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彼と彼女たち  作者:
エピソード 1
9/37

● 倉林千鶴の決意 ●

 倉林千鶴は常に学年トップの成績を誇る才女だ。

 それ故に彼女には常に周囲からの過剰ともいえる期待を受けていた。

 彼女が努力すればした分だけの期待がのし掛かる。それは終わることのないスパイラル。

 彼女は既に限界だった。



 彼に出会ったのはちょうどこの時だ。


 学校でも彼のことは話題になっていた。


 ――――今まで全くの馬鹿の男がこの数ヶ月で成績を上げている!


 そんな話に千鶴は少し興味を感じた。


 しかしそれもこの時だけで、後は関心がなくなった。

 彼に実際に会うまでは――――



 入試当日。

 彼女はいつものように家を出て、いつものように入試に出た。

 だが、彼女には1つ問題があった。




 不眠症。


 彼女は日々のストレスにより精神病を患っていたのだ。


 昨夜も一睡していない。試験前だというのにだ。

 始まる前から既に満身創痍だった。



 頭が全く動かない……

 目眩もするし吐き気もした。


 だが、なんとか堪え、試験を終えた。

 自分がどうやって問題を解いたのか覚えていない。


(私……このままじゃ…死んじゃうかも……)


 でも、それもいいかもしれない。と彼女は思った。

 それほど追い込まれていたのだ。


 千鶴が会場から出ると、目の前にあの男がいた。


(確か…柏くん…だったっけ)

 千鶴が面識もない彼の名前を覚えているのは珍しい。毎日顔を見合わすクラスメイトの名前ですらうろ覚えなのに。


 彼は携帯で誰かと話しているようだった。

 とても楽しそうに。そんな彼と自分を重ねてみてしまう。心がざわついた。それは彼に対しての妬みだったのか。

 だが、それこそ心のない彼女に波が立った瞬間だった。


 彼にからかわれムスっとした。それは久しく感じなかった感情。



 そして。

 朝霞に合格した自分が滑稽で。

 自分の学力が恨めしくて。悔しくて泣き出してしまったとき、彼は千鶴に対しどこまでも寛容で、どこまでも優しかった。


 彼は千鶴を、千鶴として見てくれた。

 彼女の努力や苦労を認めてくれた。彼が発した「おめでとう」の言葉が、無性に嬉しかった。



(ズルい)

 彼はずるい。千鶴の冷めきった心に入り込んでは、その闇を振り払ってしまった。

 千鶴の心は、もう彼一色だった。




 千鶴は、柏晶を好きになってしまった。


 …でも、自分に彼を好きになる資格はあるのだろうか。


 ――その時だ。


 千鶴の心に灯が灯った。


 彼に相応しい人間になりたい!

 心の底からそう思った。

 そう思ったら、もう止められなかった。



 ――運命の卒業式。


 そして。


 彼に、告白する。



「大丈夫。きっと、私…変われる!」



 髪を解き、眼鏡を外し、もう、昔の自分には戻らない!




 自分を認めてくれた彼のために――――




 それが、彼女の決意











ここまでがプロローグです。

読んでくださりありがとうございました。


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