05.不便な出会い - 5
舞台が片付くと、私は藤井を捜すために辺りをきょろきょろ見回した。 ちょうどスタジオの前に藤井が一人姿を現した。
『藤井!ちょっと私を見て。』
藤井は皮肉な微笑を浮かべたまま、私に手を振った。
『今日のステージはどうでしたか、先輩?』
『ふざけてるの?全校生徒の前で何をしてんだ!』
思わず声を荒げて藤井を圧迫しようとした。 当時、大衆の視線が恥ずかしかったことと、その会長小娘と面と向かっていたからだと思う。 私は軽く咳払いをして,軽率だった自分を落ち着かせた。
『ごめん、ちょっと興奮したわ。』
「いいえ、私は先輩にもっと良い機会を与えようと思っていたんだけど、ちょっとこじれてしまいましたね。』
『何だって?』
藤井は、僕に近づいて来て、僕のキャップのほうに視線を向けた。
『先輩、最近ずっと黒いキャップにマスクを つけてるじゃないですか。 S&Mに身元を隠す目的でです。』
そして、藤井は、制服のズボンのポケットから舞台前の観客に見せたメモを取り出して、私に渡した。 私は眉をひそめたまま、メモに何と書いてあったか確かめてみた。
「え?」
一瞬見間違えたのではないかと思った。 表と裏を随時確認しても、私がもらった紙は何も書かれていない空の紙だったからだ。
『なんだ? ほかの 鐘が くれたみたいだけど。』
『この紙は本当にそうです。 そうでなければそんな雰囲気になるはずがないじゃないですか。』
『何を言っているのか分からない。 じゃあ覚えて披露したって意味?』
『いいえ、こういうケースです。』
藤井は急に制服を脱いで片腕にかけておいた。 しかし、私の視線は、かけている腕の反対側に向けられた後だった。 藤井の右腕を包んだS&M腕章、紫色の背景に黄色い枠まで、以前見ていた腕章とは全く違う印象を与えた。 藤井は腕章をさわって、笑みを浮かべた。
『あえて対象になったからといって、 ファンになれないわけでは ないじゃないですか。』
『ナルシシストだったの?」
『そんなはずがないでしょう。』
予想していなかった藤井の行動に私が集中したせいだろうか。 「すでに多くのレミー部員が私の後ろで藤井の話を聞いていたところだった。 一様に紫色の腕章に視線が刺さったまま、目を離すことができない状態だった。
『S&Mのファンたちが私と高橋先輩を尾行していたじゃないですか。 これに私はファンクラブの一員になってファンと親しく付き合おうとしただけです。』
藤井は部員に失笑したまま、頭の後ろを軽くかいた。
『どうせこうなったから、 言いたいことは全部言いましょうか? 今回のことは、ゆなちゃんと 事前に計画して作ったことです。』
私は溜まっていた唾を飲み込んだ後、藤井に向けて軽く息を吐いた。
『会長と直接会ったということじゃないか。 私と会う展開が一種の条件だったはずだ。』
『落ち着いてください。 常岡先輩。 そこで血の気が切れては困ります。』
『どういう意味だろう。』
『ゆなちゃんが講堂に入って、 ずっと手に握っていたのを ご覧になりませんでしたか?』
「は?」
私は行事が始まる時からゆっくりと記憶をたどっていった。 会長の女がじっとしていたことを除けば、動かなかったはずなのに、最初からあの暗い空間で手に何があったのか覚えるのは容易ではなかった。
『分かりませんか?先輩、この前携帯変えたと言ったじゃないですか?』
その言葉に私は疑問を投げかけ、頭の中の考えが次々にまとまり、何の話がしたいのか理解できた。 携帯電話がもしコンテナから落ちていたなら、それを所持する人はたった1人だった。 それから藤井は、私のキャップとマスクを剥がして、周りの部員に向かって振り回した。
『条件がとても合っていたんですよ。 そこで先輩が今みたいに脱いでいたら、 ゆなの頭の中が粉々になってたのに。』
