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第7章 王立図書館の章 第93話 転生者の理《ことわり》②   

 その日記のような物にはどれだけ読んでも重要なことは書いてはいなかった。ただの日記だ。日本語で、というところで厳重に保管されていたのか。


 もしかしたら日本語を読める人間が、書いた本人以外に居なかったのか。本そのものは相当古そうだった。


「どうもこの本には、というか日記には特に何も書かれていないようです」


「そうなのか。だったらここに保管する必要もないだろうに」


「そうは思うけれど、この日本語そのものが隠されているのかも知れない」


「確かにそう言うこともあるか。ではもっと別のところを探してくれ」


「判った」


 俺はサーリールとは別の棚を探し始めた。読める本もあるが全く読めない本もあった。援護の本もあるが俺にはほとんど読めなかった。ニューホライゾンで育った俺には無理な話だ。


 探し出して相当時間が経ったとき、突然サーリールが叫んだ。


「これだ!」


「なんだ、どうした?見つかったのか?」


「そうだ、間違いない。これこそが私が探していたものだ」


 それからサーリールは無言でその本を読み始めた。俺の問いには全く反応がない。


 仕方なく俺はサーリールが読み終えるまで待つことにした。


「そうか、そうだったのだな」


「何か判ったのか?」


「そうだ。私が此処に来た意味、お前以外の者がこの世界に来た意味、それを画策した者の存在、全てがここに書かれている」


 俺は覗き込んでみたが何一つ読めなかった。この世界の言語ではないようだ。俺の世界の言葉でもない。

 

「詳しく説明してくれないか」


 サーリールはそれから俺に説明を始めた。


 そもそもの始まりは約500年前、というから師匠が生まれたときあたりか。そこに転生者を召喚する魔法を使える魔法使いが居た。


 その者の名はゼノン・ストラトス。ん?聞気覚えのある名だ。まさか、あのゼノンか?同性同名の先祖か何かか。


 いや、若返りの魔法があるのだ、俺が世話になったゼノンが転生を始めた魔法使いということは十分あり得る。


「どういうことだ。俺がケルンの街で最初に世話になった男がゼノン・ストラトスという准男爵だった。同一人物なのか?」


「そうかも知れん、そうでないかも知れん」


「その昔のゼノン、仮に古ゼノンとするか、その古ゼノンが転生を始めたとすると、どうなるんだ?」


「どうなんだろうな。奴の目的が判らない。本人に聞いてみるか」


「ゼノンにか?あいつが魔法を使えるなんて全く知らなかったが」


 ただの守護隊騎士長だと思っていた。本人は魔法の「ま」の字も匂わさなかった。ただ、確かに異世界のことを異常に聞きたがっていた。


 あれは異世界のことを聞きたいがために転生魔法を利用していたのか。


「サーリール、あんたにはゼノンは接触しては来なかったのか?」


「この本によると転生させることは出来ても、それが「何処」に、という部分は不確かになってしまうようだ。だからお前のようにケルンの近くに転生できればすぐに接触できるだろうし、遠い場所であれば成功したのか失敗したのかも判らないのだろう」


「確かに俺の前の転生者はジョン・ドウ、今はエル・ドアンという名前だがゼノンと会っている。あれはゼノンからすると成功、という訳か」


 誰を転生させる、ということもどうやらできる様だ。サーリールはピンポイントで転生させられている。理由は判らないがエル・ドアンもそうなのだろう。


 俺だけ特別なのか?そういえば俺が転生してきたことをゼノンは普通に驚いていたな。あれは閻魔小百合の手違いだから転生魔法ではなかったのか。


 最近全く出て来なくなったが閻魔小百合はどうしているんだろう。ちゃんと管理していたら俺の様に転生させる必要もないから、まあこの世界にも用は無いか。


「この本はやはり私が書いた者かも知れないな、覚えてはいないのだが」


「なぜそう思う?」


「いや、そんな気がするだけだ。ただ私の願いというか目的は、この本に全部書かれている。となると私が調べたことをまとめたということではないかと思うのだ」


 確かにそうなのかも知れない。何かの事情で忘れた、または覚えていないのだ。ただこんなことを調べてまとめようとするのはサーリールしか居ないだろう。


「そうだな。でもこの世界に来てからロングウッドの森で500年も居たのか?」


「ナーザレスを起動し始めてからは多分ずっと眠っていたんだと思う。目を覚ましたのは昨年だ」


「まだ最近なんだな。俺が来てから1年と少しだからちょうど俺が来た頃か」


「そうなんだな。では、これからどうするつもりだ?」


「俺はエル・ドアンにさっきの本を渡さないことだけが目的だから、ここに入れないようにできないものかと思っているんだが、もしそれが無理ならば俺が持ち出して逃げる、っていうのも手かと思うんだが」


「それは無理ではないか?」


「そうだよな。館長の許可が必要だろう。若しくはその上の国王の許可か」


 サーリールが国王と知り合いなのを利用できないか、と思うのだが、難しいことには変わりがない。


「なんとかエル・ドアンの危険性を理解してもらえれば」


「それはこの世界にとっての危惧ではないからな。そちらの世界に戻った時の危惧たろうに」


「それはそうなんだが。難しいか」


「難しいな」


 元の世界に戻る方法はあることが確認できたので何か別の方法でエル・ドアンの凶行を止めなければならない。


 異世界(俺からすると元の世界)からピンポイントで転生させられるのであれば、ゼノンが元の戻ってしまったエル・ドアンをまたこの世界に引き戻す、ということも可能か。


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