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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第10話 北条家虐殺事件編 (3P)
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3.君との出会い

パンに直してもらった目覚まし時計が、こちこちと時を刻む。


エレナはベッドで一人、ジュリアがくれたライトを強く抱きしめていた。

2人で買い物に行った時、ジュリアがプレゼントしてくれたタクティカルライトだ。


扉ひとつむこうのリビングでは、ニュース速報が慌ただしく流れている。

〔繰り返します。北条家虐殺事件の犯人が自殺。当時の生き残りの北条ジュリアちゃんを刺殺し……〕


エレナは耳をふさいで、首を振った。

(ちがう、ちがう! あれはジュリアじゃない……!)


ドアの音に、エレナは飛び起きてパンに駆け寄った。

「……パン! 本部はなんていってた?」


パンはどこか暗い面持ちで、エレナをベッドに座らせ、静かに隣に腰かけた。

「エレナ。調査で新たなことがわかった。悪い話じゃない」


エレナは大きく頷き、祈るようにパンを見た。

パンは懐から、やや小さめのクリアファイルを手渡す。エレナは広げてみたものの、それが何を意味するのか解らず、パンを見た。


「ジュリアの遺体は人形だった。ジュリアは現状、行方不明だ。ミリアムもな」


それにエレナが目を大きく見開いて「やっぱり!」と声を上げる。

目を丸くするパンに、エレナは矢継ぎ早に告げた。

「だってあのジュリアの人形、真っ白だったもの! 人間の肌の色じゃないわ」


パンはエレナが死体を見たことがないのだと理解し、頷き返す。それにエレナは溶けるように安堵した。

安堵して、想い溜めた言葉が口を出る。

「ジュリアは生きてるのね、本当に、本当によかった……」

そして、思い出したかのように意気込んだ。

「そうよ、きっとジュリアはどこかで捕まってるはずよ。もしかしたらミリアムも一緒かもしれないわ、今すぐ探しに行こう!」


少し間があった。パンはできるだけ冷静に、ゆっくりと首を横に振る。

「いや、これ以上エレナを危険にさらす事は出来ない。サムソンの意図が不透明すぎる今、君を危険に晒すわけにはいかないんだ」


その言葉に、今度はエレナは首を振った。

「足を引っ張らないように努力する。それに黒金くんもきっと力を貸してくれるよ、みんなで早くジュリアを探そうよ!」


パンはそっとエレナの両肩に手を添えた。

「北条ジュリアは公的に死亡と処理され、我々MIBの任務は終了した」

パンの青い瞳が、静かにエレナを見る。

「今日付けで我々は、君の家を出て行く。無関係に戻るんだ、出遭う前のように」


水を打ったような間があった。エレナの大きな瞳にパンが映る。



「……うそ」

エレナは思わずそう言って、寝室のドアに声を投げる。

「うそよ。ゴハン、いるんでしょ? 2人してふざけるのはやめてよ!」


けれど、返事はない。

ドアを開けてリビングを見渡しても、トイレにも浴室にもバルコニーにも、どこにもゴハンはいなかった。



エレナを追ってバルコニーに出たパンがみたのは、振り向きざまに大粒の涙をおとすエレナだった。


パンはどう声をかけたらいいか、わからなかった。

幼さ残る小娘の、寂しさに潤んだ瞳がパンを見る。夜の学園でみたか弱い少女がそこにいた。

雨で洗いたての空に、いつかのように星が輝いている。エレナの金の髪がふわりと風に流れた。


エレナは涙をのんで、やっとの思いで震える言葉を発した。

「……。これが、パンの言ってた思い出……? パン、言ったじゃない。思い出たくさんつくろうって……これがそれなの? これが、パンの言ってた思い出なの……?」


パンは〔違う〕と言おうとして、ぐっと言葉をのんだ。のんで、静かにエレナの肩に触れる。

「すまない。これ以上、エレナを巻き込めない」

「いや!」

エレナは髪を乱れ散らすように、大きく首を振った。「やだ、いやッ! もう独りにしないで!」


突如、崩れるように声をあげたエレナを、パンはさらうように抱きしめた。

いつかこうなってしまうのは必然だった。ただ、予想よりずっと早かった。雪のように真っ白なエレナを、傷つけなくてはいけなかった。


きつく抱きしめられ、エレナは大きな背に腕を回した。離さないように、必死にしがみつくように。


必死にパンの背をかき抱くエレナに、パンは諦めるように目を伏せる。

(……ずっと独りだったこの子が、ようやく弱みを見せてくれたばかりだというのに)


エレナはパンの腕の中で、喘ぐような嗚咽をもらした。

「やだよ、いなくならないで、お願い……ずっとずっと一緒にいてよう……なんでもするから、お願いっ……」


縋るような涙声に、パンは応えない。


夜風が穏やかに2人を撫ぜる。ふと髪にキスをおとされたエレナが、涙まま見上げた。

パンが歯がゆげに視線を交わす。それはこれまでみたことのない表情だった。

「君との出会いが、こんなかたちでなければと思う……」

優しいキスが涙をぬぐい、頬をぬぐい、そして自然に口づける。


それは本当に、優しい優しい口づけだった。


……・……


ふと目を覚ましたエレナは、ベッドの中でひとつ唸り、寝返りをうった。


いつものベッド、いつもの枕。

夕日が部屋を赤く染めていた。それにエレナは瞼をこする。


「……夕方……?」

頭をかき、両足をベッドから放り出す。小さなあくびひとつして、ふとした。

寝る時はいつも外しているレンズが、首にさげられたままだった。


何かが頭にひっかかった。

昨日、何があったのか……思いだそうにも泉に投げた石のように記憶が遠くすっとんでいる。

確かなのは、集合隔離施設でのできごと、そしてジュリアが生きていたということ……


———今日付けで我々は、君の家を出て行く。無関係に戻るんだ、出遭う前のように———


それに、エレナは弾けるように目覚め、転がるように寝室を飛び出した。

静まり返ったリビングに言葉を失う。


そのままクローゼットに飛びつき、扉をあける。

カッターシャツもコートも無い。ネクタイも腕時計も帽子も無かった。TV台の資料、洗濯洗剤、コップや日用品……すべて。

MIBの私物の一切が、夢のように消えうせていた。


———君との出会いが、こんなかたちでなければと思う……———


デスクに一粒、二粒と涙が落ちる。

デスクには、ゴハン達用に作ったカードキーだけが、静かに置かれてある。

エレナは震える手でカードキーを掴み、やり場もなく床に投げつけた。

カードの軽い音がして、それきり。


「っばか……キス、初めてだったのに、……」


夕日が赤く燃えていた。

静かな部屋でまた一人ぼっちになったエレナは、独り涙を流したのだった。





第1部(1st) おわり

第2部(2nd)へ続く



最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

今後は読み切りをアップしつつ、続編の改稿に着手いたします。

ご感想などいただけたら嬉しいです…!


続編 : https://ncode.syosetu.com/n6218hf/


・FANBOX MIB1st完結記念記事(全体公開)・

https://inexplicable.fanbox.cc/posts/2287019

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