第3章8 『激昴』
お待たせいたしました
次回は来週水曜日予定です。
あの皇と言う男の事情を知ったメイド達は、メイド長の指示により翔を呼び出すことになった、本来ならば何も伝えずにそっとしておくのが一番なのだが、事情が事情な故に話す事を決意し、全てを翔に知ってもらう事となった。
メイド達は翔を休憩室に再び呼び戻し、メイド長と2人だけの空間となる、なんの話をするのかと翔は最初わからずにいたが、メイド長から出てくる重い空気で察しがついた様で、背筋を伸ばし話し出すのを待っていた。
何から話せばいいのかメイド長は迷っていたが、遠まわしに話すのも変な感じだと考えたメイド長は、率直にあの男のことについて話し出す。
「翔さん、落ち着いて話を聞いてくださいますか?」
「わかりました、でも内容次第です」
「…………」
その言葉を聞いたメイド長は深呼吸を一度挟み、皇の真実について語り始める、知ってしまったからには本人にだって知らせなければならない、義務感という訳では無いが黙ったまま見過ごすことがメイド長にはできなかった、何も知らずに仲良くなり、何も知らずにまた交わり始める、その中で見えない闇が天羽家を飲み込むかもしれない、一番傷つくのは間違いなく母の万緒歌になる。
もしこの場で話さずにその事実を知ってしまったら、翔が彼をどうしてしまうかすら検討がつかない、だからこそ今少しでも知ってもらい、直面したその時に冷静な判断ができるように話をする。
「皇近似、貴方のお母様が経営する会社の秘書です」
「それは会場で聞きました」
「では、本題に入ります。その皇は………」
次に出す言葉を声にすれば翔はどうなるのか、絶望するのかまたは怒りをあらわにするのか、恐らく後者だ。
仲間意識が高く、今まではその事が原因で家族から距離を開いていた翔、ようやく家族との距離が縮み始めた中でまた最悪な事態が起ころうとしている、翔が距離を開いていた理由の主は万緒歌の未帰宅とその男だ、その最悪な原因はまたその男によるもので、さらには色々な女性と関係を持っては遊んでいる。
さすがのメイド長も言い淀む、どんな伝えかたが一番なのだろうと、翔が怒らないようにするにはどうすればと、だが悩んでいては仕方がない、しっかりと伝えなければ家族全員がまた疎遠に成りかねない。
「あの男は複数の女性と関係を持っています」
「………は?」
「私、いえ、私達も最初は何かの嘘だと思っていました」
そこからかいつまみながら話をする、メイドの数人が何回か合コンの場で目撃していた事、合コンサイトにある掲示板に彼が投稿したであろう文章や画像を見つけた事、何より天羽デザインのバッジを付けていた画像が鮮明に写っている事を隠さずに話した、証拠になる画像も翔に見せては説明を繰り返す、メイド長はチラチラと翔の表情を見ていた。
屋敷ではひょうひょうとしていたり、氷華と居ると調子を狂わせた様な苦笑いをしたり、美歩佳とゲームをしている時にニコニコしている表情をしたり、真面目な話になるとキリッとした表情しか見せなかった翔、だが今の表情は見たことのないものだった。
メイド長から渡されたスマホはギシギシと悲鳴をあげる、強く握りしめられているのがわかる、静かな部屋だからこそ痛いくらいにメイド長の心に伝わってくる、今の翔の表情は『本気で人を殺しかねない』位の形相、家族の1人が騙されていると知ったことにより、翔の中に眠っていた鬼が目覚めようとしていた、メイド長も少し恐怖に駆られ始める。
今少しでも話しかければ何かあるかもと、こんなにも怒りに満ちている翔を見たのは初めてだと、震える手をもう片方の手で握りしめて耐える。
「あのクズ………人んちの家族騙してやがったのか……喧嘩売ってくれんじゃねぇの、なぁ?」
「か、翔さん落ち着いてください」
「あんな人間腐った奴に騙されてんのかよ……そうか、1回わからせねぇとわかんねーのか」
「だ、ダメです翔さんッ! 暴力だけはダメです!」
「うるせぇ!!! てめぇは黙ってろッ!!」
「ひっ!?」
