聖女と罠
扉が開かれ入ってきた者たちは全員、私が見覚えのある顔触れだ。なんで此処に彼女たちがいるのかが分からない、なので私は聞いてみることにした。
「エリス、委員長、何で此処にいるの? 」
「よぉ! 小鳥遊。聞いたぞ、序列第二位だなんて凄いじゃないか!」
「おめでとうございます。小鳥遊さん!」
「あー、うん、ありがとう? 」
最初に入ってきて、声を掛けてきたのはエリスと委員長だった。部屋の中で話している間、物音一つどころか気配が全くしなかったのだが、委員長による魔法を発動した結果だろう。隠蔽を含めた、複数の魔力残滓が彼女達に残っている。
誤魔化す為に言い訳をいうと思っていたが、堂々とした振る舞いでそんな事はなかった。とりあえず二人の返事にお礼を返しておく。私はもう一人の人物に視線を向けることにした。
部屋に入ってきた二人よりも、三人目の人物に興味がある。彼女は学生であることは間違い無いが、制服の上から法衣に似た衣服を羽織っていたのだ。金色の長い髪を持ち、穏やかな表情と空色の眼で私のことを見つめていた。
「私は法光院アルテシアと申します。お会い出来て光栄です、序列第二位」
「たっ、小鳥遊玲夏です。こちらこそお会い出来て光栄です。聖女様」
"法光院アルテシア''またの名を"不滅の聖女"と呼ばれる程の有名人が目の前にいた。しかも二桁最上位に位置する、序列第十位に席を置く実力者でもあるのだ。
まさに聖女と呼ばれる程の人格者であり、聖光教に身を置いて日夜、怪我人を回復魔法で癒す日常を送っていると聞いた。魔法省だけでなく、多くの人々からも認められて慕われている人だ。
学園の生徒であるのを知っている、それに加え確か彼女は、この学園の生徒会長を務めているはずだった。
「貴女様から聖女だなんて畏れ多い、私の事はシアと呼んで貰えれば幸いです………」
「えっと………宜しくお願いします。シア先輩」
「はい!」
にこにこと微笑みを絶やさずに柔らかい笑顔を見せている聖女様、少し疑問に思うのだが、彼女は何故か先程から私の事をずっと見つめている。
気になったので聞いた方が良いか迷っていると、私が戸惑っているのが分かったのか、彼女は………
「すいません。何か不快な思いをさせてしまいましたか? それなら謝りますが………」
「いえ、大丈夫です。それよりおじいちゃん? 何で彼女達が此処に、もしかして呼んだ?」
先程から分からない事の一つは、聖女であるシア先輩を除いた彼女達、エリスと委員長の二人だ。呼ばれているのであれば分かるが、魔法を使ってまで隠れて盗聴紛いの事をしていた。
私の問いに対して、難しそうな表情で考え込んでいる学園長が、首を捻りながら返した。
「ん〜、いや、儂が呼んだのは玲夏ちゃんと詩音ちゃんの二人に、聖女である生徒会長のみなんじゃが? 」
「その通りですが、増えても問題ありませんね。むしろ僥倖です」
「えっ?」
「いえ、何でもありません」
やはり呼んだのは私たちだけらしい。それよりセイラさんが呟いた言葉に不安が募るが、きっと教えてくれないだろう。そんな不安を忘れ去る為に呼んだ理由を考えてみる。
最初に学園長は、用事が二つ程あると言っていた。
一つ目は生徒手帳を渡し、序列第二位である事を教える為だった。二つ目はそれよりも重要そうな何かがありそうだ。その何かが分からない、だが序列第十位の聖女、シア先輩を呼んだ以上は関係がありそうだと思った。
「小鳥遊様。此処に呼んだのは交流戦の事です」
「えっ⁉︎ 交流戦って、あの学園同士のですか?」
「はい、そうです」
「なるほど、私が呼ばれた事にも納得ですね! もうそんな季節ですか? 早いですね〜」
「交流戦かー、あたしも出たいな!」
交流戦という言葉に、私以外の全員がその事を楽しそうに話し始めた。詩音は食いつく勢いで身を乗り出し、シア先輩はどこか懐かしそうにしている。エリスに至っては出場したいと思っているみたいだ。
