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MIB 1st contact  作者: 光輝
■ 短編 ■
26/42

2.地下倉庫の胎盤


それは、小鳥も穏やかに眠る夜のことだった。


最初にごうん、と音がして、鳥たちがパッと夜空へ飛び立つ。

それからコップの水が震え、輪をかけて大きくなってゆき、地面が大太鼓のように打ち揺れた。


「おお、地震だ。……今の、震度3くらいかな」と天井にゴハンが呟く。


おっかなびっくりのエレナは、体を強張らせたまままゴハンを見た。

「地震?! びっくりした……遠くで爆発でも起きたかと思った!」



……・……



一方そのころ、セリオン学園。


当直の見回り警備員は、当直室でドーナツを一口かじり、コーヒーをすすった。

目の前には大量に刷られたビラ紙が山積みとなっている。


ビラには〔迷子犬、探しています〕という文字と、凛々しい目をしたシェパードが載っている。

グリーンの首輪には、金色のドッグメダルが光っていた。


警備員は白い顎髭をもんで、ビラに溜息ひとつ。

「まったく……お前はどこまで狩りに行ったんだ? ラリー」


警備員はふと、コーヒーの表面が振動していることに気付いた。気付いてすぐ、ごうんという音がして、世界が振動する。

あっと思う間もなかった。

かたく掴んだデスクは少し動いたが、カップが倒れるほどではなかった。


巨人が走り幅跳びでもしたような感覚に、警備員はやっと地震だったことを理解する。

「いかん、今の地震で窓ガラスが割れたやもしれん。登校した生徒たちが怪我しちまう」

言うなりライトを掴んで当直室を出た。


警備員は、廊下を舐めるようにライトを照らしていく。幸いにも、窓ガラス達は無事のようだった。


ふと耳に障る音に、警備員は耳をすませた。壊れた水道管が噴き出しているような水音だ。

警備員は音をたよりに走った。元凶は、あっという間に見つかった。


それは、閉め切って何年にもなる古い地下倉庫の扉だった。扉のむこうで激しい水の音がする。

警備員は鍵の束を指でスライドして、1度も使った事のない古い鍵を手に取った。


埃で硬くなった地下倉庫の扉を開けて、警備員はウワッと声をあげる。


地下倉庫はすっかり水浸しで、階段まで水があふれ上がっていた。暗闇のせいか、水はまるで墨のように真っ黒に見える。

さっきの地震で水道管でも破裂したのか、溢れる黒い泡は石油でも掘り当てたかのようだ。


「こりゃあ大変だ、学園長に連絡しないと」


警備員は、ふと妙な水しぶきに目を皿にした。

水面に喘ぐように、何かがもがくように動いている。


「いかん、誰かが溺れているぞ!」

警備員はとっさに水に飛び込んだ。思いのほか深く、あっというまに水位は胸元まであがる。

構わず大きく水をかきながら、やっともがく腕をつかんだ。


やっとこ引き上げたそれは、シェパードだった。

グリーンの首輪には、金色のドッグメダルが光っていた。


挿絵(By みてみん)