完全に我を失ってしまった翔はメイド長に強く当たってしまう、あの時のメイド達の会話を思い出す、翔は今でこそ更正する為に努力し真面目にやってきた、ルール違反も幾度としてきたがそれでもしっかり謝ってきた、だが忘れてはいけない事がある、翔は腐っても元『暴走族総長』だ、怒り狂えば相手を無視してでも傷つける。
チームに居た頃は喧嘩自体ご法度だったが、もちろん溜まりにたまる事もしばしばあった、しかし今回は事情をが全く違う上に家族を騙されてると知ればこうなることも理解できる、今の翔は執事でも何でもなく『天羽翔』なのだ。
「あの男を探し出す」
「探すって、どうやってですか!?」
「んなこと知るかよッ」
「無茶です! 待ってください!」
「離せやコラぁ!! どけやッ!?」
勢い良く立ち上がる翔を腰に抱きつき、休憩室から出さないようにと踏ん張るメイド長、翔は立ったと同時にパイプ椅子を蹴り飛ばした、その音は廊下にまで響いた上に翔のキレた言葉も外にまで伝わっていた。
扉が開くと慌てて複数のメイド達が翔を抑え込む、このまま行かせれば間違いなく皇をどうにかしてしまう、そうなれば翔自信にも罪になる上に今まで築いた事が台無しになる、それをさせない為にメイド達は翔を必死になだめながら抑えるが。
「離せって言ってんだろがァッ!?」
「きゃっ!? い、いけません翔さんっ!! 貴方にはやるべき事が!」
「知るかんなことはッ!! 離せやッ!!」
「きゃあっ!?」
メイド達を力強く突き飛ばす翔、身体が軽くなったとわかったら走り出す、はずだった。
あまりの騒ぎに説明を受けた氷華が翔の目の前に現れた、翔はそれを無視して歩き出そうとしたが腕を掴まれる、それを振り払わずに舌打ちをする翔、氷華はずっと翔を睨みつける。
翔は一瞬だが目を逸らす、それを隙だと氷華は気づき翔に向かって言葉を走らせる。
「何処に行く気よ」
「てめぇには関係ねぇよ、どけ、手を離せ」
「関係あるわよ」
「いいから離せよッ!?」
突き飛ばしたメイド達は腰が抜けてしまい立てない、言い合ってるのをただただ見ているだけになってしまった、力強く冷静な氷華を見ていたメイドだがある事に気づく、氷華の足と手は震えている、だが真っ直ぐに翔の目を見て話している。
今にも氷華を突き飛ばす勢いがある翔、どうすることもできないメイド達はただ見守って居る中、氷華の手は翔により振り払われた。
だが氷華は次に翔の襟元を掴み、ある物を見せつけながら強く言いつけた。
――――この襟に付けたバッジは何よッ!!?
その時翔は氷華の目を見てハッとする、涙を流しながら強くその襟についたバッジを翔に見せつける、七宝家の執事である証のバッジ、一度は失った翔の使命である証。
それでも再び執事として戻ってきた翔は、もう困らせないと誓ったはずなのに今度は仲間を傷つけてしまった。
そう『守る為に傷つけ』てしまった、襟を強く握りしめている氷華の手も震え、ゆっくりと首を動かし視線を下げればメイド達は真っ青な表情をしている、自分が大事にしていた『絆』を自分で傷つけてしまった、何が一番大事だとかは関係ない、一番大事なことは『周りを信じてやる』事だ、目先のことばかりを気にしていれば周りが見えなくなり正しい事が分からなくなる。
怒りは静かに落ちていく、氷華の手首を強く握りしめていた手はゆっくりと降りていった、翔が自我を取り戻したことを確認した皆はゆっくりと立ち上がり、メイド長は翔に近づく。
「大丈夫です、きっと大丈夫ですから」
「メイド長………」
「翔、話は全部聞いたわ。必ずあの男にはわからせる」
「俺もアイツだけは許せない」
「でも暴力はダメよ、それ以外でなんとかするわ。七宝家の力を使ってね」
普段はそんなこともお首に出さない氷華だが、今回は違っていた、七宝家で働いている者は家族も同然、身内の身内に手を出しているのならば万死に値する、と氷華は翔に強く優しく語る。
ちょっとしたパーティー後の騒動だが、片付けを再開し今年初めの長い夜は幕を閉じた。
帰りの最中、翔はリムジンの後ろで窓の外を眺めながら小さく呟く。
―――見てろよ、クズ野郎
今回も読んで頂きありがとうございました、次回は水曜日を予定しています。
気長にお待ちください。
読了お疲れさまでした。




