101.大切な人たち
「あの二人、良かったな」
「ええ」
イナとルッツが踊っている姿をクレスと共に見つめながら、私は楽しそうに笑っている妹の姿に心を和ませた。
少し前……私がアイマーン領にいた頃では考えられないことだ。
あの頃のイナは人の気持ちを考えず、私のものをすべて欲しがる我が儘な子だった。
高価なものに目がなくて、伯爵家を継ぐトーマスからの誘いを断るということも以前のあの子では考えられなかったのに、イナは自らの意思でその誘いを断った。
トーマスも覚悟はできていたのか、案外あっさりと身を引いてくれた。
彼は色んな意味で諦めの早い性格をしているような気がする。
ともかく、父親のようにならなくて良かったと、心のどこかでほっとしている私がいる。
あの子がルッツへの気持ちを自覚して取った行動かはわからないけれど、彼を選んだイナの表情は元婚約者であるワルターと一緒にいるときのものとも違った。
ルッツと話すときだけはあの子の口調が砕けたものになるのも、私は気づいている。
「二人はどうなるのだろうか」
「さぁ……でもきっと、なるようになるわよ。とりあえず今日は二人とも楽しそうだから安心したわ」
「そうだな」
イナとルッツのダンスは、あまり上手とは言えないものだった。
けれど二人とも本当に楽しそうだから、そんな姿を本当の兄のような優しい眼差しで見つめているクレスの頬も緩んでいる。
「それじゃあ、安心したところで俺たちも楽しもうか」
「ええ……」
そしてクレスは、いよいよ私に手を差し出した。
練習はしてきたけど、やっぱり緊張する。
だってクレスは相変わらず注目を集めているから。
――昼間の試合、ご覧になりました?
ああ、クレス様とエルヴィン師団長の魔法対決!
もちろん拝見いたしましたわ。クレス様が魔力付与した指輪が奥様を守ったのよね。
そうよ。愛の力よ。素敵よねぇ――。
〝二人は一体どんなダンスを披露するのかしら〟
「……」
そんな言葉があちこちから耳に入ってくる。
正直、逃げ出してしまいたい。
私のせいでクレスが恥をかいてしまったらどうしようと、不安になる。
「大丈夫だよ、ルビナ。練習通りに踊ればいい」
「……そうね」
けれど私が緊張の色を顔に浮かべたせいか、クレスは耳元で優しくそう囁いてくれた。
……そうよ。大丈夫。
私は、クレスが選んでくれた女なのよ?
誰よりも自信を持って、堂々としていなくちゃ。
真っ直ぐにクレスだけを見つめて、音に耳を傾けながら落ち着いた気持ちでステップを踏む。
繋がれた手も、腰に添えられた手も、どちらも温かくて。視線の先には優しく微笑んでくれているクレスがいて、私の中はクレスでいっぱいになる。
私の主人は、とても格好良い。
――お二人とも、素敵ねぇ……。
本当。息がぴったりだわ。
ルビナ様って、とても優秀な魔導師なのよね。なんでもフランツ殿下を解毒したとか。
ああ、鉱山で起きた事故も、ルビナ様の回復薬のおかげで皆助かったそうだね。
凄いわよねぇ。あんなに腕の良い魔導師がいたなんて……。
クレス様の奥様だもの。当然だわ。
〝本当に、よくお似合いで〟
耳に届いたそんな言葉に、力んでいた力も徐々に抜けていく。
「皆が君の噂をしているね」
「貴方が目立つからよ?」
「君が美しいからだよ。……妬けるなぁ」
「もう、クレスったら」
冗談みたいに唇を突き出して言ったクレスと、ふふっと笑い合って、そっと彼のたくましい胸に頭を預ける。そうすれば腰に添えられていた彼の手にもきゅっと力が入った。
「俺の可愛い奥さん。これからもずっと二人でいような」
「ずっと二人というのは無理よ」
「えっ?」
そっと囁かれたクレスの言葉を否定した私に、彼は不安そうに眉尻を下げた。
大きな犬が耳としっぽをしょげさせている光景が頭に浮かぶ。
「だって、新しい家族が増えていくのは悪いことじゃないでしょう?」
「……ルビナ、それは、つまり……」
私の主人は大きな犬系騎士様――。
これからも貴方と共に、たくさんの愛する家族を増やしていきたい。
第三章、最後までお付き合いいただきありがとうございました!!
面白かった!おめでとう!などと思っていただけましたら、☆☆☆☆☆にて祝福の評価をいただけると、とっても嬉しいです!!(*´˘`*)
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