私は、ようやく藤井の言う事を、一目で理解した。 手で口を覆ったまま、まぶたがけいれんした。 確かにそうだった。 私に好感を持ったファンクラブの会長が、当時制圧していた被害者だと気づいた瞬間、その衝撃で感じる私の痛快さがどうか分かった。
『そうだね。その時、ずっと背を向けて強くアピールしなきゃいけなかったんだ。』
『そろそろプランBに移るしかないですね。』
『プランB?』
藤井の話を聞くと、今までの状況は「プランA」だったという意味だ。 藤井は足を運んで私のすぐ後ろにいた学年代表たちと視線を合わせた。
『水原先輩、私の話を聞いたんですね。』
『簡単には。』
『それではさっそくプランBのことを言いましょう。 前もって簡単に要約しますと常岡先輩の身元をS&Mから処理します。』
その言葉に私をはじめ部員たちは変な顔をした。 代表的な学生らも藤井の言葉をまともに理解していない様子だった。 藤井は周辺を見回った後、速やかに本論に移った。
『最初は爆発させてS&Mに警戒する対象を植えつけるつもりでしたが、失敗したじゃないですか。 それで逆に常岡先輩を最後まで偶像化するように放っておいた後、先輩がタイミングよく正体を剥きながらもっと大きくメンタルをひっくり返す! この言葉ですね。』
それに部員たちがざわめくうちに、私は照れくさそうな表情で藤井に近づいた。
『藤井、お前!いったい何がしたいんだ?』
『おっしゃったとおりです。 常岡先輩はレミで簡単にアピールできる部員でありながら、S&Mの不当な行動を身を持って経験した部員でもあるじゃないですか。 だから常岡先輩が偶像化されても十分牽制できるということでしょう。』
『それじゃなくて!なんで遅くまで引きずるつもりなの?』
藤井は苦笑いをしたまま、私の周りをうろつき始めた。
『先輩、初恋で打つ統帥ほど強力な統帥が、愛が最盛期を迎える統帥ではないですか。 途中でパチパチしてしまうと、やたら雰囲気だけごちゃごちゃになって、すぐに沈んでしまうに決まっているでしょうか。』
『でも…』
『これ以外にこれといった方法もないでしょう。 先輩の雅量さえあればすぐ解決されるでしょう』
私にとってあまりにも指示的な発言だった。 偶像化されるのも嫌であるばかりか、最後までその亡びる女に好感を受けるということに、すでに気が揉めるほどだった。 私が言葉をつなぐことができず、ためらうはずで、水原先輩は私の方に近寄り、藤井と対面した。
『話が大体何なのかは分かった。 で、なんで携帯の話が常岡に出るんだ?』
『以前、常岡先輩が襲われて携帯電話をなくしてしまったじゃないですか。 その携帯をゆなちゃんが持ってました。』
『そしたら、そのゆなというS&Mファンクラブの会長が携帯電話の主人である常岡に惚れたという意味なの?』
『そうです。それでプランBを曖昧に知らせたのですがちょっと無理でしたでしょうか?』
水原先輩はしばらく私の周辺を見渡し、また藤井と対面した。
『常岡をどういうふうに偶像化するか考えてみた?』
『簡単明瞭。先輩が私のように舞台の役を引き受けるのですね』
『そうか。常岡を舞台に立たせることは可能だろうか。』
水原先輩は心配そうな視線で私をじっと見つめた。 私は自然に安堵の息をついた。 確かに私が舞台に足を踏み入れるには多少無理があるからだ。 その時、藤井は私と水原先輩を見て首を振った。
『可能です!S&Mと話を聞いた結果、常岡先輩が舞台に入ったら、S&Mで先輩の名前を英語の略字にして新しいクラブ名を作ろうという話も出たんですよ。』
その瞬間、私は自分の名前を書いていったS&M小娘との記憶を思い出した。 同時にレミー部員たちの雰囲気がひっくり返ったことを感じた。 水原先輩と佐藤は私の周辺を囲んで私と視線を合わせた。
『常岡、やってみるか。』
『いいえ!私は自信がありません。』
水原先輩に遠ざかろうとしたが、佐藤が私にしつこく言い寄った。
『こんなに世論がよければ悪くはない。 コンセプトもあるし、 そこでいいって言うから。』
『いやだ!小娘たちの手段になるつもりはないんだって!』
