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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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飲みこまれた光

 早すぎる襲撃で兵士たちの統率も大きく乱されていた。避難経路の確保さえもままならず、できるだけ早く連中を抑えこまなければ被害が拡大していく一方だった。


 こちらへ逃げてくる住人たちの流れに飲まれるのを避けて別の通りから回りこみ、その途中にあった狭い路地を抜けて向かい側に合流する。大勢の住人たちが大通りの方へ一目散に逃げており、反対方向へ目を向けるとこちらに背を向けて敵と対峙している兵士の姿があった。


「なにあれっ……」


 アイリスが息を飲んで後ずさる。


 そこにいたのはあの森で見た魔物ではなく全身を漆黒の鎧で纏った重装兵だった。だがその中にいるのが人間ではないことはすぐにわかった。相手は三メートルにも届きそうなほどの巨大な体躯を持っていたからだ。


「アイリス、エーデルワイスだ!」


「え、あっ、うん、わかった……!」


 ユーリが走りだすのと兵士が攻撃を仕掛けていったのはほぼ同時だった。身体強化を使った恩恵でその素早さは常人の動きを遥かに上回っており闇を裂いて一瞬で魔物へ肉薄していく。


 真正面から突撃したかと思った瞬間、兵士は姿を見失うほどの素早さで魔物の側面へ回りこみがら空きになっていた腹部へと剣を薙ぎ払った。


「でぇい!」


 甲高い衝撃音が通りを駆け抜け火花が散る。相手は少し腕を捻るだけの仕草で肉厚の大剣を持ち上げ斬撃を受け止めており、兵士は即座に反動を利用して飛びかかると今度は魔物の頭部を斬りつけた。


 身体強化を用いた斬撃であれば鎧の上からでも致命傷を与えることができる。


 それなのになぜ。


 そんな驚愕で兵士は目を見開き息を飲んだまま動きを縛りつけられていた。


 魔物は決して軽くはないその一撃に対して微動だにすることなく耐えきっており、ぎゅおうと空気を押し潰すような声を挙げてその巨大な腕を渾身の力で振るっていた。


「避けろっ!」


 ユーリの声が届くよりも先に兵士は剣の腹で受け止めたものの強烈な勢いで弾き飛ばされ、その身体は数メートル先まで吹き飛び通りに連なる家の二階部分に叩きつけられていた。


「ぐはぁっ!!」


 砕けた壁の破片と共に地面に落下した兵士が苦痛にもがいて身体を捩る。


「大丈夫かっ!?」


「き、きみはっ……はや、早く逃げるんだっ……この先、うぐっ……走るんだ……!」


 ユーリが駆け寄るとその若い兵士は口元から血を流しながらも自らを顧みることなく、そばに転がっていた剣を掴んでよろよろと身体を起こそうとしていた。


 身体強化を使っていたおかげで見た目ほど傷は深くない。けれどもう戦えるような状態ではなかった。


「じっとしてろ。その剣借りるぞ」


 たった一人で対抗できる相手じゃない。たかが兵士といえど身体強化を使った彼らは十二分に驚異的な戦力だ。そんな相手を簡単に退けた魔物に生身のユーリが敵うはずもなかった。


「ば、ばかなことはやめろっ……」


「聞き飽きてるよ」


 だが、たとえ何百回死んだとしてもここで放っておくなんて選択はしない。


 兵士の剣を掴んで立ち上がると魔物が気がついたように微かに動きを止めてこちらに顔を向けた。漆黒の鎧に隠れた表情は窺えずそこには暗闇が広がっていた。


「ぎゅおおおおおおぅっ!!」


 突然魔物が低くこもった雄叫びを挙げた。町中に響き渡るほどの咆哮が空気を揺るがし鈍重な動きで歩きだした衝撃が地面を伝ってユーリの身体を硬くさせた。


「アイリス、頼んだぞ!」


 恐る恐る聖剣を抜いて逃げ腰になりながら構えていたアイリスが泣きそうな顔でこちらを見返してくる。


「うまくできるかわかんないよっ!?」


「それでいい!」


 ユーリがうなずき返すとアイリスは目を閉じて魔力を解放させていった。倒れていた兵士から離れて通りの中央に移動しながら魔物を待ち構えていると、周囲の光をかき集めてきたように現れた粒子が聖剣へと導かれ刀身を金色の輝きで覆いはじめていく。


「ユーリくん!」


 暗闇を振り払った光に包まれながらアイリスがエーデルワイスを魔物に向けた。


 だがそのとき、不意にユーリは直感的な危険を感じた。


 重い鉄球を転がすように徐々に走りだした魔物がユーリの頭上へ大剣を掲げていく。


 その動きにはあの魔物が見せたような変化が少しも見受けられなかった。


 やばいっ……!


 心臓が強く胸を叩く。剣を構えた。受け止められる攻撃じゃない。魔物が剣を振り下ろしてくる。


「くっ……!」


 ユーリは咄嗟に地面を蹴り弾いて真横に避けた。大剣が背後で地面を砕き、転がった勢いを利用して立ち上がり即座に距離を取った。


 魔物は地面から大剣を引き抜くとこちらへ振り向いて雄叫びを挙げていた。


「待ってユーリくん逃げなきゃ! あたしちゃんとやったのになんでなのよ知らないわよばかぁ!!」


 金色に輝く聖剣を携えたままアイリスが喚く。


 切り札のつもりだったのにこうもあっさりと期待を裏切られるとはな。


 再び重い足音を響かせながら歩きだした魔物を見据えながらユーリは小さく舌打ちをした。


 どうやら、あの転生者の創りだした魔物にエーデルワイスの効力は及ばないらしい。

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