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第55話 セツカvsアレクサンドラ①

 ──刀剣武闘会は苛烈を極めた。


 一回戦第四試合、アレクサンドラvs大槌使い。


「いかにサイフォスの王女といえど、この巨躯と大槌の前には敵いっこぐはぁ!?」


「軽いわね。普段背負ってる『ウテナ』の方が余程重いわ。王家の誇りという重みの分だけね」


 振り下ろされた一撃を剣の腹で打ち返し、巨体ごと場外ホームランしていた。


 一回戦第六試合、セツカvs魔法使い。


「刀剣武闘会ぃ? 笑わせる! 所詮得物のリーチに左右される武具など時代遅れの産物! 遠距離から一方的に攻撃される気分を味わぶへぇ!?」


「徒神影流"飛梅"。……刀だって遠距離攻撃くらいできる」


 柄の頭を蹴り抜き遠くの相手に刀を飛ばす技だ。

 鞘ありという露骨な手加減までしてなお一撃で意識を刈り取っていた。


 一回戦第九試合、サルファvs弓使い。


「ほう、同じ弓使いですか。ですが年端もいかない小娘に負ける私ではありません。見るがいい、絶技『レインアロー』をって痛ぁっ!?」


「ごめーん、構えるのも矢を番えるのも遅すぎて先に撃っちゃった」


 神速の早撃ちで相手の弓を弾き飛ばし、追撃の矢を首筋をかすめるように射ることで戦意を喪失させて白旗を上げさせていた。


 一回戦第十四試合、シャクヤvsサーベル使い。


「ハッ、たまたま魔剣使いになれたからって調子に乗りやがって田舎者が! クヤレラヤ子爵家の名に懸けて、テメェは一回戦敗退にしてやるよ!!」


 シャクヤの相手は同じ学園の生徒で、原作において何度も難癖をつけてくる貴族キャラだった。


 高い位置で右手に湾刀(サーベル)を握り、左拳を腰に当てる。いわゆるハンガリー剣術の構えだ。

 *を横に九十度回転させた形の、横と斜め方向の太刀筋に特化した剣術。

 斬撃を折り返して放つ『切り返し』が特徴的だ。


「せいせいせいせいせェいッ!!」


 途切れることなく続く攻めの一手に、シャクヤは防戦一方だった。


 劣勢。多くの観客の目にはそう映る光景だが、ライバルキャラらしく観客席の出入り口で陰に隠れながら観戦する俺には正反対に見えた。


「……どうやら教えた通り実践しているようだな」


 アレクサンドラとの初戦の時と同じだ。

 『敢えて』攻めさせ、斬撃や動きのパターンを引き出し、相手の戦闘スタイルを読み取っている。


 しかもあの時よりさらに練度は高い。

 必要最小限の動きでサーベルの斬撃をパリィしつつ、肩へ手首へと視線をせわしなく動かしていた。


「ちっ、この田舎者が──ッ!!」


 そして、決着の時は訪れた。

 勝負を焦った相手がシャクヤの腕を狙った切り返しを行った瞬間、読んでいたように弾き返すと、踏み込み、返す刀で相手の首を刎ねる斬撃を放った。

 もちろん魔道具の効果で死ぬことはない。


「な、馬鹿な……!?」


「君の剣術の要は柔軟な肩と手首の動きにある。そこに気を付けていれば、次にどんな斬撃を繰り出してくるかが分かる」


 そうして相手の斬撃を弾くと同時、切り返しの刃を当てる。

 まさしく相手の動きを読み取り、模倣し、己に合わせた形に取り込んだ末の勝利だった。


「とはいえサーベルは本来馬上用。相手が馬に乗り戦場を駆けることを想定した貴族だったからこその勝利……真価が問われるのは次戦からだ」


「弟子が勝ったんだから素直に褒めればいいのに」


 セツカ、うるさいぞ。


 さて、四回戦まで進んでも骨のない相手ばかりで、ほとんど瞬殺で危うげなく勝ち進めた。


 刀剣武闘会は千を超える猛者の中で、事前の予選を勝ち抜いた128人の強者が競い合う場だ。

 故に全七回戦まであり、五回戦からが準々決勝ということになる。

 俺たちは魔剣使いということで本戦出場が初めから約束されたシード枠というわけだ。


