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冷徹営業トップは私の限界オタクでした  作者: アル


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第8話「あなたの優しさに、心が温かくなりました 。」

昼休み、二人は神崎おすすめの隠れ家カフェを訪れていた。


(ここなら会社の人は来ないだろう……。推しと二人きり……緊張するなぁ……)


「ちくわくん、このカフェ素敵ですね。」


「陽菜子さんが気に入ってくださり、よかったです。」

(陽菜子さん、なんで俺だけをランチに誘ったんですか?)


「あの……!今日はごちそうしますね!」


陽菜子は少し頬をこわばらせながら、神崎の目をまっすぐに見た。


「えっ!」

神崎が『私が出します』と言うより先に、陽菜子は続けた。


「私、気が付いちゃったんです。」


「私が残業したときに『お疲れ様です』って書いた付箋を添えて、お菓子を置いてくれていたのって、ちくわくんですよね? 」


陽菜子がまっすぐに神崎を見て言った。

神崎の頭は一瞬で真っ白になった。


(なんでそれを……?どこで気づいたんですか?まさか、気持ち悪がられる……!? )


神崎は裁きを待つように、ぎゅっと目をつむった。

神崎の返事を聞く前に陽菜子はつづけた。


「今日、ちくわくんが書いたメモをみて、付箋の字と同じだって気が付いたんです。それに、引き出しにあったお菓子も、いつももらっていたものと同じで…… 」


「私は嬉しかったです。」


予想もしなかった言葉に、神崎はゆっくりと目を開いた。


「私のことを見てくれている人がいて、お疲れ様って労ってくれる人がいるんだって……」


「私、頼まれると断れなくて……。仕事は好きなんですけど、やっぱり抱えすぎると疲れちゃうじゃないですか。」


「ありがとうございます。ちくわくん。あなたの優しさに、心が温かくなりました 。」


陽菜子は少し照れくさそうに、それでも嬉しそうに笑った。


挿絵(By みてみん)


ドクン、と神崎の心臓が大きく跳ねた。


(か、かわいい......!俺が勝手に置いていたお菓子を、喜んでくださっていた……!? もう今日が命日でもいい…… )


「でも、ちくわくん。どうして今まで言ってくれなかったんですか? 」


陽菜子は不思議そうに神崎を見た。


「今まで言えなくてすみませんでした。陽菜子さんからすれば、ろくに話したこともない相手からお菓子をもらうなんて、気味が悪いかもしれないと思って…… 。」


神崎は申し訳なさそうに目を伏せた。


「気持ち悪くなんてないですよ 。」


「さっきも言いましたが、嬉しかったんです。」


「だから、今日は私にごちそうさせてください! 」


(そ、そんな!推しにごちそうしてもらうなんて、できない…!)

「で、では……コーヒーだけ、ごちそうになります 」


「ダメです。今日はちゃんと、ご飯もごちそうさせてください 」


「う……。」

(え?怒った顔もかわいいって反則すぎる…!!)

「はい。」


二人は日替わりランチとコーヒーを注文した。


「あの、今さらなんですけど……会社の人がいないところでは、『ちくわくん』って呼んでも大丈夫ですか? 」


「……もちろんです。そう呼んでいただけるなら、光栄です 。」


神崎の耳は真っ赤に染まった。

五月半ばの暖かな日差しが、向かい合う二人を優しく包み込んでいた。


陽菜子が嬉しそうに笑う。その笑顔を見つめながら、神崎は今日という日を一生忘れまいと心に刻んだ。


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