旭光の調べ
まどろみの端で外からやってくる物音をぼんやりと聞きながら起きているのか眠っているのか曖昧な時間を過ごしているうちに朝になっていた。
気がつくと身体に毛布がかけられており、起き上がって床を見下ろしてみるとナーガはマントをかけて丸くなっていた。おかげで寒さに震える夜ではなかった。
ホールの奥にあった時計に目を向けると係員がやってくる時間まではまだかなりあった。窓の外に人通りはなく起きるには早かったがそろそろ支度をはじめておくことにした。無理を言って使わせてもらっている身で寝起き顔は見せられない。
……その向かいでは床の上で寒そうに顔を歪めて眠るアイリスの姿があった。寝てるときに妙な音を聞いた気配がした気がしたのはこいつだったか。
「ナーガ、朝だ」
ベッドの上から呼びかけるとナーガはうっすらと目を開きのんびりとした動作で起き上がった。
「おはようございます……」
普段以上に寝ぼけた顔で目を擦りながら大きなあくびをする。
「おはよう。いつでも出られるように服着替えてこいよ。あと毛布ありがとな」
「いえ……」
ナーガは首を振りながらのっそりと立ち上がり鞄を持ってトイレの方へ行った。
「アイリス、朝だぞ」
そうして今度はアイリスの肩を揺すると彼女はぼんやりこちらを見上げ、それからはっとしたように起き上がった。
「……えっ、あれ、おはよう……」
「……おはよ、悪い起こすときに落っことした」
「あ、え……ああ、うん……え? あー……え、あたし床で寝てた……?」
「寝てないよ。準備したらすぐに町を出るから」
「……うん」
毛布を抱きしめたまま寝ぼけ顔でうなずく。そのまま二度寝することはなくゆっくり頭を起こしているようだった。案の定落ちてるじゃんお前とかそういう類の言葉を思いついたには思いついたがとてもどうでもよくなっていたのでなにも言わないことにした。
それからすぐに床を軋ませながらナーガが戻ってくる。
「おはよナーガちゃん」
「おはようございます」
「……あ、だめだよ寝癖ついたまま」
気がついたように立ち上がるとアイリスは畳んでいたドレスの中からクシを取りだした。
「直してあげるからそこ座って」
「気にしませんよ」
「だめだよ女の子なんだからちゃんとしなきゃ。リボンもきちんと結んであげるね」
「……あまりあなたに触られたくないんですが」
「でもその方が可愛く見てもらえるよ?」
「ふふん、既にナーガは溢れんばかりの可愛げを放っているので余計なお世話だ大人しく寝ることすらできないのかと言いたいところですが、せっかくの申し出を断るほどナーガは野暮ではありません。ぜひお願いします」
「あ、やっぱあたし落ちてたんだ」
「嘆く必要はありませんよ。あなたはもう充分にどん底ですから」
名推理を披露する探偵のように気取った仕草で腕を組んで額に手をやりながらニヒルに笑って椅子に座る。そんなナーガを見て可笑しそうに笑いながら後ろに回って丁寧に髪を梳かしていく。
はじめて会ったときはおどおどしていてとても打たれ弱そうに見えたアイリスだったが、一応の仲間ができて多少は心に余裕ができたみたいだった。ナーガの毒舌を気にした様子もなく健気に世話を焼く姿を見ているとまるで姉妹のようだとユーリは思った。
それから支度を済ませているうちに昨日の受付嬢がやってくる。案内所が開く時間よりも一時間ほど早かった。
「……ああ、もうお目覚めでしたか。おはようございます」
「ありがとう、おかげさまでよく眠れたよ。もう開けるのか?」
「いえ、開店まではまだ時間があるので。皆さんがいらっしゃるので早めに来たんです」
「すみません……気を遣わせちゃって……」
「いいんですよ、ちょうど掃除をしようと思っていたので。ところで今日はどうされますか?」
「素材集めをさせてくれ」
「かしこまりました。ではすぐに資料もご用意致しますね」
小さく微笑を浮かべてうなずいてスタッフルームの方へ歩いていく。魔物を殺して金を稼ぐというのはおまけくらいに考えておいた方がいいだろう。素材集めで一万五千くらいは稼いでおきたい。それだけあれば一晩だけでも宿に泊まれる。




