老いぼれの独り言
「やあ、皆! いつも読んでくれてありがとう! それは、そうと葵ちゃんについて6時間ばかり話さないか? 正直この程度じゃ葵ちゃんの全てはーーー」
「あ~あ……もう帰らないとダメなのか~。ちょっと寂しいね」
午前中、川で遊んだ私達は帰り支度をしている。そんな時夏希がため息混じりに言う。
「そうですわね……ちょっとだけ寂しく感じますわ」
ひよりんも車に荷物を積みながら寂しそうな顔をする。
「おーい、お前ら全部積んだか~?」
優斗が玄関の方から声をかけてくる。
「うん、大丈夫みたいだね。優斗君! オーケーだよ!」
晶也が皆の荷物が有るのを確認して優斗に手を挙げて返事する。
「ふぁ~……ねみー」
遼はとっくの前に荷物を積み込んで車の中で休んでいる。なんでも、寝不足だとか。私より先に寝たはずなのに、なんでだろ?
「皆乗ったね。じゃあ紺野、頼むよ」
「分かりました」
車がゆっくりと動き出す。窓から見える晶也の別荘を寂しそうに見つめる夏希とひよりん。
「そんなに寂しそうにしなくてもさ! 夏は始まったばかりだし、これからも皆で遊べばいいじゃん! な?」
私は夏希とひよりんに笑いかける。正直、私も少しだけ寂しい気持ちはあるけど……。でも、まだまだ夏は終わらないし、そもそも夏休み始まってまだ1週間も経ってないし!
「そだね……。うん、よーし! 夏を満喫するぞー!」
「おー! ですわ!」
なんとかテンションを戻した夏希とひよりんを見て安心する。
「ぐごーぐごー」
私の隣では既に寝てしまった遼が寝息を立てている。
「ふぁ……遼を見てたら私も眠くなってきた……」
あー、ダメだ。ちょっとだけ寝よ……。うっすらと皆を見ると、全員が眠そうにしていた。昨日あれだけはしゃいで、今朝も同じぐらいはしゃいだんだ、そりゃ誰だって眠くなるよな……。
「ん…………」
喉が乾いて目を覚ますと、車はサービスエリアに停まっていた。
「あれ……私……遼にもたれちゃってたんだ。ごめんな、遼」
そう言いながら体を起こして、周りを見た。
ひよりんは夏希とお互いにもたれ合っていた。こうして見ると姉妹みたいだな。優斗と晶也は、何故かお互いの頬を引っ張りあって寝てた。何してたんだコイツら……。遼は相変わらず腕を組んで寝ている。
「あれ? 紺野さんは?」
ふと、運転手の紺野さんが見当たらない事に気づく。
「うへぇ……暑い……」
車を降りると、モワッとした熱が体を包み込む。とりあえず、飲み物を買おう。そのついでに紺野さんを探すか……。
ラッシャッセー
「あ~……涼しい~……」
コンビニに入ると外とは打って変わって、冷房の冷たい風が火照った体を冷やしてくれる。
「おや? 葵様、起きられたんですね」
涼しさを満喫していると不意に声をかけられる。
「あ、紺野さん」
振り返ると紺野さんが立っていた。
コンビニから出て、噴水のある休憩スペースに移動する。あ、日陰になってし、噴水の水がミストみたいで気持ちいい。
「すいません、少し疲れてしまいましてな……。いやはや歳ですかな」
そう言いながら椅子に腰を下ろす紺野さん。
「すいません、運転させっきりで」
「いえいえ、それが執事である私の仕事ですので」
紺野さんは、そう言うとニコッと笑って返してくれる。多分だけど、この仕事に誇りを持ってるんだろうな。
「時に葵様。坊ちゃんの事なのですが……」
「なんですか?」
少し真面目な顔をした紺野さんを見て、私も姿勢を正す。
「坊ちゃんから聞きました。葵様にお気持ちを伝えられたと」
「あ、はい」
「そして、フラれたと。まぁ、坊ちゃんの事です、大方強引に言ったのでしょう」
ハハッと笑う紺野さん。
「はい……き、キスされました……。急に」
「ハハハッ、実に坊ちゃんらしい。回りくどいやり方は好かない人ですからね」
えぇ……。それでも段階は踏もうよ……。
「それほど、葵様の事を好いているのでしょうな」
「はあ……」
「葵様。今から言うことは、じじいの独り言として下さいませ」
「え?」
そう言うと紺野さんは、静かに話し始めた。
「坊ちゃんは昔からやんちゃな方でした。隙を見つけては、稽古をサボったり、家庭教師の授業をサボったり……。坊ちゃんは、どうも堅苦しいのは苦手な様でしてな。大事なパーティが有ろうと抜け出す程で……」
昔を懐かしむ様に紺野さんは話す。思わず私もその話に吸い込まれてしまう。
「そんな坊ちゃんに縁談のお話が来まして。お相手は、香照院家の日和様でした。これで、少しは大人しくなるかと思ったのですが……日和様もやんちゃでして……。ハハッ、よくお2人にイタズラされました。日和様も坊ちゃんと同じく、堅苦しいのが苦手だったようで。香照院ご夫妻も手を焼かれているとか」
「何が何でも、己の道を突き進むお2人には……堅苦しいお家柄が嫌だったのでしょう。ご夫妻が決められた縁談も、お2人揃って猛反対。私からすれば、お似合いの様に見えたのですけど……」
「よく、坊ちゃんは言っておられました。僕は駒じゃない! 僕の道は僕が決める! と。だから縁談に反対するんだと。そんな事を言っていたある日。坊ちゃんが日和様と喧嘩をしたそうで、それ以来今の様に犬猿の仲なのです。」
「しかし、私は思うのです。あれはわざとやっているのでは? と。縁談を無くすためにやっているのでは無いか? と。お2人はとても仲が良かったのです。少し喧嘩をしただけで、壊れるような仲ではありません。ずっと見守って来た私が保証します」
「ここからは、私の勝手な想像です。本当は、お2人は好き同士で、しかし、結婚すれば親の思う壷。ならば、1度縁談を無くさせ、自分達の口から言おう。と、無い頭を働かせた訳です。そこまでする必要が有るのか? と聞かれますと、あのお2人には有るのです」
「ご夫妻の……つまり、ご両親の言うことは聞かない。そういう信念を、己が道を持っていらっしゃるのです。なれば、この考えもあながち間違いではないのでは? そう思うのです」
「夜な夜な、日和様の写真を見つめては、ごめんな。なんて言っておられる坊ちゃんも見たことありますし……尚のこと先程の考えが的中している気がしてならんのです」
そこまで話しきって、紺野さんはふぅ……と、ため息を吐く。
「葵様。私からこれを言うのは些かお門違いだとは思います。しかし、どうか、坊ちゃんの目を覚まさせてあげてください。今の坊ちゃんは自分に嘘を吐いていらっしゃる。見ていて、この老いぼれも辛いのです。何卒、宜しくお願いします」
そこまで話し終えた紺野さんは、さっきの真剣な表示から一転、ニコやかな顔つきに戻った。
「さて、そろそろ戻りましょうか」
そう言って、車の方へ歩いていく紺野さん。私は、今の話を聞いてどうするべきなんだろう…………。
「バカ晶也がご迷惑をお掛けしましたわ……。そ・れ・よ・り・も! 私がやんちゃとはナットク出来ませんわ! 私はいつもお淑やかで、大人なレディでーーー」




