第7章 王立図書館の章 第92話 転生者の理《ことわり》
「お前なら話してもいいか」
サーリールは徐に話始めた。
「私はサーリール・ランド、と言うのは知っているな」
「ああ、知っている」
「ナーザレス・ロングウッドという者も見知っている筈だ」
「勿論。ナーザレスに若返りの魔法を掛けてもらったからな」
「あれはお前たちの世界でいうところの式神というやつだ。まあちょっと違うのだがな。アレは実在のクマをベースにしているのでな。ナーザレスの身体の時は止めてある。そして日々私がナーザレスにマナを貯めていたのだ」
「ナーザレスは本当にただのクマだったのか。でもあの魔法は?」
「アレは私の力を一部使用できるようにしてあるだけだ」
あの若返りの魔法さえ使えるナーザレスは実はサーリールが使える魔法の一部を借用しているだけだったのか。このサーリールと言う奴は飛んでもないな。
ただ俺はマナの量を探知できない(最近は少しだけ出来るようになってきてはいたが)のでサーリールの凄さは今一つ実感できていなかった。
そして、この話がどこに向かっているのかも判らなかった。
「私が子の世界に来た時の話をしよう。実はその時のことはあまり覚えてはいないのだが、そして途中の記憶が飛んでしまっている時期もあったりするので完全ではないのだがな」
サーリールの記憶は完全になくなっているのではなく断片的に亡くなっているようだ。
「私は元居た世界で死んだから転生した訳ではない。無理やりここに連れて来られたのだ」
「ということは、あなたを連れてきた人間がこの世界に居る、ということですか」
「そうだ。君の場合とは違うのだろうね」
「俺の場合は向こうの世界で間違って死んでしまった代わりにここに転生って感じだな。閻魔様の娘のうっかり手違いなんだよ」
「それは災難でしたね」
「まあ、そのまま死んでいたところを転生させてもらったんで楽しもう、みたいな感じでやってる」
「それもいいでしょう。私の場合は向こうの世界から排除された、という感じです。敵対していた相手陣営の依頼でここに連れて来られたらしいのだよ」
「排除されて、か。でも単純に殺すんじゃなくて何で異世界へ飛ばす方法を選んだろう?」
「それは判らないな。ただその相手は向こうの世界でも呪術に長けた存在ではあった。ここの魔法のようなことを向こうでもできる数少ない存在だったんだ。私は当時、魔法の類は全く使えなかったがね」
「それじゃあ相手にとって脅威ではなかったはずでは?」
「素養、というのか、こちらに来て直ぐに私はそこそこの魔法を使うことができたということは、本来魔法が使える素養はあったのだと思うのだよ。それが相手には伝わっていたのかも知れない」
俺とは違って来た時から魔法が使えたのならエル・ドアンと一緒だ。元の世界では魔法なんて本当は使えないと思っていたからマナがいくらあっても魔法は使えない。
俺がイレギュラーだとするとこの世界に転生してくる人々は元々魔法使いの素養があることが条件になっているのかも知れない。
「私や多分エル・ドアンも死んで転生した訳ではなく、誰かにこの世界に転生されられた口だと思う」
「その誰か、とは心当たりは有るのか?」
「それを探しているのだよ。その為に心来たのだ」
サーリールの目的は自身を転生させた張本人を探すことだったのか。ということは、最終的な目的はエル・ドアンと同じで元の世界に戻ることなのだろうか。
「なにかの手掛りがあるかも知れない、ってことか。それで何か見つかったんか?」
「ここに、この本には元の世界に戻る方法が書かれている。そして召喚というか異世界から転生させる方法も詳細に書かれている。ただ筆者の記載がない。態と削り取られたみたいになっている」
見ると確かに削り取った跡があった。書いた本人がやったのか別の誰かの仕業か。
「他にももっと色々と見てみないと判らないが、ここにはもっと重要な物が隠されている可能性も高い」
「それでずっとここに籠っていたのか。外では俺のことも探しているだろうな」
キサラは必死で探し回っているだろう。ただサーリールと俺が居なくなったということは二人が同じ場所に居る、ということが容易に想像できるとは思う。あまり心配しないでくれるといいのだが。
「では今しばらくはここで転生させている存在への記述を探すのか?」
「私にとってはそちらが主眼だからね。手伝ってくれるか?」
外で俺は元の世界に戻る方法を探していたが、それは今サーリールガ見つけてくれた。今度は俺が手伝う番か。
「当然だ、早速探そう」
この奥の院に入ってからサーリールと話をしていただけで何も探していなかった。
探し始めて直ぐに気が付いたのだが、ここに置かれている超の付く希覯書たちは様々な言語で書かれているようだ。
いくつか読める本を見ていると、日本語で書かれた物を見つけた。
「なんと日本語だ。これは手書きということはこの一冊しかないのかも知れない」
「どうした?お前の元居たところの言語で書かれたものを見つけたのか?」
「そうだ。俺以外にも過去此処に来た日本人が居た、ということだな」
「お前の同朋は数が少ないのか?」
「いや、そうでもない。ただエル・ドアンの元居た国の半分くらいだ」
「なるほど。それで何か書いてあるのか?」
日本語で書かれた本は日記のようなもので、この世界に来た時からの日々の生活が書かれていた。内容は他愛のないものだ。それがなぜこれほど厳重に保管されているのか、判らなかった。異世界転生自体が極秘だからか?
但し、俺は異世界から来たことをそれほど厳重に秘密にしてきてはいない。もし異世界転生そのものが問題なのであれば、その秘密を守りたい何かの組織的なものからの干渉があっても可笑しくは無かったはずだが、今のところ何事も無く過ごしていた。
俺はもう少しその日本語で書かれた本を詳しく読んでみることにした。