その瞬間、高橋が私の前に立ちはだかって代表学生たちと立ち向かった。
『常岡君が嫌いだと言っているんでしょう。 どうしてそんなに哀願するんですか。』
私と高橋の怒鳴り声にあたりはまた静寂に包まれてしまった。 水原先輩はしばらく佐藤と目を合わせ高橋に視線を向けた。
『それだよ、S&Mがみんな君たちを捕まえようとあせっているじゃないか。 そこで藤井が情報員の役をして常岡が行動隊長で知能的な案を立てられるなら、今のようなぎこちない状況より常岡が舞台に立った方がいいじゃないか。』
『いくらそれでも常岡君が自ら嫌がっているのに、こんなにしつこくせがむわけにはいかないじゃないですか! 私は常岡君のことを考えて積極的に協力するつもりです。』
高橋が私を弁護してくれるとは想像もできなかったことだった。 「あまりにもありがたかったし、雰囲気を盛り上げる基盤をつかんだようですっきりした。 藤井はこれを素直に見守るはずがなかった。
『常岡先輩! 今この機会は二度とないんですよ。 どうして否定されるんですか。』
『多くの部分が気に入らないけど、何よりその会長小娘が私のことをずっと好きだというのがおぞましいから。』
『それではこの機会、絶対に逃してはいけませんね、先輩?』
『きみ!おれの言うことちゃんと聞いてないのか?』
『ちゃんと聞いたよ。 考えてみてください。 先輩は大嫌いで、会長の女の子はずっと先輩のことが好きじゃないですか。 その純粋な気持ちが膨らむのを先輩がワンパンチでK.O. 出せるんです。 そのカタルシスは絶対忘れられない快感になるんじゃないでしょうか。』
私は首を振って否定しようとした。 藤井の言うことが間違っているのではなかった。 「そこまで出くわす必要もなく、ただ知らせればいいのでは」という考えだけだった。
『それでも嫌だ。』
『そうですか。残念ですね。 ただでさえレミサークル、今学校から舞台キャンセルのお知らせが上がってきたんですが、今回はあいくちを打つでしょう?』
『え?』
突然の藤井の発言に私は驚きのあまり、藤井をぼんやりと眺めていた。 水原先輩はよく藤井の両肩を軽く振った。
『藤井!それは極秘事項だ。』
『どうせ世論が悪化したことを 感覚で感じるじゃないですか。 今回の殴打事件も明らかになったらほとんど確認射殺ではないですか。』
慌ただしい雰囲気の中で、レミー一同は仲間の心配でざわめき始めた。 状況がどうなるか大体見当がついた。 最近になって、舞台に他校の生徒が入ってくることで不満が多かったのは事実だ。 今回、偶光中学校から問い合わせがあれば、悪化するだろうというのが既定の事実だった。 ということは、近いうちに舞台行事を進めないということと同時に、これ以上高橋と藤井が観客の前に立つことができないという意味だった。
あたりを見回す途中、わたしは高橋と目を合わせた。 しかし、高橋は私の視線を避けたまま、藤井に近づき、簡素な対話を交わそうとした。 その時初めて私の心が動揺した。 今回のことが明るみに出れば支障は避けられない状況だった。 私は急に話し出すのに忙しかった。
『やります!』
私の言葉ではレミーの仲間はしばらく動揺しているようだった。 私は部員たちを見つめたまま、再び口を開いた。
『やればいいじゃないですか! だから、レミが舞台公演ができないという話はしないでください。』
寂寞とした雰囲気で皆が私に視線を集めた瞬間、ミロは両手を伸ばしてゆっくりと拍手をした。
『先輩!こうなると思っていました!』
すぐに一人二人と僕に喝采を送り始めた。 手荒い歓呼とともに私は結局舞台に立つ道を選んだ。 ただ、一つだけは変わっていなかった。 そのくそ小娘とS&Mにはどんな同情も示さないって!
お読み頂きましてありがとうございます。
このパートは5部作で完結します。
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