もう一度…
「ぬいぐるみ どうするの?」
「明日 あかりの家に行くのでお土産」
「なるほどね」
ゾウとキリンのぬいぐるみを選んでいた。本当は同じものを2つの方が喧嘩にはならないんだけど、ゾウが2つあっても仕方ない気がする。手触りが柔らかくて結構お気に入りだ。
「ひなたってぬいぐるみとか好きだろ」
「………う…ん…」
「前から買い物に出かけると必ず見てたから。その割には買うことなかっただろ?何で?」
「だって私のイメージじゃないでしょ?よくすっごいスタイリッシュな家具の部屋に住んでそうって言われる…」
「まぁ…でもお前 結局はコタツにごろ寝だろ?それでコタツの上のみかんは美味しい順番に並べていて 人が間を食べると怒って…」
「ああああああーー!忘れてよ。そういう人に言えないことは忘れて!」
「別に人に言えないことじゃないだろ」
半纏を着て、コタツの上のみかんを美味しい順番に食べてアイスを食べる時間が至福とかそんなこと普通に人に言えるわけない。やっぱり1年も一緒に過ごしたこの男は何でも知っている。
夕飯はスーパーで買い物をしたので2人で作ることにした。世間話をしながら久しぶりにTVを見てゆっくりした時間を過ごす。
「ひなたも飲む?」
風呂から上がった樋口が冷蔵庫からビールを取り出した。もともとお酒は好きではない。付き合い程度で飲むが、すぐ顔が赤くなるので人もあまり勧めてこないのだ。ソファーで座ってペットボトルの水を飲んでた私は首を横に振ると彼はビールを片手にやってきて、私の手を引っ張った。彼はソファーを背にすわり、私は彼に後ろから抱きしめられるように2人とも床に座っていた。
「な…なに?」
先に風呂に入った私は髪をアップにしていたので彼の息がかかる首がくすぐったくて離れようとするが 彼は離すつもりはないらしい。
腕の力の強さに鼓動がドクンと鳴ったような気がした。彼は私に顔を見られたくないのかもしれない。私は逃げようとしていた体から力を抜くと彼は話し始めた
「ひなた 俺がバツ1だって知ってるだろ?離婚の理由も知ってるか?」
「うん……たぶん…」
そういう話は隠していても広がってしまう。樋口の元奥さんの浮気で離婚になったとあかりから聞いていた。
「俺さ、あいつが浮気してたって聞いてショックだったけど 離婚するのにあまり辛くなかったんだ。もともとあいつのこと好きだったのかと言われたら嫌いじゃなかったとしか言えないくらい…それくらいだったんだ」
「それ…ちょっと酷いよ」
「そうだな、かなり酷いよな。結婚して俺は仕事ばっかりしてて あいつにかまってやらなかった。まあ仕事が当時立て込んでいて忙しかったのもあるんだけどそんなのわかってると勝手に思ってたんだ。だから…結婚する前に付き合ってた男と浮気された」
「結婚する前って…元彼ってこと?」
「いや、元彼って言うか…あいつ俺と二股かけてたんだよ。俺の方が収入があって出世しそうだから俺と結婚したらしい」
樋口の喉がゴクリと鳴った。きっとこのことは奥さんから言われるまで樋口は知らなかったのだろう。彼の絶望感が手に取るようにわかった。
「お前と付き合い出して俺は…怖かった。だんだん好きになって絶対他の男に渡したくないって思うけど、俺は不器用で仕事くらいしか趣味はなくて…お前を退屈させてたりはしないだろうか?こんな俺に愛想つかしていつか離れて行くんじゃないかとか…」
樋口がある日突然私に『寂しくないか?』と聞いた時のことを思い出した。彼は私に自分にかまってもらえなくて心が寂しくないかと聞いたのだろう。私は何のことやらわからずに色々やることがあるから寂しくないと言った気がする。
「お前から別れたいって言われて 仕方がないって思った。もともと俺はお前より一回り以上離れたおっさんだし、バツ1だ。それに…俺に特別魅力がないのもよくわかっている。だけど………… 俺はどうしても諦めきれない」
ついていたTVから声が聞こえているが内容なんて全く耳に入っていなかった。ただ抱きしめられている腕の力強さと温かさだけはわかる。
「ひなたがどうしても結婚したくないって言うなら結婚しなくてもいい。もちろんお前は遠距離は無理だって言うのも知っている。これはまだ正式発表じゃないけど6月くらいに名古屋に転勤になると思う。だから遠距離じゃなくなる。…俺の傍にいてくれないか?」