小鳥が爽やかな朝を告げる。


ニュースはセリオン初の地震にもちきりだった。

それを横目、エレナがスマホを耳と肩に挟む。ふと、パンケーキにバターを塗る手が止まった。

「えっ休校? どうして?」と。


通話先のミシェルは頷いた、

『うん。なんでも昨夜の地震の影響で、学園の地下倉庫が水没したんだって。工事が大掛かりになるかもしれないね』

「水没! 地下倉庫なんてあったんだ」


じゃあまたねと通話を終えた時同じくして、パンも通話を終えた。

そして示し合わせたかのように、パンがスマホを振ってみせる。


「仕事だ。その地下倉庫の浸水について」



エレナ達が学園に到着したのは、午前7時をまわったころ。水道業者の簡単な調査がちょうど終わったころだった。


校門を抜けたダークスーツの2人組と1人の少女に、作業員たちは両手を広げる。

「工事が終わるまで、立入禁止だよ」


言い終える前に、パンは流れるように1本の太いペンを突き出した。例のオプジェネティック・レーザーだ。

作業員たちは、磁石に引き付けられたかのように釘付けになる。


パンは静かに告げた。

「工事の必要はなかった。君たちはこのまま本社に戻るんだ」




地下倉庫前は、キープアウトと書かれた黄色いテープが貼られていた。

パンはそれを遠慮なく引き千切り、回収していく。


「こんな場所があるなんて知らなかった」とエレナ。階段途中はすっかり水の世界だ。

中の浸水はすっかりおさまっているようで、物音ひとつしない。しかし水は黒く濁っていて、お世辞にも綺麗な水とはいえなかった。

レンズで視ると、水全体が緑がかって視える。

「なんだかぼやけてて、ちょっと緑っぽく見えるよ」


ゴハンは思案を流すように、顎を指先でつまんでいる。

「ってことはエイリアン確定か……なんでまた学園の地下なんかに?」


黒いトレンチコートを脱いだパンが、おもむろにネクタイをゆるめた。

「中を見てこよう」



パンはとっとと脱いで、階段を降りていく。

エレナは震えるように首を横に振った。

「やめようよ、パン。ばい菌いるかも、汚いよ。何か踏んでも危険だし」

それにパンは軽く片手をあげるだけだった。一呼吸おいて、静かに水中へ消えていく。


ゴハンが顎で汚水を指した。「もっとひどい現場を回ることもある。比べりゃここはプールみたいなもんさ」


パンが潜ってすぐのこと。まるで風呂の栓を抜いたかのように、水位がみるみる下がっていく。

やがて階段を上がって現れたパンは、枕ほどのサイズの塊を地面に置いた。


エレナがおずと目を眇め、「……なにこれ」。


挿絵(By みてみん)


