学園の日常
教室に入ると朝の喧騒に混じって、挨拶を交わすクラスの生徒たちについ頬が緩んだ。なにせ前日に面倒事に巻き込まれた、なにもない日常が私にとっては一番だった。
すると、待ち構えていたとばかりに私の前へと立ちはだかる女子生徒がいた。
「おはようございます、玲夏さん!」
「おはよう、詩音」
待ち構えて、挨拶を交わしてきたのは詩音だった。いつもと変わらない笑顔を向けてきた少女は、幸せだと言わんばかりにニコニコと微笑みを絶やさなかった。
挨拶を交わし終えて席に着くと、もう一人わたしの前へとやってきて挨拶をしだした。
「よお、小鳥遊!」
「エリス。おはよう」
私に挨拶してきたのはエリスという名の女子生徒だった。彼女とは魔道具を壊した件で、こうして仲良く話しをするようになっていた。
「あー、その、小鳥遊。あの件についてはありがとな!おかげで助かった」
「構わないけど?あの魔道具は直せないけど、また作り出せる物だから………」
「ふーん」
私は席に座り直すと机の上に袋を置いた。
今朝、学園に登校する前に一度コンビニに寄っていた。そこで買ってきたのは飲み物、菓子類、パン、おにぎり、つまみといった食べ物が大半だ。
袋の中身を覗いたのだろうか、詩音はともかくとしてエリスは頬がピクピクとひくついていた。これだけの量を食べるとは思わないだろうな、それが普通であればの話しだが。
「た、小鳥遊。それ全部、まさか?」
「食べるけど?なに言ってるの?」
「あれ?あたしがおかしいのか?」
エリスは詩音に確認したりし始めたが、なぜか詩音はずっとエリスに笑顔を向けていた。すべてを知った上での肯定という笑顔なのだろうが逆に怖かった。
それらを無視して私は袋へと手を突っ込んだ。袋から取り出したのは、パック入りされたいちご牛乳だ。
付属されたストローを差し込み飲みはじめる、いちごの甘さや酸味だけでなく、香りも口の中に広がった。
もう一つ取り出したのは雑誌、それを見た周りの生徒たちは目の色を変えた。
本来であれば普通のとはいわないが、それも内容がそれぞれ違っているなどの雑誌ではない。この学園に入った者であれば、一度は手にして読んだことはある雑誌だ。
週刊雑誌ニューマジ
魔法省が発刊している雑誌である、占い、魔法関連、有名人のインタビューといった内容が書かれている。
占いであれば個人的に占ってもらう事で、未来を見とおすことが出来てしまうが。この雑誌に書かれた内容は、全体的に占った結果のためか、そこまでの効力はなかった。
ほかにも、役立つ魔法の情報も出てくるので、大抵の人は目を通しているはずだ。
そしてなにより注目されているのが、有名人と化した序列上位者たちだ。彼ら一桁に近い者ほど有名であり、それぞれ二つ名を貰っていた。
一桁、二桁そうとうの実力者たちは魔法省から直接依頼を頼まれている。ほとんどの依頼は難しく困難であり、何ヶ月とかかってしまう物も多い為に本人に会えたりすることは出来ないでいたが。魔法省が独自にインタビューやコメントを貰いに行っては、その結果を雑誌に反映していた。
彼らは、性格によっては顔を出してくれたり、インタビューを受けてくれるが。一桁であればそうはいかない、数が少ない上に正体を隠している者もいる。
さらに、依頼を片付ける為にも一桁でないと無理と判断された物も彼らに回ってくる為にそうとう忙しくしていた。
魔法学園に所属する者たちに取って、英雄視された存在の動向が分かるのは少しでもありがたいのだ。
日々の中で雑誌を開く度に、彼らの情報がないかを探すのが楽しみとなっている者もいた。
「小鳥遊。お願いがあるんだが、見せて貰っても?」
「玲夏さん。私もお願いします」
