ターン2
「アーサー王子、よくぞご無事で」
「セオ!」
アーサーは、仲間を誰一人失うことなく、グレダの森に隠れていた騎士達に会うことができた。
なにせこの森で魔物の襲撃を受けるのは二度目だ。どこに何体潜んでいるのか分かっているのだから、それらを撃破し森を進むことは然程難しいことではなかった。
グレダの森にいたのは十数名の騎士と、彼らに守られた三十名余りの王国の民。
何より嬉しかったのはその中に副騎士団長のセオがいたことだ。
セオは昔からアーサーの憧れの存在だった。王子の地位にへりくだることなく、厳しくも優しく接してくれた。副団長の地位についてからも、忙しい職務の合間に、剣を教えてもらっていた。城の庭で剣を交えたあの穏やかな日々が、昨日のことのように脳裏に浮かぶ。
「セオはまた老けたんじゃないか?」
出会ったころは、まだまだ若者の域をでなかったが、今ではすっかり渋みが増し、威厳が備わっている。在りし日を懐かしみ、気安い口調で軽口を叩けば、セオもまた以前のように剣の柄に手をやって答える。
「口が達者なのは、相変わらずのようですな。どれ、減らず口が叩けぬよう、稽古をつけてさしあげましょうか」
「お前は、十にも満たぬ俺にも、容赦がなかったな」
勉学の時間にこっそりと部屋を抜け出し、騎士達の訓練に混ざりにいっては、セオに扱かれた。兄たちは苦笑まじりに、兄弟の中で一番腕白なアーサーを眺めていた。ずっと続くと思っていた温かい時間を思い出し、熱いものがこみ上げる。アーサーはそれ無理やり押さえ込んだ。
(もう子供ではないのだ。泣くわけにはいかない!)
そうアーサーが決意するのと同時に、追想の時間は唐突に終わりを告げた。
「アーサー。奴らが現れた!」
「なに!?」
警戒に当たっていたウィルが血相をかえて飛び込んできたのだ。
セオがアーサーの前に跪く。
「王子、ここにいる民の命をなんとしても守らねばなりません。どうかお力をお貸しください」
「当たり前だろう、セオ。大丈夫。彼らはここまで異形に打ち勝ち進んできた者達だ。それに、お前が率いる騎士達もいる。負けるわけがない。皆、討って出るぞ! ミキューネに勝利を!」
「ミキューネに勝利を!」
アーサーの声に皆が呼応する。
「そんな……。セオ! しっかりしろ。セオ!」
空を飛ぶ魔物に襲われ、落馬したセオにアーサーは駆け寄った。セオの首は鉤爪で切り裂かれている。致命傷だった。
戦いは味方の数が増えたおかげで、優勢かと思われた。ところが羽を持つ魔物が現れ、騎士達の剣をかいくぐり、民を襲い始めたのだ。
セオは常に一番危険な場所に身を置いて剣を振るい、傷を負ったにも関わらず、いち早く民を助けに入り、犠牲になった。
「王子、いけません。隊列を離れては、危険で……す…」
「一番に離れたお前に言われたくはない! なぜ、こんな無茶を」
「王子は、この国の宝。貴方がいなければ、ミキューネは……。どうか王子、国を、民を、お頼みいたします」
そう言い残すとセオは目を閉じた。
「セオ! セオ!」
アーサーは血にまみれたセオの体を揺すった。
「アーサー!! 危ない!」
悲しみにくれるアーサーに、新たに現れた魔物が襲いかかる。ウィルが庇いに入るが、間に合わない。アーサーの首に魔物の牙が食い込んだ。
「ああ、セオ。すまない、俺もここまでのよ……うだ…」
――と、思ったのに。
「ミキューネに勝利を!」
アーサーは目を瞬いた。隣には抜き身の剣を突き上げて、戦意を鼓舞するセオの姿。
「これは……」
(また、戻ったのか!?)
※※※※※
「また、死んだー」
真里はコントローラーを、床に置いて、ビールに手を伸ばした。
敗因は分かっている。セオの勇姿を見たくて、必要以上に彼を酷使しすぎたのだ。
「いや、でもおかげで目の保養になったわー。セオ様、やっぱり素敵すぎる」
剣を振るう姿。傷を負っても気丈に振る舞う姿。重傷を負って呻き声を零す姿、民を庇って散る姿。どれも最高だった。特に掠れた声で、途切れ途切れに王子に国の未来を託すシーンは格別だった。
その王子はすぐに後を追ったけど。
「確か回収したシーン……別に見られないんだよねえ」
ぽちぽちとあちこち開けて、システムを見直し、ため息をつく。
「後半になったらやり直すのも面倒だし、人数の少ない今のうちにもう一回見とくか! 次は王子の他のキャラも側に配置しとこーっと。ひょっとしたら託す言葉が違うかも」
真里は鼻歌交じりにスタートボタンを押した。