それは粘菌というか、赤黒い胎盤のようなものだった。よくよくみれば、微妙に動いている。

エレナはレンズをかかげ、胎盤のようなものをみた。

おだやかにゆらめく虹色の先、胎盤は心臓の鼓動のようなモヤを放っている。


「こいつが浸水の原因だろう」とパンが呟き、一息に続けた。

「ここ地下倉庫を浸水していたのは、水ではなくこいつの体液だ」


エレナはぎょっとした。体液まみれのパンと目が合う。

「……エレナ、すまないがレンズの光を当ててくれないか」

エレナは大きく頷いて、レンズごしにタクティカルライトを当てた。パンはたちまち乾いていく。

同時、地下倉庫の水が逃げるようにひいていった。


すっかり底の見えた地下倉庫は、濡れた痕跡ひとつない。ただ一筋、地震でできたであろう真新しいヒビ割れがあるだけだった。


ゴハンが足先で胎盤をちょっと突いてみた。縮みあがったキンタマみたいな硬さだ。微妙に蠢くとこまでそっくりだった。

「エキゾチックの一種だね。でもレンズの視え方からして、ほぼ地球産かな」

それにエレナがゴハンを見る。

「ほぼ地球産?」


パンが頷いて、胎盤を特殊なボックスに入れた。どうみてもクーラーボックスだが、そういうデザインのボックスらしい。パンは蓋を閉め、軽く頷いた。

「ああ。未知の飛来生命体が、何百万年という歳月を経て、奥深い地中から現れることはそう珍しくない。

これは大昔に、地中深く眠っていた1種だろう。おおかた地震で集まったか」


エレナは「へぇ~!」と感心に頷いた。ほぼ地球産なのにエイリアンだなんて、不思議な話だと。


ゴハンが仕切り直しに手を叩く。

「よーし、じゃあ今回の任務はこれにて完了! おつかれさ~ん」



エレナはふと、パンの体液が全部落ちたか気になって、レンズをかかげてみた。

かかげてすぐ、足元に違和感を感じる。おだやかにゆらめく虹色の先……地面に、ナメクジが這ったような痕跡を視た。


「2人とも、待って! うっすらだけど、何かの筋が続いてるよ!」


何かの筋は廊下を出て、正面玄関を出て、裏庭の駐車場まで続いていた。

しかしそこで途切れていた。

「輪止めに、警備員専用駐車スペースって書いてるね」とエレナ。


ゴハンがおどけるように肩をすぼめた。

「……警備員さんとドライブにでも行ったかな? 何百万年という歳月を経て」


パンはゴハンに軽く首を横に振った。

「本体はボックスの中だが、幼生が逃げ出した可能性がある。ともかく、この痕跡の跡を追おう。警備員の家に行くぞ」


……・……


MIB一行を乗せた車は街を抜け、緑あふれる山間部へと続いた。

窓を開けると心地いい風が入ってくる。

あたりはぽつぽつと家があるだけで、あとはだだっ広い畑の世界だ。ちょっとした絵画みたい、とエレナが髪をなびかせる。


やがて目的地にたどり着いた一行は、車を降りた。

警備員の家は、なんてことない素朴な一軒家だった。白いペンキがちょっと剥げてはいるが、きちんと手入れされてあるのが伺える。

庭のプールサイドで、シェパードがのんびりとくつろいでいた。


「あ、シェパード! 大きくて可愛い~!」とエレナ。



玄関を開けた警備員は、目を丸くしてダークスーツ姿のパンを見た。

「おや、パン先生! 一体何の用で?」言って、後ろのゴハン達を見て「おお、新入生くんに、モーガンさんも!」

警備員は驚きつつも、皆目見当つかない面持ちだ。


パンは知的で穏やかな微笑みを警備員に向けた。

「どうも、突然すみません。少しお伺いしたいことが」


ゴハンがちらとエレナを見る。

レンズを下げたエレナは、OKのハンドサインを返した。警備員は普通の人間だと。

「OK! エレナちゃん、俺たちは警備員さんと話すから、車で待っててくんない?」


エレナは頷いて、プールサイドでくつろぐシェパードを指さした。

「待ってる間、あのワンちゃんと遊んでてもいい?」


警備員は親しみ溢れる笑顔で大きく頷いた。

「ああ、どうぞどうぞ! 狩猟犬だがとっても賢くて優しい子だよ、モーガンさんともすぐに仲良くなるさ」

言って、パンたちを家に招いた。

「どうぞどうぞ。ちょうど珈琲豆を挽いたとこでしてな」



「おいでおいで~、一緒に遊ぼ!」

エレナはしゃがんで、シェパードと仲良くなろうと地面に両手をつく。

シェパードのグリーンの首輪には、金色のドッグメダルが光っていた。メダルには〔ラリー〕と彫られてある。

「ラリー、いい名前ね。おいでラリー」


犬ことラリーは不動に、曇った瞳でエレナを見ている。

垂れた尻尾が庭のプールに浸かっていたが、ラリーはまったく気にしてない様子だ。


エレナはちょっとおかしいなと思い始めた。

犬って言うのはもっとこう尻尾を振ったり、口を開けてハッハッとかしなかったっけと。

ラリーはまるで剥製のような、どこか不気味な気配があった。


ふと立ち上がったラリーが歩み寄り、エレナの背に回る。

「あっ、お尻を匂うのは犬の挨拶だよね。どうぞどうぞ、仲良くしよう」

しかしラリーはそのままおもむろに、エレナのベルトを掴むように噛みついた。

「えっ」



パンは警備員からコーヒーを受け取った。

いい豆の香りが漂う、暖かいムードの家だとパンは思った。

「昨夜は驚きましたね。大変だったでしょう」


警備員はコーヒーを一口すすった。

「おお! 地震があったな、ありゃあ驚いたよ。地下倉庫も水道管が割れたとかで、今日は休校だってなぁ」

山賊のように笑う警備員に、パンは穏やかに訊ねた。

「何か、変わったことはありませんでしたか?」


ゴハンは適当にあたりを見ていた。不審なものはないかと目を光らせる。

壁には狩猟で得た獲物の剥製がいくつも飾られてあった。

剥製たちは曇ったガラスの瞳で、ゴハンを静かに見下ろしている。


(警備員サンは趣味でハンターをやっているのか。なかなかいい腕みたいだな)

