再変
「アトラ、ミューダ、送還………」
このままでは酷い結末になると思った私は、とりあえずアトラとミューダの二体を元の場所へと帰した。
アトラは送還される去り際に、不満そうな、悲しそうな表情をしていた。だがそれに対してリヴィアは、まるで勝ち誇ったかのような態度で言った。
「乙!」
どうやら彼女はそうとうお怒りのようだが、これでは調子に乗り過ぎだった。出来れば召喚獣同士、仲良くなってもらいたいと思いそれぞれ紹介したが。この状態が続いていると今後、面倒な事になると思った私は対策することにした。
「送還」
「………すいません」
たった一言でリヴィアは土下座をした後、誠心誠意謝り出した。さすがに懲りたのだろう。これ以上は信頼どころか、呼ばれなくなると思っているはずだ。彼女からしてみれば、放置や無視は苦痛になる。
これでリヴィアの件が終わったと思っていると、詩音が何かあるのだろう、口を開き聞いて来た。
「あの、玲夏さん。聞きたいことがあるんですが………良いですか?」
「ん? 良いけど………」
「えっと、アトラちゃん? さん? の事で聞きたいことがあるんですけど………」
「アトラ? 」
アトラがどうしたと言うんだ、と思った私は考えてみた。詩音はアトラとは会ったばかりのはずだ。疑問を持つほどに何かあるのと考えてみたが、やはりあれしかないと確信した。
「玲夏さんとアトラさん、何で同じ顔をしていたんですか?」
「あぁ、詩音はアトラの素顔を見たんだ。だからそんな質問をしたんでしょ?」
「は、はい!」
送還の際にローブの隙間からでも見えたのだろう。アトラの素顔は、瓜二つと言ってもいいぐらいに私と似ていた。詩音の疑問に対する答えは簡単だ。
「アトラは魔生卵から生まれて、私の魔力で育ったから似たような顔をしているんだよ」
「あぁ、なるほど。だからなんですね、納得しました」
通常は魔物の状態で生まれる為か、人型でもない限りは親となった人物とは似る事はなかった。だが、私の魔力で育ったアトラは、蜘蛛の姿から何度も進化を果たす事で人型へと成長した。魔力の情報を元にしている為に、私と似ていたのだ。
魔生卵から生まれたという事で納得した詩音、その時にふと思った疑問が脳裏をよぎる。彼女は何故、アトラと私の顔が同じと言ったのだろう。
アトラは、私がまだ幼い頃の顔に似ていた。その為に大抵の人達からは姉妹と言われてしまうのだ。少し考えてみるが答えが出なかったので、思考を放棄することにした。それほど困る事でもないので………
すると突如、鳴り出した雷鳴に反射的に振り向くと、北の空に黒々とした雨雲が発生していた。さらに龍の姿を象った雷は、地面へと急降下をしているように見えていた。
「あの雲に雷龍は、まさか………」
「あれは………おじいちゃん。得意な雷属性の魔法を使う準備をしているんでしょうけど。その為の魔力を温存して、威力と速度を上げる魔法でもある天候操作を使ったのか。雷龍は魔物を一掃する為でしょうけど………」
「長期戦を想定しているんでしょうか? 魔王種にも対抗できるように」
「多分そうだと思うけど。今はどうなっているか分からない………」
魔王種は動いていないと聞いたが、どうしているか分からない。何かがある事を想定した上で、あの魔法を使ったのだろう。ただでさえ、雷属性は魔力量の消費が激しい。
もう一人の意見を聞きたいと思い、リヴィアの方を振り向くと………
未だに土下座の姿勢を保っていた彼女がいた。私は溜息を吐いた後、やめるように呼びかけた。
「リヴィア。もういいから、土下座はやめて」
「………もう、怒ってはいませんか?」
「………………………」
リヴィアからしてみれば、私の表情は怒っているように見えるのだろう。実際には怒っていないのだが、勘違いしたままは嫌だった。微笑む事を意識して、話すように心がけた。
「怒ってないから、今後はアトラたちと仲良くして。以外と繊細なところがあるから、気にかけてほしいんだけど………」
「………こほん、失礼しました。確かに大人気なかったですね。同じ召喚獣であるのに、仲が悪いのは悪影響しかありませんしね!」
どうやらリヴィアは立ち直ったようだ。このまま此処で話していても良かったが。とりあえず東門以外の状況を知りたいので、城門に行こうとしたところそれが起こった。
突如、感じた魔力に背筋が凍った。今までで最も強い感覚に、私は叫んだ。
「リヴィア!!」
「はい!」
言わなくとも、同様に危険を感じたのだろう。すぐさま詩音を抱えたリヴィアと私は、何かが落ちる瞬間にその場から跳躍した。
先程までいた場所に、ドンッという爆音と衝撃を響かせ、何かが落ちた。モクモクと土煙りが上がり、何かを隠していた。何が落ちたのかは分からないが、いてはならない存在が来てしまったのは分かる。
風が吹いた結果、その姿を隠していた土煙りが晴れた。そこから現れた存在に私は驚いた。
虎型の魔物、強靭な四肢で大地を踏み締め、敵意と真紅に染まる双眸、研かれた剣のような二本の牙を持った魔物がそこにいた。
私は見た瞬間に分かった。
「こいつが魔王種だ………」




