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冷徹営業トップは私の限界オタクでした  作者: アル


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19/31

第18話「あなたがいない一週間。」

6月初めの月曜日。今日から陽菜子は経理部の自分のデスクへ戻った。


「陽菜子ー!おかえり。2週間近くいなくて寂しかったよ~。」


同僚の恵美は陽菜子に抱きつきながら言った。


「ねぇ、今月は寺内さんが営業成績1位だったんだって。」


「そうなんだ。寺内さんもすごいね。」


そのときは、神崎が一位ではなかったことを深く考えなかった。

お手洗いへ入り、個室にいると、手洗い場の方から話し声が聞こえてきた。


「神崎さん今月一位じゃなかったんだって。」


「えーそれって初めてじゃない?なんで?」


「最近、会社にいることが多かったらしいよ。社員食堂でもよく見かけたって。」


「え?神崎さんてランチもだいたい会食して、会社にほとんどいないんでしょ?」


「それがさ――」

二人の話し声は、お手洗いの扉が閉まる音とともに遠ざかっていった。


陽菜子の頭に、この二週間の神崎の姿が次々と浮かんだ。

隣のデスクに座っていたこと。社員食堂で一緒に昼食をとったこと。自分を心配して、外回りを減らしていたこと。


「……私のせい?」


誰にも届かない小さな声が、個室の中に消えていった。




自分のデスクへ戻ると、陽菜子のスマホに神崎から連絡があった。


『今日のランチご一緒にどうですか?』


その文字を見ただけで、陽菜子の胸は嬉しくなった。

けれど、すぐに先ほど聞いた会話が頭をよぎる。

神崎は本来、昼も取引先との予定が多い人だ。

それなのに、この二週間は何度も自分と昼食をとっていた。

――もしかして、私に合わせて予定を変えていたの?

本当は一緒に食べたかった。

それでも、これ以上自分のせいで神崎の仕事を邪魔したくなかった。

陽菜子は唇をきゅっと結び、返信する。


『ごめんなさい。今日は難しいです。』


すぐに既読がついた。

ほどなくして、神崎から返信が届く。


『分かりました。お仕事頑張ってくださいね。』


そして陽菜子はスマホを伏せた。


「……これでいいんだよね」




火曜日も、神崎からランチの誘いが届いた。

陽菜子はしばらく画面を見つめた末、昨日と同じように断った。

ランチから戻った陽菜子は、自分のデスクの上に置かれた小さなチョコレートを見つけた。

その下には、一枚の付箋。


『またご都合が付くときにランチ行きましょう』


見慣れた神崎の字だった。


挿絵(By みてみん)


「……ちくわくん」


思わず名前がこぼれる。

断ったのは自分なのに、その優しい言葉を見ると胸が痛んだ。




水曜日。

経理部へ領収書を届けに来るのは、佐藤や寺内ばかりになった。


「神崎さんは来ないんですね」


何気なく口にすると、寺内が陽菜子を見た。


「神崎? あいつ今週、かなり外回り詰めてるよ」


「そうなんですね」


陽菜子は小さく笑った。

寺内は何か言いたげに陽菜子を見たものの、そのまま営業部へ戻っていった。



昼休みになるたび、陽菜子は無意識にスマホを確認した。

けれど、水曜日も、木曜日も。

神崎からランチの誘いは来なかった。


金曜日。

退勤時間になり、陽菜子は鞄を持って席を立った。

この一週間、神崎とは一度も顔を合わせなかった。

これなら、神崎は仕事に集中できる。

営業成績だって、きっと戻る。

自分が望んだ通りになったはずだった。


それなのに――。


「……寂しいな」


口からこぼれた言葉に、陽菜子自身が一番驚いた。


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