魔法演習
授業が終了してからのお昼時に、私と詩音は学園の食堂へと向かっていた。
だが突如、前方から騒がしい声が聞こえてきた。その声に私達は顔を見合わせた。
「玲夏さん。前の方が騒がしいですけど、何かあったんですかね?」
「さあ?分からないけど見に行ってみる?まだ時間はあるから」
「そうしましょう」
私達は野次馬の如く、その元凶を確かめに行った。現場では様々な生徒たちがいたが、思ったよりも静かだった。
大抵の場合は、現場の状況を見てはあれこれいったりしているのが通常だがなぜかここでは違った。
周りの野次馬となった者たちは、あまり喋ることはなく新たにやってきた生徒たちに小声で説明していた。
「何があったんだ?」
「あまり状況は分からないが、生徒が一人倒れたらしい」
私たちは現状を知る為に、生徒たちの隙間を縫ってはよく見える場所へと向かっていた。すると先程いっていた生徒の話しの通りに、男子生徒が一人仰向けで倒れていた。
担架に乗せられているところを見たが、保健室に運ばないで大丈夫なのだろうかと思っていると、すぐにその理由が分かった。
「おい、保健室に連れて行った方がいいんじゃないか?」
「今は先生たちがいないだろう?それに人が多い時間はここなんだよ」
「あぁそっか、そういうことか」
「それに保健を担当してるのは、あの人だ」
「そうだった」
どうやら保健室に運ばずに連れて来たのは、回復魔法が使える者たちが目当てらしい。確かに、ここから距離がある保健室に行くには遠すぎた。
一体どんな理由で倒れたのかは分からないが、魔法演習等の授業でこうなった訳ではないだろう。見る限り外傷は見当たらなかった。
もうすでに回復魔法で治してある可能性もないが、演習場の近くに保健室が設置されているはずだ。そうでなければ食堂に連れて来る訳はなかった。
倒れた男子生徒の周りには数人が魔法を掛けている。魔法による効果により、暖かい柔らかな光が彼を包んでいた。
「ダメだな、回復も持続回復も効果ないぞ?どういうことだ?」
「毒消しは試したら?」
「それはもうとっくにやった。口から泡を吹いていたからすぐに掛けてみたんだが?」
魔法による治療を行なってもダメだったようだ。怪我でもなく状態異常でもないとくれば残りは………
「おい⁉︎ 息をしてないぞ!このままじゃ………」
「そんな⁉︎ さっきまで息があったのに、それに川の向こう側から、おじいさんとおばあさんが手を振ってるって言ってたのに!」
「それ⁉︎ 死にかけじゃん⁉︎」
窒息死、元々の原因が分からないために対処が遅れる場合がある。その要因によって違う対処をした結果が、後から現れる事があるために魔法を掛けても安心できなかった。
大抵の場合であれば大丈夫なのだが、今回のようになってしまうとは思わないだろう。そういった要因に対処するために、回復魔法を研究し様々な特効薬を生み出す医者がいた。もちろん研究機関としての側面も合わせ持つ病院もある。
「玲夏さん。なんとかできませんかね?」
「………ごめん、私じゃ無理、回復魔法は得意な方じゃないから」
「そうですか………」
私は回復魔法は苦手な方だ。魔法を使えたとしても大抵の人たちは得意、不得意に分かれてしまっている。なので自分自身が得意な魔法を鍛え上げては実力を上げるのが一番いいとされていた。
ほぼ全ての魔法は覚えて、使えるように学んで来たつもりだが威力や効果が薄い魔法は、よほどの事がなければ使わないのが一般的だった。
「………ねぇ?起きてよ、そしたらいい事してあげるから」
「おい、そんなことで起きる訳が「………えっ、マジで、ほんとに?」………」
「「「………」」」
どうやら女子生徒の一言によって目が覚めたようだ。その場にいる生徒全員が、冷めた視線で彼の事を見下ろしていた。
「良かったですね!息を吹き返しましたよ!」
「………う、うん、良かったね、別の意味で大丈夫じゃないけど」
次々に、問題がないと悟った生徒は散っていく、もしも問題があるとすれば、今後の彼の見方が少し変わったいうことくらいだろう。
私たちもその場を離れて昼食にすることにした。
魔法を教える授業の内、すでに二つは終えていた。魔法基礎学の授業では問題が起こったが、魔道具を壊しただけでそこまで酷くはなかった。魔法工学は、担当した先生がアレだった為に中止になった程度だ。
残り少なくなった初めて受ける魔法授業は三つある、魔法演習、魔草薬学、魔生物学だ。
今回、行なわれる予定の魔法授業は魔法演習だった。演習場にて行なわれる授業に加えて、合同授業となっていた。
「スタイル良いですよね、玲夏さんは」
「セクハラですか?」
「違いますよ、ただ羨ましいと思っただけです」
詩音に対して冗談を言ったが、普通に返された。
魔法学園の体操着は、身体の線が出やすいレギンスなどだ。ジムといった運動場で使いやすく動きやすい服装になっていた。
すると私たちの前に三人の教師が歩いて来た。その内の二人には、すでに見覚えがあり授業を受けていた。
「一年A組の担任を務めるニア・マグネットです。山下君、魔法工学の授業だと思って私と語りましょう」
「了解であります」
「………あの、今回の授業は魔法演習なんですけど?間違っても魔法工学の授業じゃないんですけど!」
それ以前に語り合うのを止めた方がいいと思ったが、あの二人の会話を私達に止める度胸はなかった。
「えっと、あらためて、一年B組の担任を務めるシギンス・エリントです。よろしくお願いします」
私達のクラスの担任と隣のクラスの担任を務めるニア先生だ。二人の授業はすでに受けていた、残るあと一人の教師が魔法演習を担当している先生だろう。
「俺が魔法演習の授業を受け持つ、天頭太陽だ。よろしく頼む」
「えっ、天パ?」
「俺は天パじゃない!」
魔法演習の担当を務める先生は、上下ジャージ姿の天然パーマの髪型だった。本人は天パじゃない事を否定していた。
つまり自然に出来た縮毛ではないという事、通りで綺麗に整えられていた訳だ。
「いいか?もう一度言っておくが、俺は天パじゃない、これは普通の髪型だ!」
「あっ、そっちか」
どうやら本人が言いたいのは、よくある普通の髪型だと思い込んでいただけだ。




