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転生少女は愛されている  作者: 海雪
第3章 交流戦
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前夜祭



 ようやく私達は部屋へと通された。セイラさんと共に案内された広めの室内を探索し終わり、それぞれのベッドの上に座る。ふかふかとした枕にエリスは抱きつき、今まで以上に笑顔を浮かべ、部屋の品質に彼女はとても満足していた。




「まさか、これだけの部屋に泊まれるとは思わなかったな」



「ですね。一般客室ではなく、スイートルームとは驚きましたよ」




 エリスと詩音が言っている通り、私が想像していた一室とは違って、そう簡単に泊まれるような部屋に通されるとは思わなかった。ホテル内では上位に位置するスイートルーム、ゆったり広々とした空間で、部屋から見える外の景色は最高だ。



 リビングやキッチンなどが一体化した一室である事はもちろん、しかもバルコニーまで含まれるというおまけ付きだった。だが、正直なところを言ってしまえば学生が泊まれるような部屋ではない。ホテル側が、交流戦に出場する生徒の為に用意するには度が過ぎていた。




「それもこれもセイラさんのおかげですね!」



「えっ?………あ、私ではなく………」



「さすがはセイラさん! 泊まれるように交渉してくれてたのか、ありがとう!!」



「あの………ですからね。私じゃ………」



「「ありがとう(ございます)! セイラさん!!」」




 戸惑っているセイラさんに追い討ちをかけるように感謝を述べていく二人、本人は違いますと言いたげな表情をしているが、今の状況では無理だろう。やがてセイラさんは否定するのを断念したのか、堂々とした態度で言いきった。



「………わ、私の手に掛かればこんなものです!!」



 パチパチパチパチ!!!




 親指を立てて、片目を一瞬だけ閉じる仕草をするセイラさん、堂々としているが少しぎこちない。未だに心の中で戸惑っていることは容易に想像出来た。だがその振る舞いに詩音とエリスは拍手を送る。ホテル内でも高ランクの部屋に泊まれてよほど嬉しかったのだろう。



 約一週間程の期間を狭い室内でとなると、相当なストレスが溜まるはず。しかも共有なのだから、時間の使い方によっては支度に余裕がなくなってもおかしくない。不便な点が見当たらないのも入れれば、誰も文句が言えないだろう。




「さて、自身の部屋に戻る前に幾つか………」




 セイラさんが発した言葉に、私はそう言えばと思い直す。この後の予定を聞いていなかった。生徒全員の前で予定を伝えていなかったはずで、重要な事は各自の部屋へと移動している際に連絡していたはずだ。



 私達が待機している間、遠目から見ていた時に生徒は、先生達から直々に話しを聞いていた。内容までは聞き取れなかったが、部屋で休憩し終わった後の予定だと推測できる。




「今から二時間後に行われる前夜祭まで休憩です。服装は必ず学園の制服でお願いしますね」



「ん?前夜祭?」



「ご存知なかったでしたっけ? 交流戦は元々学園の行事ですから、前夜祭から開会式を行う手筈になっているんですよ」




 てっきり明日の朝から行われると思っていたが、どうやらそうではないらしい。その後も必要事項をセイラさんから伝えられた私達は、移動時間まで満喫することにした。





















 前夜祭の会場には既に多くの生徒たちが集まっていた。辺りをぐるりと見渡せば、自分自身が身に付けている学園の制服とは違ったデザインの制服を見かける。彼らは第二から第五までの他学園の生徒達だろう。



 それに加えて種族は豊富だ。学園内でもあまり見かけることはほとんどない獣人族が、会場の至るところに居た。知っている者達の中では兎人族のミュレット先輩、狼人族の戒、クラスに一人だけ猫人族の女子生徒が居たはずだ。彼ら獣人族は、学園の特性上では他国に行くことはない。なので此処に集まっている者達はほぼ第五魔法学園の生徒たちだろう。




「他学園の生徒が集まると、思った以上に壮観ですね」



「そうだな。まだ開会式まで時間があるんだろ?」



「そのはずだけどね………」




 聞かされていた開催時刻まで時間がある。にも関わらず、これだけ生徒が集まっているのだ。始まる頃には足場の踏みようがないくらいに人が増えると予想出来る。



 前夜祭と言われるだけはあり、立食パーティー形式だった。開会式が行われる時刻まで時間がかかる為か、会話に興じている者から、食事を済ませようとする者まで様々だ。私達も周囲と同様に食事を行いつつ、詩音とエリスの三人で会話に興じていると………




「すまない、待たせたか?」



「かざね………それほど待ってないよ。食事もあるし、退屈してないから」



「だろうな。私は今まで来たことはないから分からなかったが………第二学園からは龍人族、第三からは森人族(エルフ)が、しかも鉱人族(ドワーフ)まで、彼らの技能は第四魔法学園でしか本格的に学べないからな………」




 獣人族に次いで数少ない鉱人族、かざねの言う通り彼らの持つ技能は第四魔法学園以外では本格的に学べない。第四魔法学園では戦闘や魔法よりも技術的な面を重点的に教えていた。そのせいか、戦闘が苦手であればほとんどの者達、鉱人族は自国の学園へと流れて行く。




「あれ? 他の先輩たちは? 一緒に来なかったの?」



「挨拶回りだ。なにせ、第一から第五までの魔法学園が集まっている。生徒たちの代表である生徒会長も来ている以上、会いに行くのが筋だからな」



「そっか………ミュレット先輩は副会長だから、思った以上に大変そうだね」




 確かに他学園の生徒が居るのだから、代表となる生徒会長が来ていたとしてもおかしくない。本来ならば、第一魔法学園の生徒会長にして聖女とされる人物、シア先輩が交流戦へと行く予定になっていた。



 だが今は、交流戦の会場を駆けずり回っても彼女はいない。その代わり、副会長に就任しているミュレット先輩が、会長代理として方々へと挨拶に回っていた。他にも交流戦に出場するベル先輩と、付き添いでリエナ先輩にセイラさんがいるのだ。問題になることは起こらないだろう。



 トンっ!!



「ッ⁉︎」




 物思いに耽っていると、軽い衝撃によろめきそうになる。背後から誰かがぶつかって来たのだろう。軽い衝撃なので少し驚いたが、後ろの方を振り返る。




「す、すいません!」



「いえ、こちらこそ………」




 振り返ると同時に相手は謝り頭を少し下げた。ぶつかってしまったのは仕方ない。人が増えてきたので多少の問題には目を瞑った方が良いだろう。




「………」



「………んっ?」




 龍人族と思しき二本の角を持った男子生徒、制服からして第二魔法学園の生徒だと分かる彼は、私を見たまま目を逸らさずに見つめてくる。何か用事があるのかと思い口を開きかけたが………




「一目惚れです。付き合って下さい!」



「無理です」












 

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