ゴハンはそのまま舐めるように視線を流した。

そして暖炉のふと隣……山積みのビラ紙に目が留まる。

ビラには〔迷子犬、探しています〕という文字と、凛々しい目をしたシェパードが載っている。さっき庭にいたシェパードだ。


警備員はご機嫌に頷いた。

「変わったこと? そうだ! どういうわけか地下倉庫で、迷子だったラリーが見つかったんだよ」


パンがゴハンを見る。ゴハンもパンを見た。

「「さっきの犬のことか!」」

2人は弾かれたように立ち上がり、庭へと飛び出す。あっけにとられた警備員が、遅れて後に続いた。



「ひぃゃぁ~」

エレナはラリーに引きずられていた。それはもうとんでもない力で、問答無用の無情な引きずりっぷりだ。

遊びのそれではなく、獲物を巣に持ち帰る獣のようだ。

エレナは驚きとその恐怖から、腰が抜けた擦れ声しか出なかった。


その先のプールに持っていく気だと把握したエレナは、とっさにガーデンチェアを掴むも、それごと引きずられていく。

背中で、ラリーが尻からプールに入ったのがわかった。


ゴハン達が駆けつけるのと、エレナが水中に引きずられるのは同時だった。


最初に駆け付けたゴハンが飛び込み、ラリーを大きく殴り飛ばす。粘土のように歪んだラリーに、エレナは意識がぶっ飛びそうになった。

(ラリーが、逃げ出したエイリアンだったの!?)

