55話 護りの戦士とは?
食堂にはテキサス様とリチャードくんもいたので、一緒に食べることにした。
大勢で囲む食卓は賑やかで、楽しいものだった。
「ねぇ、アーロンとリチャード。午後から同行してくれる?」
昼食も中盤に差し掛かった頃、撫子さんがそう話を切り出した。
「はい。分かりました」
「オレは……」
「アーロン、私より任務の方が大切でしょ?」
断ろうとするアーロンに、私はすかさず首を横に振り、考え直すよう促す。
護りし戦士が、メシアの頼みを断ってどうする?
「穂香さん、それは違いますよ。確かにアーロンは護りし戦士ですが、先約があればそちらを優先するのが筋だと、私は思います」
しかし私の認識は間違っていたらしく、撫子さんに強い口調で否定されてしまった。
――棚からぼた餅、だった。
護りし戦士でも、一個人。
メシアのものではない。
言われてみえばそんなの当たり前なのことなのに、彼は“メシアの剣であり盾”と言ってメシア優先と言っていた。だから私も彼の意思を尊重……あれ?
だとしたら、私のしていることは無意味?
彼がメシアの剣であり盾になることは認めているのに、
強さを求めて仮面をつけ、人を捨てる。それには反対。
それって、私のわがまま?
彼の意思なら、仮面のことも尊重すべき?
……ううん。
いくら彼の意思でも、仮面に頼るなんて道徳的に間違っている。
間違いはなんとしてでも正しき道に戻すのは当然。だから、私は間違っていない。
堂々巡りになりそうな思考を書き消すように、両頬をパンパンと叩き、気合いを注入した。
「穂香さん、どうした?」
そんな私にみんなの視線が集まり、クロさんが代表するように問いかける。
「私、エルヴィスさんにお弁当を届けてきます」
そう答えて、勢いよく立ち上がった。
せっかく作ったお弁当なんだから、やっぱり食べてほしい。それに食事は身体を作る上で大切なのだから、食べない選択肢はないと思う。
「旦那に? 腹が減ったら、食堂に来るだろう?」
当然のように疑問視するクロさんに、
「それが最近、昼食を取らないんですよ。私も色々試してみているのですが……今日も失敗しました」
と、私ではなく撫子さんが苦笑しながら説明する。
メシアの頼みを断るなんて……。
メシアの剣であり盾と言う概念とは、違う方向へ行ってしまっていませんか?
トレーニングルームに戻ると、彼は黙々とマシンのバーで筋トレをしていた。
私は重り一つでバテていたのに、彼は十五個でもまだ余裕がありそうだ。
午前中は撫子さんと魔物退治。
それなのに昼食はいらないなんて、人としての機能が失いかけている?
仮面の力って、なに?
「エルヴィスさん、お弁当を持ってきました」
「…………」
心の準備をしてから声をかけたのに、やっぱり返事はない。
話しかけるな、と無言で言われた気がした。
予想通りの展開に、口を押さえて笑ってしまい、次なる手を実行することにした。
お弁当箱の蓋を開け、匂いで空腹を刺激する。
特にご飯の炊き立ての匂いは、クレアさんに頼み、魔術で強化してもらった。
ついでに、やり方も伝授してもらった。
すると、最初こそ無反応だったのに、だんだんと鼻がピクピク動き出す。
――効いてる、効いてる。
その状況が少し面白くなって、
「イグニション」
匂いをさらに強化する。
すると――
グー。
彼のお腹の虫が、豪快な音を立てて鳴いた。
仮面の力でも、生理現象には勝てない瞬間だった。
彼の動きが止まり、ただならぬ空気をまとったかと思えば、一気に私へ詰め寄ってくる。
「……よこせ」
それだけ言って、お弁当を奪い取ると、テーブルに座り、勢いよく食べ始める。
流動食だから喉を詰まらせることはないと思うけれど、それでも心配で目が離せない。
彼の視界に入らないよう、追い出されないよう、私はマシンに座って筋トレをするふりをした。
食欲旺盛。
この様子なら、普通の食事でも大丈夫そう。
……って提案したら怒られるから、本人が言い出すまで待とう。
それとも、クレアさんがビシッと言ってくれるだろうか。
「なにか言いたいことがあるなら言え」
視線を向けないまま、鋭い声が飛んでくる。
どうやら、私の視線が気になるらしい。
「クレアさんが、泣いて喜ぶだろうなって思っただけです」
私が作ったなんて言ったら、拒否されるかもだから伏せておく。クレアさんにも口裏を合わせてもらっている。
「……そうか」
声のトーンが、少しだけ変わった。
その後、言葉を交わすことはなく、食事が終わると彼は何ごともなかったかのようにトレーニングを再開した。
私もお弁当箱を回収し、そっとトレーニングルームを後にする。




