Episode23 鎧蠍となったクリス
その蠍は、信じられないスピードで突進を繰り出してきた。それも、背中を打って動けなくなったバーロンとテーラに向けてだ。
至近距離で黒い波動を食らった痛みに耐えながら、
「危ないっ!」
とだけ言った。それで、精一杯だった。これを聞いた2人は痛みで動かなくなった体を無理矢理、動かして、紙一重でその突進をかわし、テーラはナイフを投げた。しかし、蠍の鎧は堅く、あっさりと弾き返されてしまった。
凶虫にもあの巨人にも、サキュバスにだって核という弱点があった。その場所は色々だったが、全てに核があった。しかし、この蠍には核がない。少なくとも、一目ではわからない。
そして、その蠍が今度はこちらを向いた。すぐさま、僕は
「女神よ、我に癒しを!スーパーヒール!」
と唱えた。これで、僕の魔力は一気に半分までに減少した。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。それに、エリーナさんが言っていたではないか。僕は神宿しだって。僕の魂には神の子が宿っている。いわば、半神に近い存在と言うことだ。普通の人間より、魔力の回復スピードが速くたって良いはずだ。
僕はそれを信じて、まず「ドローイング」で遠くに飛んでいったロンギヌスを引き寄せた。そして、残りの魔力のさらにその半分を剣に魔力を込めた。
ギュォォォォォン!
と、蠍は人間が変化したとは思えない吠え方をした。ヤツは大きい方の鋏を開けて飛んできた。筋肉が剥き出しになっている。僕は、そこへソードビームを放った。すると、
キャァァァァァス!
蠍は叫んでから、怯んだ。
そこへ、マリアが紫雷の矢を放つ。バーロンは「ハーディ」をかけてもらった剣で斬りにいく。テーラはナイフを投げ、ニコラスは銃を唸らせる。
シュバ、シュバ!キーン!シュンッ!ズドドド...!
さまざまな音が鳴り響く。
しかし、全て防がれたようだ。紫雷の矢は分厚い殻で受け流され、「ハーディ」をかけた剣もその殻を通しはしなかった。蠍が尾を振ったので、バーロンは後退した。さらに、その尾によって銃弾が全て受け止められる。僕は残り1/4ほどしか魔力が残っていなかったが、何とか立ち上がることが出来た。
続いて、僕は残りの魔力をロンギヌスに込めて、ソードビームを放った。狙ったのは尾の細くなった部分。そこは一瞬にして千切れた。千切れた尾は弱々しく動いている。もちろん、それ以降、意外に厄介な尾の攻撃は起こらなくなった。
それから、僕は
「僕は魔力が足りない。それまで、耐えてくれ。」
皆にそう言う。すると、全員が頷いてくれた。彼らはかわしては攻撃し、かわしては攻撃しのヒット&アウェイの繰り返しだったが、これが一番安全で確実にダメージを与えられる方法だった。
そんな中、僕は考えていた。ヤツにも弱点はある。サキュバスは剥き出しになっていた。血のような暗い赤色をしていた。そして、全て単独の球体だった。ん?単独の球体?変身直後に見たあの目は単独の球体だった。それに、目の中央が赤くなっていた。十分可能性はある!
そう考え至った頃には、魔力はほとんど回復していた。僕は、
「モーメント!」
と唱えて、蠍の前に立ちふさがり、さらに
「クロスカリバー!」
と唱えて、目を体ごと貫いた。すると、目から大量の血が吹き出す。気持ち悪かったが、目が核だったことがわかった。
そして、中から血だらけになったクリスが現れ、杖をつかみ呪文を唱えようとした。
「マーダ...」
しかし、その前に彼は力尽きた。
僕は出来るだけ血の少ないところを掴んで茂みの中へ放り投げた。バッファル島で死体遺棄をすると、補導はされるが、犯罪ではない。前科にはならない。ましてや、島がこの状況で補導されて旅が邪魔されることもない。その時の僕の頭には、犯罪でなければ良いという考えがあった。