第二十話
「エレ、どうした?どこか痛いのかい?」
ヴィの声にハッと意識を戻す。
何が起きているのかと思えば、目から一筋の涙が流れていた。
「あ・・・ヴィ・・・」
目が覚めてすぐに自分の視界がいつもと違うことに気がついた。
瞼を開けても常に真っ暗だった世界が、明るく輝いていた。
白くぼやけた世界ではあるが、確かにヴィの色をそこに捉えることができていた。
「色が・・・見えるのです・・・」
そう言いながらも涙を止めることができそうになかった。
10歳の時から6年もの間感じることができなかった色彩を今直に感じて、感動で止められるわけがない。
「エレ・・・」
「ヴィは、相変わらず綺麗な青をお持ちですね。」
上の方にある青いヴィの神に手を伸ばせば、触れやすいように屈んでくれる。
小さい頃に見ていたヴィの青がすぐ目の前にある。
「エレ。本当に、見えているのかい?」
私の肩口に頭を乗せながら、不安そうに聞いてくるヴィの頭を優しく撫でる。
「輪郭ははっきりしませんが、おおまかな色はしっかりと見えていますよ。」
「もう見ることはできないと覚悟していました。私の大好きな青色です」
そう、しっかりと伝えれば、勢いよくヴィに抱きしめられる。
「ダメだ。言葉にならない」
ヴィも泣いて喜んでくれているのか、少し涙声だった。
その後、王城に戻り、仕事で登城している父の元に向かった。父のそばには陛下と王妃様のお姿もあった。
「お父様」
近くによれば見えてくる銀髪の後ろ姿に声をかければ、すぐに振り向いてくれた。
「エレ、どうした?珍しいね、私のところに来るなんて。」
「私、色がわかるようになりました。」
輪郭はぼやけて見えないから、本当に色しかわからないけどと付け加えながら報告をすれば、手に持っていたであろう書類たちの落ちる音が聞こえた。
書類を落として、本来ならお小言が飛びそうな場面ではあるが、陛下も王妃様も驚いているのか、言葉は聞こえない。
「お、お父様?!」
「エレオノーラ・・・!」
私なんかよりもずっと体格の大きい父に抱きかかえられ、くるくると回される。
そんな横で明るく、期待するような声で問いかけてきたのは王妃様。
「お父様・・・!降ろしてくださいな!」
「嬉しいのはわかるが、少し落ち着かないか」
「ああ、すまない。嬉しくてついな。もしかしたら、治るような奇跡が起きるかもしれないな。」
父の嬉しそうな言葉に私は小さく頭を振った。
「色を見ることができるだけでも嬉しいんです。これ以上何かを求めては、今ある大切なものを失ってしまいそうです。私は、この先の不確定な未来より、今手元にある幸せを大切にしたいです。」
色をまた見ることができただけでももう十二分に奇跡は起きている。
奇跡はそう何度も起きるものじゃない。
期待したらその分落胆も大きくなるので、私は多くは望まない。
「大丈夫だよ。今ある幸せを失わせたりなんかさせない。エレの幸せは僕が必ず守るから。エレはもっとわがままになろうよ。」
「そうだ。エレオノーラはもっと多くを望んでいいんだぞ。」
「エレオノーラはもう十分に苦労をしてきた。もっとわがままになるくらいがちょうどいいんじゃないかい?」
ヴィに両手を握られ、お父様には頭を撫でられる。そして陛下からも温かい言葉をかけてもらった。
今感じる幸せ以上のものを願うことはしたくない。そんな決意が彼らによって崩れていってしまう気がする。
できることなら、しっかりと自分の目でヴィや他の人を見たい。
リリアナ様たちや、学園のクラスメイトたち、街の人たちがどんな表情で話して、笑っているのかを見てみたい。
そんな叶いもしないわがままを今まで自分の中で潰してきたが、少しだけなら、許されるのかな。




