」

「騎士として礼をするのは当然だけど、それ以上の感情(もの)を抱えて貴女に会いに行ったのは誰が見ても明らかだった。それに前はよくお城に泊まってくることも多かったけど、貴女が来てからはちゃんと帰ってくるようになったのよね」

「……」


 メリは何が言いたいのだろうか。

 それ以上のものって、何?


「けれどクレス様の想いは叶わないということも私たち従者は知っている。でもまさか、その女性(ルビナ)を連れて帰ってきてしまったのには本当に驚いたんだから」


 クレスの思い? なに、それ。


 いまいちはっきりとしたことは言わないメリに頭を悩ませたけど、ちょうどクレスのそんな話になったから、私は思い切って聞いてみた。


「ねぇ、クレスって婚約者はいないの?」


 そんな質問に、メリは真意を探るように顔を寄せて私の瞳をじっと見つめてきた。


「な、なに……?」

「気になるの?」

「まぁ、一応……、私も従者だし?」

「……婚約者は、いないわ」

「そうなんだ」


 やっぱり感情の読み取れない表情で、尚も私を見つめながら、メリは答えた。

 その答えに私はどこかでほっとしている。


「でも、婚約者候補の方ならいるわよ」

「えっ」


 けれど、ほっとしたのも束の間。続けられた言葉にドキッと身が跳ねる。


「……ルビナも知ってると思うけど、クレス様は魔導騎士様だから……仕方ないのよ」

「……」


 はぁ、と深く息を吐いて、メリは少しだけ感情を顕にした。

 魔導騎士様だからなのかはわからないけど、侯爵家の嫡男なのだから、仕方ないのはわかる。


「お相手はツィリー伯爵の令嬢、マルギット様よ」

「……マルギット様」

「そう。エンダース侯爵の妹の娘」

「じゃあ、クレスの従妹ってこと?」

「ええ。そうなるわ」


 エンダース侯爵家嫡男の婚約者候補が従妹?

 どうしてわざわざ従妹と結婚させようとするのだろうか。


 そんな疑問が顔に出ていたのか、メリは言葉を続けた。


「マルギット様には強い魔力があるのよ。今も王宮で魔導師として仕えているわ」

「そうなの……」


 へぇー……。強い魔力があるから結婚するんだ。


 きっと、女性なのに魔導師をされているなんて、とても優秀なのだろう。


 ……私でもなれるかしら?

 ううん。きっとただ魔力があればいいというわけじゃないんだろうな……。


「でも、候補ってことはまだ正式な婚約者ではないのよね?」

「……まぁ、クレス様はできれば彼女とは結婚したくないと思っているから」

「そうなの?」

「ええ。彼女は性格がちょっとアレだから」

「……」


 続けられた言葉には、なんだか棘を感じた。性格がアレって……やっぱりアレなのだろう。うん。深くは聞かないでおこう。


「……それでもクレス様はきっとマルギット様と結婚することになるわ。他にいい相手が現れれば別だけど……まぁ、皆それをわかっているから、クレス様に直接アプローチする方はいないのよ」


 その言葉に、なぜだか胸の奥がつきんと痛んだ。

 いい相手とは、どんな女性(ひと)だろうか。


 私のような、貧乏貴族ではきっとダメよね……? なんて。


「……私たちとしては主が望む相手と結婚してほしいと思うけど……。でもクレス様も、たとえ想いを寄せる相手ができたとしても、きっとその気持ちをその方に伝えることはしないでしょうね」


 メリはまた切なげに目を細めてじっと私を見つめた。


「……」


 その視線に深い意味があるのかはなんとなく怖くて聞けなかったけど、その日はなんだかクレスのことをやけに意識してしまって、帰宅した彼の顔を正面から直視することができなかった。


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