決着
「………来い、死月の蒼槍」
愛用している自身の魔道具を呼んだ。それと同時に目の前の空間が揺らぎ、淡い輝きを放ちながら出現したのは一振りの槍だった。
海のような濃紺を基調に銀色で装飾された、細く自分自身の身長ほどはある槍だ。
出現した槍を掴み振り回して調子を確かめていると、それが威嚇に繋がったのか男たちは恐れ慄いていた。
「お、おい、魔法はつかえないんじゃなかったのかよ⁉︎」
「し、知らねーよ⁉︎魔道具は取り上げたはずだ!」
「クソ、どうなってる⁉︎」
魔道具を構えた男たちはそれぞれいいあってるが解決しなかった、私は槍を握り絞めて構えた。
それを見た男たちは覚悟を決めた表情を繕い、魔法の触媒になる各自の剣や槍といった武器を構え出した。
「ま、まぁいいあの女には痛い目に遭ってもらうだけだ、お前らやるぞ!」
「「「おう!」」」
男たちは気合を入れてきた、その内の一人が前へと出て来て剣を上段に構え襲ってきた。
「死ね!」
襲い掛かってきた男に私は槍を構え直した、穂先を背に石突きを前に突き出した。
すると剣を私に届かせる前に槍によって鳩尾の部分へと当たった。そのまま「グヘッ!」という声を上げながら宙へと飛び上がり地面に衝突してしまった。
「一人やられた、クソッ!」
「次だ!」
自身が持つ魔道具に魔力を送り始めたのだろう、魔法を使い確実かつ安全に倒す作戦に変えたのだった。
男たちの周囲に赤く燃え盛る火が生まれる、徐々に形成された火の球は私に向かって飛んできた。
「「「炎球!」」」
無数の火の球は、標的である私に向かって飛んでくるがその直前に阻まれた。身長は軽く超える氷の壁によって阻まれ、炎球は水でもかけられたかのように次々に消化されていった。
「………氷壁」
私は槍を触媒にして魔法を発動させた。熱によって氷の壁は溶かされてしまっているが、魔力を送り込むことによって溶かされた分を修復していった。
ついにらちがあかないと悟った男たちの中から数人が突撃してきた。剣や槍といった武器を手に近接して戦う者が主に近づき、後方では魔法や弓で私を牽制してきた。
「オオォォォォ!………」
無謀にも突進を仕掛けてくる者にすぐさま私は槍を横薙ぎに払った。すると身体は宙を舞い、壁にドンという音とともに衝突した。
壁にはクレーターが出来て衝突してしまった男は気絶してぐったりとしていた。
その光景に男たちは唖然としていたが、後方に控え弓をつがえていた男がそんなことは構わないとばかりに矢を放った。
「………う、嘘だろ?」
好機と見た男の目算は外れ、矢はカラカラと音を立てて地面へと転がる、槍の穂先を使いタイミングを合わせ矢を叩いたのだ。
その行為に男は驚いた、弓を含めた飛び道具の類いからすれば槍は相性が悪かった。
穂先から石突きまで長さがある分リーチが広くそれでいて使いやすい初心者向きの武器、よっぽどのレベル差がない限りは剣などの近接武器が槍に勝てる訳がなかった。
逆にそれは槍にも言えた、飛び道具の類いである弓は放たれてからが最も早い、気がつけばすぐ目と鼻の先にまで近づいて来るのだ。
弓は魔法を超える速度を出せる上に、矢に魔力を纏わせることで貫通させることもできる。
だからこそ男は思った。とんでもない反射神経をしていると、そうでなければ隙を窺い矢を放った意味がなかった。知覚外からの一射、それがいとも簡単に防がれた。
「さて、終わりにしようか?」
「ヒィ⁉︎」
槍で薙ぎ払い相手を突いては倒していき、最後に残ったリーダーの男以外には全員が地に伏していた。
リーダーの男は降参と言わんばかりに両手を挙げて怯えていた。私が近づくたびに後退り、最後にはそのまま転んでしまった。
「ど、どうやって魔法を使ったんだ⁉︎魔道具はなかったはずだろ⁉︎」
「あぁ………それね、こういうこと」
右手に魔力を送りつつ相手に見せる、すると男は目を見開き驚いていた。なにせ私の右手に浮かび上がった紋章は魔法の触媒にはならなかったからだ。
「召喚魔法………いや、おかしい!召喚契約した魔物ならともかく、武器を呼び出すなんて!」
本来であればそういうことは出来ないが私には出来た、十六年の日々の中で魔法について研究しまくったその成果がこの一つだった。
私は槍を頭上に掲げて握りしめた。
「分かった、落ち着け、もうやめるから俺たち廃魔教団は手を出さないから、だから………」
「もう遅いよ………」
そのまま男の頭へと槍を振り下ろした。