Episode43 2人の能力者
あれから、どれぐらい経ったのだろう。地面に横たわっていた僕は体を起こして、みんなを見た。マリアも魔力が完全回復したようで既に顔色も良くなっている。
それから、僕たちはマリアの出した車に乗って、森の外を目指して発進した。初めは崖の縁を走り、やがて道に戻ってそこを進んだ。
ギュゥゥゥゥゥッッッッッン!
その途中、僕たちに向かって凄まじい速度で黒い線が襲いかかってきた。僕はとっさの判断で、
「プロテクト!」
と唱える。すると、障壁に当たった線はそこで割れ、枝分かれした細い線が後ろの地面を抉った。
ギュンッ!ギュンッ!ギュンッ!
続いて、いくつもの黒い球体が襲いかかる。僕はソードビームを放ち、それを打ち消す。と、後ろからの気配。僕はとっさの判断で腰を捻らせ、そのまま防御の体制へ。
ズパンッ!
掠れた音と共に顔に赤い液体がしぶいた。鉄臭い臭いから鮮血であると判断する。僕は車から降り、他の4人も車から降りる。まず、見えたのは手首から先が無い男1人。だが、みるみる内に手首から先が再生した。表情は少しだけ穏やかである。
スタンッ!
そんな音が聞こえて、僕たちは音のした反対側を見る。そこに、掌の上にさっきの黒い球体を浮かせた男1人。口元はつり上がり、ふてぶてしさを醸し出している。
「誰だ!」
僕は剣を構える。バーロンも同じく剣を構え、テーラはナイフを抜き、マリアは杖を翳し、ニコラスは銃を突き出す。そんな殺伐とした雰囲気の中、ふてぶてしい方の男が、
「良いだろう、答えてやる。俺はザグレス。黄昏界から来た者だ。ちなみに、俺は能力の内の1つ・暗黒砲台を有している。」
と言う。次いで、もう1人も
「私はトロント。ザグレス同様黄昏界から参った。能力の内の1つ・身体変化を有している。」
と同じように言う。
「お前が神宿しか。俺の必殺光線を『プロテクト』で防ぐとは流石、神を宿しているだけはある。」
ザグレスがほくそ笑みながら、僕を見る。
シュッ...!
ほとんど音も無く、静かにテーラのナイフが飛んでいった。ザグレスは胸の横辺りで人指し指に円を描く。すると、黒い円状の物が現れ、そこへナイフが突っ込んだ。
ギュィィィィィン!
「おっと。」
そこで、ナイフはどんどん削れていき、やがてただの粉に分解してしまった。
「嘘!?」
テーラが大いに驚く。
「人が話をしてるいる時にそんな物を投げてくるとは...。随分と無礼なことを!この森諸とも殺してやろうか!」
ザグレスはまさに鬼の形相で掌を天に掲げて黒い球体を作った。そして、それは一瞬にして巨大化した。
「ザクレス!私もいることを忘れるな!それを放てばこの辺り一帯が消し炭になる!そんなことをすれば、お前を除く全員が蒸発するぞ!」
トロントが叫ぶ。僕たちは彼の言葉を聞いてゾッとした。
ザグレスの有する暗黒砲台の恐ろしさ。それは、その威力と攻撃範囲による物である。攻撃範囲内であれば、直撃と同じダメージを食らい、そのダメージは大きさのあまり人間をも蒸発させてしまう。威力は水素爆弾の数万倍もある。だが、爆風なども無く攻撃範囲外には何の影響も及ぼさないのである。
僕たちはザグレスを怒らせてはならないことをすぐに察した。彼はトロントに言われて既に球体を散らせたが、まだ少し怒りが残っている。
「フンッ...。トロントのおかげで命拾いしたな。だが、死ぬのが少し遅れたぐらいだろうな。これから、お前たちをなぶり殺してやるのだから。」
その言葉と共に怒りは消え、代わりにふてぶてしい笑みが戻って来た。
スッ!
ザグレスの手が上がった。その瞬間、あたりは少し鉄臭い赤い霧に包まれた。これでは、同士討ちの可能性が出てしまい迂闊に動けない。そんな、敵も味方も分からぬこの霧の中で戦端の幕が切って落とされた。