でもそれどころではなかった。てこでもエレナを放さないラリーと、ゴハンの攻防は続く。

エレナは呼吸の限界に、暗闇をみた。腕を掴まれて、うんと体に重力がかかる。


「エレナ。しっかりするんだ、エレナ」

背中でパンの声がした。プールサイドに引きあげられたエレナは、空気と一緒に呑みこんだ水をゲェと吐く。

鼻の奥がツンと痛かった。咳込んで、噛みつくようにプールをみる。

「ご……ゴハンは!?」


慌てふためく警備員をよそに、プールから上がったゴハンは、毛まみれの肉袋を地面にくれてやった。

よく見ればそれは、ラリーだった。正しくは、ラリーに似ていた肉袋だ。


地面に広がるそれには、ちぐはぐに目玉や鼻が埋まっていたのだから。




木製の鳩時計がこちこちと時を刻む。

穏やかに揺れるレースのカーテン遠く、プールサイドでは警備員が膝をついていた。


「ああ神様、……どうしてこんな」

警備員はラリーだった革袋を直視できず、現実に絶望するように頭を抱えている。

痛みに耐えるかのような、震えた溜息が響いた。

「……わしは狩りで迷子になったラリーが……ラリーがわしを追いかけてきたと思って……」

皺が深く刻まれた指が、鼻柱の根をもむ。涙がきらりと見えた。

「教えてくれ、これは一体何なんだ? 生きた革袋のような、ラリーだったこれは」


ゴハンはガーデンチェアに腰かけた。両手を後頭部にやって、革袋を顎でさす。

「こいつは水死体を食う、多細胞生物だよ。

死体のDNAを取り込み複製する。それを陸に放して囮にし、かかった獲物をまた水に引きずり込んでエサにすんの。

ラリーだったこの肉袋は、あんたを食うための囮だったんだよ」


静かな間があった。

車のドアが閉まる音がして、クーラーボックスを抱えたパンが警備員に寄り添う。

「狩りの途中で、ラリーは遭遇してしまったんだろう。

都会ではまあ稀有な例だ、こいつはコンクリートを破れないし、陸では行動がかなり鈍くなる。

それでもこれは貴方を食うために、水脈をゆっくりと漂って、その機会を伺っていた。

その矢先、昨夜の地震で割れ目ができて地下倉庫に現れたというわけだ」


警備員はわずかに揺れるように頷いた。諦めたかのように落ちる涙を拭う背は痛ましい。

パンはそっと肩を抱いてやった。

「……今回は、不慮の事故だったんだ。さっさと狩り場を離れたから、運よく貴方は生きている。

エレナのように立ち止まっていればたちまちポイントされ、貴方は今頃この胎盤の中だった」

そう言って、クーラーボックスを親指で指した。


ゴハンが、胎盤が入った特殊なクーラーボックスを開けた。

「こいつが本体だぜ。見てな」

ボックスを横に倒すと、胎盤がつきたての餅のように芝生に転がる。

胎盤にナイフを入れると薄皮はあっというまに弾け、赤黒い液体が溢れ広がった。えもいわれぬ悪臭も一気に広がる。


そこから流れ転がったものに、エレナは思わずパンの背に隠れ、気持ちの悪さにえづいた。

骨がいくつかと、首輪が1つ。グリーンの首輪には、金色のドッグメダルが光っていた。


「ノー! ラリー!!」

警備員はすがるように跪いて、骨と首輪をかきあつめ、声をあげて泣いた。



ラリーの骨を埋めたお墓に、警備員がそっと花を添える。

あたたかな太陽が、花の雫をきらりと光らせた。


「ありがとうよパン先生、ゴハンくんにモーガンさん。おかげでラリーは家にかえることができた……」

鼻をすすった警備員は目を赤くはらしていた。悲しみが癒えるには、時間が必要だろう。

エレナも思わず涙をぬぐう。

「警備員さんのそばに戻れて、ラリーもきっと安心してるよ」



「それでは我々は引き上げるとしよう」

スコップを木に立てかけたパンが、流れるように1本の太いペンを突き出す。例のオプジェネティック・レーザーだ。

警備員は、磁石に引き付けられたかのように釘付けになった。

パンは静かに告げた。

「ラリーは山で熊に襲われた。貴方は我々が家に来たことを覚えていない……」


それにエレナが告げ足した。

「天国のラリーはとても幸せだよ、大好きな警備員さんの幸せをずっと願ってるからね」


ゴハンは涙ぐむエレナを横目見て、軽く頭を撫でてやった。




エレナは流れる景色を見ていた。


警備員の大切な家族である、ラリーは死んでしまったのだ。もう帰ってこない。それが悲しかった。

2人のように死に分かれたものたちは、いったいどれほどいるのだろうと……。


しょげるエレナをバックミラーで見たパンは、それとなく口火を切った。

「警備員が食われる前でよかった。ラリーもエレナに感謝しているだろう。よくやった」

エレナは小さく頷いた。



やがてぽつぽつと家が増え、見慣れたトリプリシティへと変わっていく。

ふと助手席のゴハンが振り返った。

「今日は水難日だったねー、全員ぬれねずみ! 厄払いに、帰ったら風呂で遊ぼうせ」


それにエレナががんと首を振った。

「えっ、一緒にってこと? イヤ」

「違う違う、温水プールだよ。水着を着て、あったかいプールで遊ぶやつ! バスルームすっごく広いからさ、バブルバスにしたら絶対楽しいぜ。

みんなで超でっかいシャボン玉作ったり、ウォーターガンやビーチボールで遊んだりね」


トークショーのホスト並の口車に、エレナはちょっと考えて、素直に頷いた。

「……そっか、プールと同じなら問題ないか。楽しそう!」


ちょろいエレナに、パンが内心オイオイとつっこむ。

ちょっとでも勘繰りがあれば女らしいものだが、エレナはガキんちょ丸出しで楽しさに目が移っている。

悪い男にホイホイひっかかりそうだなと思った。それも、ゴハンのようなちょっとアホな部類の男に。


ちょっとアホな部類のゴハンは、酒呑みのように陽気に両手をあげた。

「じゃあ決ッまり~! ついでに昼飯はナクドナルドのドライブスルーだ、せっかくの休校だ、がんがんやっちまおうぜ!」

「やったー! 私、温水プールでアイス食べたいっ! チョコと生クリームの!」


パンはちょっと笑って、ハンドルを握り直したのだった。




穏やかな風がカーテンを揺らす。


警備員は夢をみた。元気いっぱい庭を走るラリーの夢だ。

ラリーは警備員に飛びついて、めいっぱい顔を舐めた。いっぱいの大好きをこめて、いっぱいのありがとうをこめて。

そして尻尾をめいっぱい振って、空から伸びる虹色の梯子へ走っていった。


眠る警備員の目に、幸せそうな涙がうかぶ。

その手のグリーンの首輪は、金色のドッグメダルがきらりと光っていた。



挿絵(By みてみん)

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