「んっ、良いよ」
雑誌を見せてくれとお願いされた為、見えやすくするように反転させた。早速とばかりにかじりつき出した二人、それを皮切りに周りにいた女子もお願いしてきた。
「その、私も見せてほしいんだけど?」
「私もお願い!」
「あっ、その、わたしも」
数人の女子たちも、見せてほしいといって来たので了承の返事を返した。その結果、二人と同様に雑誌へと視線を落とし見始めた。
やはり彼女たちも気になっていたのか、とあるページへと釘付けになっていた。先程いった有名人と化した序列上位者の事が、出来るだけ詳しく書かれているページだった。
その雑誌に書かれた内容によって、ああでもないこうでもないとお互いに感想を言い合っていた。
「見てみろよ、小鳥遊。序列第八位からのコメントが書かれてるぞ!」
「一言だけですが、私も驚きました」
「………どれどれ?」
まさか、一桁からのコメントが書かれているとは思わないだろう。序列上位者の中では彼が一番、働いていると言われたほどだ。
あまり時間が取れない中での交渉の結果だろう。さすが魔法省だと、心の中で思わず絶賛してしまったがその後ひどく後悔した。
『仕事がつらい』
「魔法省⁉︎ 休ませてあげて!」
あまりの驚きを隠せず、ツッコミを入れてしまった。確かに彼の場合は仕事の量が多い上に完遂率も相当高い。魔法省もそれは分かっているはずだ。
だが誰もやめろとは言えないはずだ。魔法省からの依頼は、本人が受けるか受けないかで決まった。
自由であるので、よっぽどのことが無い限りは強制依頼は来ないはずだ。
街が一つ消えてしまうようなことがない場合だが。
「第八位も渋くてカッコいいけど………私は第一位かな?」
「えっ?そうなの、あたしは第五位かな、あのミステリアスさがいいと思う!」
「俺は、第三位かな?あの母性的なのが………」
「そうか?俺なら第四位だな、なんて言うか見守ってあげたくなるってゆうか?」
クラスの女子たちは各々の推しを言い合っていた。それに混じって男子たちも好みの女性をいっているが邪な感じがしてしまっている。
私も気になった。詩音とエリスにも推しがいるのだろうかと、なので二人に早速聞いてみた。
「二人は気になってる上位者はいるの?………」
「あたしか?………あたしはやっぱり第一位だな!」
「そうか………面食いめ!」
「なんで⁉︎」
序列第一位は金髪のイケメンだ。そして私が住んでいるこの国、共人国が所有している上位者であった。
それぞれの国には、鉄壁の要として騎士団を所有している。共人国を守護し序列第一位が率いる騎士団が………
円卓の十三騎士団、アヴァロン。
十三に分かれる騎士団は、それぞれの役割を担ってこの国を守っていた。
序列第一位は、王の守りを徹底しているために動けないが。そのほかに団長を務める者達もそうとうぶっ飛んでいた。
全員が二桁そうとうの実力者であるのだ。
それだけの人材がいる騎士団に入りたいと申し込む者たちが、後を絶たないほどに殺到していた。
「第一位はダメか?小鳥遊。」
「いや、ダメじゃないけど」
「カッコいいと思わねぇか?スッと伸びた背筋、切れ長の瞳、そして誰に対しても紳士的な態度を崩さない、まさに騎士といった男だ!」
「………そーですね、だいぶ酔ってるみたい、それじゃあ今度からは面食いエリスって呼ぶね?」
「だからなんで⁉︎」
彼女を後回しにして詩音へと向き直った。先程の続きで詩音は誰を選ぶのか興味が出て来た。
「詩音は誰に興味あるの?」
「私は………」
選ぶのは誰か一桁の中からかそれとも二桁か、どっちを選んだとしても盛り上がってしまう。詩音が考えたすえに出した答えは………
「序列第二位って誰なんですかね?」