表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

ターン2

「アーサー王子、よくぞご無事で」

「セオ!」

 アーサーは、仲間を誰一人失うことなく、グレダの森に隠れていた騎士達に会うことができた。

 なにせこの森で魔物の襲撃を受けるのは二度目だ。どこに何体潜んでいるのか分かっているのだから、それらを撃破し森を進むことは然程難しいことではなかった。

 グレダの森にいたのは十数名の騎士と、彼らに守られた三十名余りの王国の民。

 何より嬉しかったのはその中に副騎士団長のセオがいたことだ。

 セオは昔からアーサーの憧れの存在だった。王子の地位にへりくだることなく、厳しくも優しく接してくれた。副団長の地位についてからも、忙しい職務の合間に、剣を教えてもらっていた。城の庭で剣を交えたあの穏やかな日々が、昨日のことのように脳裏に浮かぶ。


「セオはまた老けたんじゃないか?」


 出会ったころは、まだまだ若者の域をでなかったが、今ではすっかり渋みが増し、威厳が備わっている。在りし日を懐かしみ、気安い口調で軽口を叩けば、セオもまた以前のように剣の柄に手をやって答える。


「口が達者なのは、相変わらずのようですな。どれ、減らず口が叩けぬよう、稽古をつけてさしあげましょうか」

「お前は、十にも満たぬ俺にも、容赦がなかったな」


 勉学の時間にこっそりと部屋を抜け出し、騎士達の訓練に混ざりにいっては、セオに扱かれた。兄たちは苦笑まじりに、兄弟の中で一番腕白なアーサーを眺めていた。ずっと続くと思っていた温かい時間を思い出し、熱いものがこみ上げる。アーサーはそれ無理やり押さえ込んだ。


(もう子供ではないのだ。泣くわけにはいかない!)


 そうアーサーが決意するのと同時に、追想の時間は唐突に終わりを告げた。


「アーサー。奴らが現れた!」

「なに!?」


 警戒に当たっていたウィルが血相をかえて飛び込んできたのだ。

 セオがアーサーの前に跪く。


「王子、ここにいる民の命をなんとしても守らねばなりません。どうかお力をお貸しください」

「当たり前だろう、セオ。大丈夫。彼らはここまで異形に打ち勝ち進んできた者達だ。それに、お前が率いる騎士達もいる。負けるわけがない。皆、討って出るぞ! ミキューネに勝利を!」

「ミキューネに勝利を!」


 アーサーの声に皆が呼応する。



「そんな……。セオ! しっかりしろ。セオ!」


 空を飛ぶ魔物に襲われ、落馬したセオにアーサーは駆け寄った。セオの首は鉤爪で切り裂かれている。致命傷だった。

 戦いは味方の数が増えたおかげで、優勢かと思われた。ところが羽を持つ魔物が現れ、騎士達の剣をかいくぐり、民を襲い始めたのだ。

 セオは常に一番危険な場所に身を置いて剣を振るい、傷を負ったにも関わらず、いち早く民を助けに入り、犠牲になった。


「王子、いけません。隊列を離れては、危険で……す…」

「一番に離れたお前に言われたくはない! なぜ、こんな無茶を」

「王子は、この国の宝。貴方がいなければ、ミキューネは……。どうか王子、国を、民を、お頼みいたします」


 そう言い残すとセオは目を閉じた。


「セオ! セオ!」


 アーサーは血にまみれたセオの体を揺すった。


「アーサー!! 危ない!」


 悲しみにくれるアーサーに、新たに現れた魔物が襲いかかる。ウィルが庇いに入るが、間に合わない。アーサーの首に魔物の牙が食い込んだ。


「ああ、セオ。すまない、俺もここまでのよ……うだ…」


 ――と、思ったのに。


「ミキューネに勝利を!」


 アーサーは目を瞬いた。隣には抜き身の剣を突き上げて、戦意を鼓舞するセオの姿。


「これは……」


(また、戻ったのか!?)


※※※※※


「また、死んだー」

 

 真里はコントローラーを、床に置いて、ビールに手を伸ばした。

 敗因は分かっている。セオの勇姿を見たくて、必要以上に彼を酷使しすぎたのだ。


「いや、でもおかげで目の保養になったわー。セオ様、やっぱり素敵すぎる」


 剣を振るう姿。傷を負っても気丈に振る舞う姿。重傷を負って呻き声を零す姿、民を庇って散る姿。どれも最高だった。特に掠れた声で、途切れ途切れに王子に国の未来を託すシーンは格別だった。

 その王子はすぐに後を追ったけど。


「確か回収したシーン……別に見られないんだよねえ」


 ぽちぽちとあちこち開けて、システムを見直し、ため息をつく。


「後半になったらやり直すのも面倒だし、人数の少ない今のうちにもう一回見とくか! 次は王子の他のキャラも側に配置しとこーっと。ひょっとしたら託す言葉が違うかも」


 真里は鼻歌交じりにスタートボタンを押した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