委員長だけは首を傾げて私の事を見ている。一人だけ話しに混ざらなかったからだろう。
「小鳥遊さん? 」
「えっと、ごめん、交流戦って何? 」
「「「えっ⁉︎ 」」」
私が知らないという事に全員が驚愕した表情で見てくる。交流戦という言葉からはある程度、どんな大会等かは分かるが詳しくは知らなかった。
「あら、これはもしかして、しっかりとした説明が必要では?」
「そうですね、そう言う事であれば私が教えましょう。小鳥遊様、交流戦というのは学園同士の集まりであり、いわば社交場に近いと言えばよろしいでしょうか?」
「そうなんだ」
「とは言っても、それは伝統的な裏の面です」
「裏の面? それなら表は………」
"交流"戦と呼ばれるくらいだ。他の学園の生徒たちの集まりなのは分かるが、それ自体が裏の面という事はあまり知られていないか、もしくは重要ではないと思った。
つまりはメインとなる部分は別にあるという事だ。
「人によっては見方が様々なんですが、一般の者たちからしてみれば、面白い催し物に見えています。いつの世も人は祭り好き何でしょう。その者たちの中には生徒たちの親御さんも見学しに来ますよ」
「そうじゃよ、親御さんだけでなく。あらゆる企業からも人員が派遣されてな、優秀な生徒をスカウトしに来るんじゃよ、此れがのぅ」
「他にも、魔法省が主催者側で進行しているのです。盛り上がらない訳がありませんからね!」
生徒たちは交流して語らうだけでなく、様々な人たちに自分自身をアピールする場でもあるわけだ。ならこの大会に参加しないという人は少なくないだろう。
それにほかの企業からも人が来る。という事なら、魔法省、軍、警察、一流企業などの大手が来たとしてもおかしくはない。交流戦で抜擢されるのであれば、二年や三年は死に物狂いで参加を表明し出すかもしれなかった。
だが、私には全く関係がなかった。周りが祭り騒ぎであるならそれで良い。
「………うん、分かった。けど何でその話しをしたの?まさかだと思うけど私に………」
「出場して欲しいんです!」
「えっ?嫌だけど?」
断った影響か、全員が驚いた表情のまま微動だにせず、指の一本すらも動かしていない。先に意識を覚醒させたエリスが私を問い詰め出した。
「どうしてだよ小鳥遊、これはチャンスだぞ⁉︎ 」
確かに、学生である者達からしてみればそうだろう。学園の卒業後には、就職や大学への進学が待っている。だからこそ必死になってしまう者が出て来るのだ。
「まぁ、別に良いです。その答えを予想していなかった訳ではありませんから」
セイラさんは予想していたと、言葉通りの落ち着いた態度で言ってきた。そして、おもむろに立ち上がりある物を取り出す。どうやら何かが入った紙袋のようだが、嫌な予感がヒシヒシと伝わってくる。
紙袋の中からはみ出して見えている物に加えて、今の私の状況は考えてみれば危うい事になっているだろう。
「あー、その、私はちょっと用事があるのを忘れて………」
最悪な未来を回避しようと思い、すぐさま立ち上がり学園長室から出ようとするが………
部屋にいた全員に邪魔された。詩音とシア先輩は微笑みながら両手を掴み、エリスと委員長は扉を守るかのように待機している。
そして最後に、セイラさんは妖しく恍惚とした表情で、唇の端を吊り上がらせながら脅し同然で言った。
「構いませんよ? 参加しないと言うのであれば、別の事をしてもらいますから。むしろ私ならそちらの方が最も望ましい結果ですが? どうされます?」
どうやら、学園長室に入った時点で嵌められたようだ。セイラさんが先程呟いた言葉はこの時の為に用意した、万全を期した際の策がさらに強まった結果からだった。
私が選ぶ選択肢は二つに一つだけ、観念して交流戦に参加するか、それとも身包み剥がされて着せ替え人形にされるかの一択だけ、私が選んだ結果は………
「………はい、参加します」
「ありがとうございまーす!」




