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許されないこと

はっきり言って。

あの時、妹は1歩間違えれば死んでしまうところだった。


知識もなく、自分の中にある力もろくに理解していなかった私の中で暴走した魔力は、私の身をある日いきなり蝕んだ。

自分の手が氷のように冷たくなったのだ。

パリパリと肌が氷になってく音と、刺すような冷えと痛み。

あまりに痛くて、冷たくて、誰かに助けて欲しくて私は妹に手を伸ばした。

「助けて」

泣きながら手を伸ばす私に私より一歳年下の妹は状況も判らず咄嗟に手を取ったのだろう。

勿論、その氷のような冷たい肌は妹の手を焼いた。

「お母さん!お父さん!」

それでも妹は私の手を離さず、父親と母親に助けを求めた。その間も音を立てながら周りを凍らせ、とめどない魔力に怯えて泣く私と早く来て、と泣き叫ぶ妹の声に駆けつけた母親は妹を私から引き剥がし、父親は毛布にくるんで街の医者へと抱えて連れて行ってくれた。

そして薬を打たれ、暫く病院で暮らすように言われた。

魔力の暴走も収まり、家へ帰ると妹が良かったと顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら抱きついてきた。

そして私は知った。

妹の手に、凍傷のあとが残った事を。


妹は気にしていないと言った。

母親も父親も、あまりに気に病まないでね、と私を慰めてくれた。


妹はとても可愛い顔をしている。

橙色の太陽のような髪に、茶色の瞳。

コロコロ変わる表情に満面の笑み、どこをとっても可愛いという言葉が似合う彼女に消えない傷を付けてしまった。

私は妹がその傷が原因で男の子から揶揄われていたのを知っている。

妹は見た目こそお人形さんのようだが、中身は殆どガキ大将レベルのお転婆なので全員蹴散らしていたが。


だが私を気にかけあの時も手を離さず居てくれた彼女を私は傷つけてしまった。

父母も、大切な娘が傷つけられたと言うのに私には一度も怒らなかった。

いっそ怒ってくれた方が、まだ良かった。


その時のことを思い出すときゅっと心が冷えていくような感覚に襲われる。

「ごめんなさい」

何度も謝った。だが謝る度に謝らないで、と言われてしまった。

行くあてのない言葉はいつも自分が独り、あの時のことを思い出している時にこぼれる。


あの時から私は人と接触するのを避けた。

普段から肘まである白い手袋を欠かさず、なるべく人に触れないよう生きてきた。



ハッと顔を上げればもう家を出る予定の時間で、慌てて残りの身支度を終わらせる。

こんな私を受け入れてくれた優しすぎる家族に、せめて恩返しをしなければ。

そして、もう二度と暴走を起こさないためにもあわよくばあの魔法使いさんに魔力の使い方を教えてもらおう。

その思いで、私は店の裏口から外へ出た。


今日も、バイトへ行く為に。

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