愛しい人の存在
梅雨は大嫌いだ。洗濯物は乾かない、一日中じめじめしている、そして…偏頭痛か起こりやすい。
連日の雨に頭痛が治まらなかった。毎日毎日頭がズキズキして話すこともままならなかった。
「死んでしまいたい…」
それは手術してから3日目の夜だった。あの日から続く頭痛と自分の至らなさに心がすっかり弱っていた。こんなにつらい思いをする位なら死んだ方がましだ。
大抵の人は頭痛もちであれば常備薬の痛み止めを持っている人は多いと思う。だが私は体質のせいか痛み止めは一切効かない。麻酔もあまり効きがいいほうではないと思う。
連日布団の中で丸くなって寝ている私に祐輔は何も言わない。掃除もしてないし もちろん風呂も沸かしていないそんな家でも祐輔はまっすぐ帰ってきて 私を抱きしめて『ただいま』と言ってくれる。寝るときは私を抱きよせて寝てくれる。朝は『行ってきます』と言ってくれる…その優しさが私の唯一の救いだった。
翌日は雨は上がって晴れ間も見え、偏頭痛も治まった。気分も少しよくなったので仕事場に顔を出すとみんな私に声をかけてくれた。どうやら連日の雨で私が頭痛で寝込んでいると祐輔が言ってくれていたようで
「雨も上がったからそろそろ来てくれると思ってた」
と歓迎してくれた。仕事はやはり溜まっていてどうやらてんてこまいしていたらしい。
「ひなちゃんが出てきてくれて本当に助かったよ。俺 今夜寝れなかったかもしれない」
そういう兄にみんなが一斉に笑い出した。久しぶりの笑い声だった。
久しぶりに明かりのついた部屋に戻ってきた祐輔は帰るなり台所にいた私をぎゅっと抱きしめてくれた。一番心配していたのは彼に違いない。
「ゴメンね、ありがとう」
「謝ることはないよ。元気になってよかった」
「うん、偏頭痛はよくなったから…元気だよ」
「よかった、ホントによかった…」
「うん…」
結婚してよかった…こんなに心配してくれる人が傍にいてくれる。私は祐輔の愛をすごく感じていた。
予想通り祐輔の仕事は出張が増えてきた。夏が過ぎ、秋が近づく頃になると外国へ…ドイツへ出張に行く事になった。期間は10日。
「ドイツってお土産何があるのかな?ウインナー?」
寂しい気持ちを打ち消すようにわざと楽しみっぽく振舞うと 祐輔は寂しそうな顔をして私を抱きしめた。でも私は寂しいとはいわなかった。それを言えば彼は余計罪悪感を感じるだけだ。それにいつまでもこのプロジェクトはあるわけではない。いつか祐輔はこの仕事から離れるのだ。
そんな日々が続き、すっかり冬の気配を感じ始めたある日、私はまた妊娠した。




