第5章 展開する物語の章 第63話 ロングウッドの森でお願いした
「ここだ、入ってくれ」
サーリールの家はちゃんとした家だった。大木の洞を使った簡単な居所ではなく街にあるような柱や壁、屋根がある家だった。
「なんだ、ちゃんとしているんだな」
「当り前だ。ア・レウラ・ムーロのあったのはナーザレスの家だろうが、あんなものは家とは呼ばない」
まあそう言われて見ればそうだ。雨風をしのげる程度ではあったが人が住むには適してない。クマが生活するにはいいのかも知れないが。
サーリールの家は快適だった。魔法で冷暖房が確保されているのか、中に入ると寒さが全く感じられなかった。
「いい家だな」
「そうだろう、そうだろう。これだけの家を持っているは私くらいだからな」
いや、他の人の家を知らないだけだろ、という突っ込みはしない。
「お茶でも入れよう。蜂蜜でもどうだ?」
なんか快適過ぎて怖いくらいだ。ここでいいか、とも思った。実はジョシュアとセリスの居場所をどこか森の中に確保したいのだ。
「お茶で良いよ。ところで相談何だか」
「なんだ、どうした?」
相談、と言われてなんだか嬉しそうだ。
「実は俺の連れの二人をこの森で匿って欲しいと思っているんだが、街育ちで森の生活に馴染むのに時間がかかると思うんだ。それで住むところくらいはちゃんとした物にしてやりたいんだが、この家はとても快適だよな」
「快適だな、申し分ないと思っているぞ、それがどうした?」
「だから、譲ってくれないか?」
「譲って?」
あまりのことに頭が付いてきていないらしい。
「この家を二人の棲家にしたい、ということだよ」
「どうしてだ?私がここを出ていくという事か?」
やっと理解してくれたようだ。
「そう言っている」
「どうしてそうなる?」
「ただお願いしているだけだ」
「ここを出て私にどこに行けというのだ」
「俺と一緒に旅に出るか?」
実はお願いしておいて見返りは全く考えていなかったので当然サーリールの行先なんて考えてなかった。そこでつい口から出たのがこれだ。本当に何も考えていない。
「旅か」
なんだかサーリールは考え出した。意外に嵌ったのかも知れない。俺は元々二人を森に匿って自分は何処か遠くに旅に出るつもりだったので、まあ満更嘘でもない。キサラと三人の旅もいいかも知れない。
「私はここに来てから一度も森を出たことが無い。旅もしていない。外の世界もいいかも知れないな」
サーリールは少し寂しそうだが少し嬉しそうに言った。森に来た経緯は聞かないが、あまり話したくないのだろう。いい思い出の様には思えない。ロングウッドの森は魔法使いたちの駆け込み寺のような存在なのかも知れない。
「いいだろう、この家をお前の連れに譲ろう。それで私を旅に同行させてくれ」
なんだか話が上手く行きすぎている気がする。
「いいのか?」
「お前が言い出したことだろう。で、いつ立つのだ?」
サーリールは気が早い。早すぎる。
「いやいや、まだ連れも呼んでいないし師匠にもルナにも会っていない。ナーザレスが来るまではここで待たせてもらうよ」
誰か強力な守護者を作った上で二人を森に匿わないと気が気ではない。
「そうか。ではナーザレスを待つとしようか」
それから半日ほどは何事もなく過ぎた。ナーザレスも来ないし何も起こらなかった。
「どんっ」
いきなり何かが弾けた気がした。とてつもなく大きな魔法が使われたのだ。それは当然若返りの魔法だ。師匠がクマさんに若返りの魔法を掛けられたのだ。
「これは少し前にもあった感じだ。ナーザレスの若返りの魔法に間違いないな」
多分それは俺が若返りの魔法をかけられたときのことだ。
「ナーザレスはこれに掛かりっきりだったはずだから、もう少ししたらここに来るだろう」
「確かに。サーリール、それで悪いが俺を元居た場所に戻してくれないか、連れをここに呼びたいんだ」
サーリールの家は広い。全員で数日泊っても問題ない広さだ。
「いいだろう。では」
サーリールが言った途端、俺たちは出会った場所に居た。今までの全てがサーリールの幻覚魔法だったかのようだ。まさか、違うよな?
「では連れの待っているところに行こう。紹介する」
「えっ」
サーリールは意外そうな顔をした。というか、自分が紹介されると思っていなかった顔だ。酷い人見知りのように見える。よく俺に声をかけられたものだ。
「大丈夫、変な奴は一人も居ないし、話せばあんたに皆感謝してくれるだろう」
それはそれで照れてしまうから嫌だ、とでもいいたそうな顔だ。
「いいから行くぞ。早く戻らないとナーザレスが来てしまうかも知れない」
俺はそう言うと馬車を待たせてあるところへとサーリールを連れて行くのだった。




