92話 結界の解除方法
「結界は解除できないのか? メシアとアーロンが戻ってきた以上、屋敷に行く理由はねぇだろう?」
確かにクロさんの言う通りだ。
目的がなくなった以上、無駄な戦闘は避けた方がいい。
「そうだな。撫子、早速で悪いんだが、解除できるかやってみてくれないか? 今俺たちはデュークの結界に閉じ込められている」
「はい、やってみます」
エルヴィスさんも同意らしく、撫子さんに事情を説明し協力を求める。
そしてクロさんも含め三人で結界の端へと向かった。
キュー。
「え、キュアちゃんも行くの?」
チュン。
大人しく待っていようとしていたのに、キュアちゃんはそれを許さない。確認もせず三人の後を追っていくから、仕方なく私も恐る恐るついていく。
「キュアアーティ、穂香?」
「すみません。キュアちゃんがどうしてもついていきたいらしくて」
キュー。
すぐエルヴィスさんに気づかれ、恐縮しながら答える。キュアちゃんは元気よく返事。余計に申し訳ない。
「まさか、結界を解除できるのか?」
キュキュ。
クロさんの問いに、キュアちゃんは全身を横に激しく振る。
どうやら解除はできないらしい。
じゃあ、なんで?
「もしかして方法を知ってるの?」
チュン。
撫子さんが聞くと、今度は縦に振った。
解除はできない。
けれど方法は知っている。
つまり――私の能力では解除できないということか。
まぁ、それは分かっていたことだから仕方がない。
ショックでもなんでもない。
「だったら撫子さんが、キュアちゃんを使えばいいんだね?」
私が前向きに提案すると、逆に異様な空気が流れ、皆の視線が集まった。
私、おかしなこと言った?
「それは無理だろう? キュアアーティは穂香さん専用武器だ。他人は使えねぇ」
「……キュアちゃん、落ち込んでますよ」
「あっ?」
クロさんにバッサリ否定され、撫子さんにはため息混じりに指摘される。
慌てて視線を戻すと――
そこには、滅茶苦茶落ち込んでいるキュアちゃんがいた。
キューン。
「キュアちゃん、ごめんね。もうそういうこと言わないから許して」
慌てて抱きしめ、頭をなでなでする。
そうだよね。
キュアちゃんは私の武器というより――大切なパートナー。
それなのに、私の配慮が足りなかったせいで傷つけてしまった。
もう貸したり譲ったりなんてしない。
するとキュアちゃんは許してくれたのか、甘えるように体を寄せてきた。
「それにしても、キュアアーティが解除方法を知っているってことは……魔族の古代魔術なのか?」
「かもしれない。クロ、専門家を呼べたりしないか? 詳しく調べたい」
「ああ。旅館に戻り次第、すぐ手配しておく」
エルヴィスさんとクロさんは仮説を立て、対策を練り始める。
護りし戦士としてだけでなく、考古学者としての血も騒いでいるらしい。
いつの間にか少年みたいに目を輝かせている。
時間を忘れて本の虫にならないといいんだけど。
私が監視しないと、この人きっと駄目なんだろうな。
「エルヴィスさんって探求心すごいですよね?」
「うん。メシアのために博識になるって言ってたけど、もともと探求心の塊だったと思う」
撫子さんの目にも、そう映ったらしい。
二人で微笑みながら、エルヴィスさんを見る。
「二人してどうした?」
「旦那がガラにもなく、目を輝かせてるのが珍しいんだろう?」
そんな私たちをエルヴィスさんは首をかしげるが、クロさんにはすべてお見通しだった。
「は、俺が?」
本人には自覚がないらしく、きょとんとする。
そんなエルヴィスさんも、なんだか可愛らしい。
クロさんも含め三人で笑うと、エルヴィスさんは恥ずかしそうに咳払いした。
「さっさと結界を解除するぞ。撫子、出来るか?」
いつもの表情に戻ると、和やかな空気も終わりを告げる。
どうやら結界の端にはすでに到着していたらしく、見えない壁を叩いた。
「――キュアちゃん、どうすれば解除できるの?」
キュキュキュ。
「え、グリップを持てばいいの?」
チュー。
私は小声でキュアちゃんに問いかける。
すると、なんとなく言いたいことが分かり、グリップを握りしめた。
すると――
キュアちゃんの意思が、はっきりと頭の中に流れ込んでくる。
そして私は、結界の解除方法を理解した。
確かに、私の力だけでは到底無理。
だけど、メシアの力が加われば解除できる。
……いや。
メシアの力だけでも、なんとかなる?
「……すみません。多分、私だけでは無理だと思います。解除方法も、なんとなくしか分かりません」
申し訳なさそうに謝る撫子さん。
「それなら、撫子さんの浄化の力を壁に発動させて。後は私とキュアちゃんでやります」
キュアキュア。
自信はあまりなかったけれど、もう後ろ向きにならないと決めたから。
胸を張り、迷いなく指示を出した。
「分かりました。それでは行きます」
――バシン。
台詞は丁寧でも、行動は凄かった。
撫子さんは見えない壁を、迷いなく力を込めて一発殴る。
空間が揺れ、ヒビが入る。
「イグニション!?」
衝撃過ぎる光景に驚き、タイミングがズレる。
それでも結界は――
木っ端微塵に崩れ落ちた。
――どうやら、ほんの少しだけ足りなかったらしい。




