魔力制御 ②
「魔力制御については、大体説明を終えたと思うけど………何か質問はある? 」
三人の様子を窺いながら、何か質問がないかを待っているが、顔を見合わせているだけで誰も手をあげない。理解しているからこそ此処にいる全員は何も言わないのだ。とりあえず私は本題へと行く前に、伝えたい事を委員長に言っておいた。
「ごめん、委員長の場合は魔力制御が無意味に終わるかもしれない」
「………えっ? それはどうしてですか? 私に才能がないからですか? 」
「いや、そうじゃなくて。委員長の持つ触媒用の魔導書とは、相性が悪すぎて意味がないんだよ。まぁ、それ以外の魔導具を使用するなら別だけど………」
委員長が魔力制御を習得したとしても、無意味に終わる可能性が出て来る。魔導書や生活用の魔導具の特徴的に、魔力制御は相性が悪く使えないのだ。
魔導書自体は魔法の練習用に適していない。私達が触媒に魔導具を使用しても、魔法を発動させるのは自分自身だ。それに対して魔導書の場合は、魔導具本体が魔法を発動させる以上、技術を学んでもその時間を消費するだけだった。
やはり、技術の習得が無意味だと言われて自身が除け者にされたと感じたのか、俯き加減で落ち込んでしまった委員長に私は声を掛ける。
「安心してっていう訳じゃないけど、委員長には別の魔法を教えるから」
「えっ⁉︎ 本当ですか! 」
「この魔法は委員長にもよるけど………」
「ぜひ! お願いします!」
新たな魔法を教えると言われたからかとても嬉しそうだ。
満面の笑みを浮かべている委員長はまだ良いが、エリスは不満を露わにして頬を膨らましていた。確かに魔力制御の説明をしてから、新たな魔法を他の人に教えるとなればそうなるのは当然だ。
出来る事なら、委員長に教える魔法を目標に頑張ってもらいたい。習得が終わらない限りはこの魔法を教えられない上に、魔力制御はこの先必須の技術になってくる為だ。
「うぅ………ズルイ、小鳥遊。教えてくれよ!」
「わっ、分かったから落ち着いて、エリスにも魔力制御の習得が終わればすぐに教えるから………だから、離れろ」
エリスは私の脚下にくっ付き離れようとはしなかった。教えてくれるまで梃子でも動かないつもりなのだろう。くっ付いている間は顔を押し付けて、私がその場から逃げないようにしていたのだ。
説得に応じて言質を取れた為か、ゆっくりと顔を離して立ち上がると、とんでもない言葉をエリスは口にした。
「小鳥遊………お前、良い匂いしてるな」
「………」
「………」
「やっぱりさっきの話しはなしで………」
「嘘⁉︎ そんな事を言うのはやめてくれよ!」
私を揺さぶってもう一度説得し出したエリス、無視してやった。それよりも、もう一人の方を対処しなければならない。先程から確認とばかりに、私の髪に顔を近づけ匂いを嗅いでる変態がいる。
「リヴィア、一体何してる」
「………………えへっ!」
えへっ!じゃない!!
