第三話
「エレオノーラ様、本日はとても天気がいいですよ。お庭にお散歩に出ませんか?」
あれから、エレオノーラの生活は一変した。家の中では、常に侍女の手を借りて歩き、食事も、1人で食べれるように簡単なものに変えてもらい、屋敷から出るときは高確率で殿下の付き添いがついている。
ただでさえ少なかった社交の場はほとんどなくなってしまった。
エレオノーラは、盲目を理由に婚約解消を申し出たが、王家総出で却下されてしまった。
「なぜなの・・・」
ゲームの中でのエレオノーラはこんな状態じゃなかった。
当たり前に目は見えていたし、殿下にも嫌われていた。
今の状況は全てにおいて真逆に位置する気がする。
「エレオノーラ。庭に散歩に出ようか。」
突然聞こえた殿下の声。
「殿下!応接室でお待ちくださいと!」
応接室に案内したのに私の私室まで勝手に来てしまったようだ。
正直、紳士さを求められる殿方にあるまじき行動である。
「殿下、きてくださるのは嬉しいですが、うちの侍従を困らせるのはお辞めくださいね。」
殿下の行動を我が家の執事たちは止められない。言葉で多少止めるくらいしかできないので、あまり勝手な真似をされるとみんなが困るのだ。
「エレオノーラに早く会いたくてね。気をつけるよ。」
その言葉は何度も聞きました。毎回毎回気をつけると答えてはいるけど、行動は一切変わらない。
もう諦めて、殿下に手を引かれながら歩く。
向かう先は中庭だ。
中庭に出る扉を開けると花の香りを感じる。
我が家自慢の中庭だ。
バラやガーベラ。この時期であれば、ネモフィラも綺麗に咲いている頃だろう。
「これはこれはお嬢様。今日もみんな綺麗に咲いてくれていますよ。」
少ししゃがれたこの声は、庭師のジルだ。
腰が曲がり始めて、いい歳ではあるが、我が家の庭の手入れだけは弟子たちに譲ることはせず、自らが行う。
もはや我が家専属の庭師である。
「エレオノーラ、こっち向いて。」
ジルの方に向いていた顔を殿下の方に向けると、耳のあたりに何かを挿された。
「うん。やっぱりエレオノーラの銀髪に赤薔薇がよく似合うね。」
薔薇を挿されたらしい。でも、棘の感じは一切ないので、棘の処理はされているらしい。
「本当は、君の宝石みたいな瞳と同じ青薔薇が良かったんだけどね。・・・ねえ、目を開けて」
殿下に頬を撫でられ、そう言われる。
目は見えていないに、目を開けていると、誤解をされるため、目は常に閉じているようにしていた。
どうせ、開けても閉じても真っ暗な世界は変わらない。
でもまあ、拒否する理由もないため、瞼を上げた。
「うん、やっぱり綺麗だ」
「ありがとうございます。」
あまり自分の瞳は好きではない。
他の人たちとは少し違った自分の瞳。
宝石を埋め込んだようなその瞳を、会う人たちは皆綺麗だと言ってくれるが、裏では気味が悪い、気持ち悪いと言われていることを知っているから。
「僕の前でだけは、開けていてくれないかい?君の瞳が見えないのは寂しい」
「殿下は、物好きですわ」
「そうでもないよ」
笑いながら答える殿下に、本当に物好きだなと再三思うが、殿下が望むなら、まあいいかとも思う。