 原作においてセツカとアレクサンドラが相対したのは準決勝。

 しかしこの世界においては、準々決勝で対戦カードが組まれることになった。


「ラゴウ様。この美しさに定評のあるフラーラ、ご指示通り抽選結果の操作を行ってまいりました」


「ご苦労」


 定評があるかどうかは知らんけど。

 やたら癖の強い『脚』に任せておいたのだ。


 原作だとラゴウは準決勝でシャクヤとあたって終始余裕で対応しつつ途中で降参するという謎多き強者ムーブをしていたが、俺は決勝で当たりたい。


 とはいえ「あのアレクサンドラが……!」という原作イベントも一応踏んでおきたいので、準々決勝で戦ってもらうことになった。


「さあ、これより始まりますのは皆様お待ちかね、魔剣使い同士の試合でございます。彼方はシュテッケン法国より参られた凍てつく花の妖精、セツカ・オカミ。そして──此方は我らがサイフォス王国の至宝、太陽剣『ウテナ』を賜りし次代の王! アレクサンドラ・オブ・サイフォス王女殿下でございます!!」


 進行も担当している治安維持部隊長ローズの宣言と共に、会場がかつてない歓声に沸きあがる。その中心にいるのは緋色の髪を揺らす少女だった。


「……ちゃんとここまで勝ち上がってこれたんだ。偉いね」


「当然。自国の民が、お父様が観ておられるんですもの。次代の王として負けてたまるもんですか」


 対するは白銀の髪をなびかせる少女。

 燃え滾るような闘気と凍みつくような剣気。

 二人の魔剣使いが今、刀剣の柄に手をかけた。


「それでは準々決勝第一試合、開始!」


 開戦宣言がなされると全く同時の出来事だった。


「──黎明に熾(おこ)せ『ウテナ』!!」


「──雪(そそ)ぎ落とせ『冰雨(ひさめ)』」


 燃え盛る火炎の花びらが舞い散り、凍える白霧の竜がとぐろを巻く。


 炎熱を司る黄金の大剣の切っ先が後方を向くように構えられ、水冷を司る透き通った氷の太刀が静かに足元を向いた。


 剣道でいうところの脇構えと下段の構え。

 一瞬の後、どちらかが動く。


「いくわよッ」


 先に動いたのはアレクサンドラだった。

 彼女は踏み込みと同時、後方に向かってジェット噴射のように火炎を放出することで爆発的な加速を見せた。


 音速の壁すら突破しかねない速度。

 対してセツカは不動のままだ。


「速いね。でも……それだけ」


 亜音速の慣性を載せたまま薙ぎ払われる黄金は、しかし何故かセツカを捉えることなく、切っ先が鼻先寸前を通り過ぎる結果に終わった。


「なっ」


「そして、その速さは貴方自身にも牙をむく」


 言い切るよりも早く、体を半歩ズラし、アレクサンドラの鳩尾が来るであろう場所に置いていたセツカの拳が見事に命中。

 メキメキと、人体から鳴ってはいけない音がした。


「ガ、ハァ……!?」


 亜音速がそのまま自分への打撃の威力に転化された形だ。流石のアレクサンドラも堪らず膝を──、


「! へえ、耐えるんだ」


「……当然、でしょ」


 つかず、血を吐き、たたらを踏んで下がりながらもセツカを睨みつけてみせた。


「初手から今の私に出せる最高速の一撃で仕留める……うまくいくと、ごふっ、思ったんだけどね」


「発想はよかった。でも魔力を集中させているのがバレバレ。そういうのは瞬発力が大事。徒神影流"戦(そよ)ぎ"……綺麗にひっかかってくれたね」


 風にそよぐ花のように上体を前後に揺らし、相手の距離感覚を惑わせて間合いの把握を鈍らせる。

 回避系コモンスキルとしても存在した技だ。


 俺の『縮地』同様に一切の上下運動を起こさないことで、当たったはずなのに当たっていないという錯覚を生み出すことができる。


「大丈夫? お腹が痛いなら厠(かわや)に行くといい」


「馬鹿にして……ッ! 『ガルダ』!!」


 叫びと共に、アレクサンドラの背中から炎の翼が生えた。

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