笑って誤魔化すリヴィアを睨んでおくが、彼女は笑みを浮かべ可愛く舌を出して、ピースサインまでおまけにしていた。
私がそうとう怒っているのが分かったのだろう。少しずつリヴィアの笑みが崩れていき、借りてきた猫のように何も喋らなくなり始めた。これに懲りて二度としないでもらいたいと思うが、彼女にそれは通じないはずだ。何らかの対策を考えていると、詩音が近づき言ってきた。
「………玲夏さん。もしかしてですが、あの魔法を教えるんですか? 委員長に? 」
「そうだけど………詩音も教えてほしい?」
「いえ、いいです。私には無理そうですし」
「教えるだけなら無料だよ? なんなら手取り足取り教え「今なんて?」……て…も…………」
「………玲夏さん」
「あ〜、今の忘れて!」
何故だか詩音から寒気を感じた。契約していた召喚獣たちが、凝縮したかのようなドス黒い感情を、私に向ける感じによく似ていた。危険だと思ったのでなかったことにしたのだが、詩音は今も熱い視線を送っている。
「………とりあえずエリス、ちゃんと聞いて!」
「分かった! 」
「魔力制御の説明はしたから、これの説明を始めるけど何か分かる? 」
未だに教えていない魔導具を見せてみた。出してから一度も取り扱い方どころか、どんな用途に使用するかを説明していない魔導具、エリスに直接渡してみるが様々な角度からみているだけだった。
「………なんだこれ? 」
「まさか、魔力制御の習得に使うのですか? これを? 」
「そうだけど、使ってみればすぐに分かるよ」
委員長は、答えを当ててしまっているが疑わしい表情を魔導具に向けていた。それもそのはず、ただの棒状にしか見えない魔導具で、どうやって魔力制御を習得するつもりなのかと思うだろう。
だが、この魔導具がなければ習得に時間がさらに掛かる。何故かエリスは、持っている魔導具をくるくると回し始めて遊び始めた。別に構わないが、それ一本でどれぐらいの価値があるのか分かっていないのだろう。オーダーメイドでエリスの魔力量に耐えられるようにしたので、そう簡単には壊れないだろうとは思うが分からない。
「えっと、その魔導具は魔力を吸い取る? 感じの魔導具で、自分の意思で魔力を動かして遮断するんだよ」
「なんだそれ? もしも魔力が全部吸われてなくなったら? 」
「………廃人になります」
「怖っ⁉︎ 」
要は、魔導具に魔力を持っていかれないようにすれば良い話しだ。魔法は、魔導具に魔力を送れば発動するが、一方向にしか人は魔力を送れない。二つ以上の武器、触媒になる魔導具を使用したとしても二種類の異なる魔法は使えなかった。
魔力を例えるならば水のようなものだ。不定形の魔力と水は似ていて、決まった形を持つ事はなかった。
川を下る水のように、魔力も身体から放出するだけならば誰でも簡単に出来るのだが、魔力単体を体内で動かし操るのは相当難しい。ましてや二つの魔導具に対して別々に、魔力を送り魔法を発動させる方法はさらに困難だった。つまり魔力制御を習得すればそういった面を解決することが出来るのだ。
この魔導具の場合は作動させるだけで魔力を吸われる感覚になり、自分の意思で魔力を動かす必要が出てくる。ただ意識して魔力を動かすよりも、魔導具のチカラを借りれば習得しやすい。
「とりあえずエリス、それを貸して」
「お、おう………」
持っていた魔導具をエリスから受け取った私は、スイッチを入れて作動させた。ランプが点灯して動いたのを確認した後、委員長へとそのまま手渡す事にした。
「はい、委員長………そのまま持ってて」
「はっ、はい。一体何が………あ、これ、不思議な感じがします。まるで魔力を使う感覚に似てます………」
「じゃあ、次にエリスが持ってみる? 」
委員長はエリスへと渡してみた。するとエリスも同様に、委員長が先程言っていた言葉に納得したのか、全く同じ表情をしている。握り締めたまま彼女は首を傾げていたが、私の方へと顔を向けて尋ねてきた。
「た、小鳥遊。次はどうすればいいんだ?」
「…………………えっ? 」
「小鳥遊! 冗談はやめてくれ! 」
次の指示を待っている間に、怖くなってきたのか私に確認を取り始めた。しかも足をよく見ると小鹿のようにぷるぷると震えさせている。
さすがにみていられなかったので次にするべき事を言おうと思ったが、変な音が周囲に響いた。
「………今何か聞こえませんでしたか? 」
「私も聞こえた………」
「や、やめろよ。そんな脅しが(ピキッ!)通じると………」
今の音でその場にいた全員は察したのだ。唯一彼女が持っていた魔導具から、聞こえてはならない音がしたのを聞いたと思ったらそのまま………
バキバキと嫌な音を立て崩壊していく魔導具を私たちはみているしかなかった。完全に部品の状態になったのを見届けた後、誰もその光景に言葉を口にしなかったが、ヤバイと感じたエリスだけはなんとか一言を口にした。
「………カード、使える? 」
「良いよエリス、気にしないで」




