入学 1
卒業式から入学式まではあっという間だった。
その間に春休みがあったわけなのだが、ここでは割愛し、またの機会にでも述べることにする。
何はともあれ、無事進学を果たし、俺もピカピカの高校1年生だ。
おろしたての制服に袖を通す。高校からはブレザーなため初めてのネクタイである。
…曲がっちゃいないかな? う~ん、多分大丈夫!
階段を降り、ダイニングキッチンに顔を出す。
「おはよう」
そこには優雅にモーニングコーヒーを嗜む令嬢…もとい愛姉ちゃん。この人がこういうことをやると本当に様になる。
「おはよう、愛姉ちゃん」
愛姉ちゃんに朝の挨拶を返して、彼女の対面の席に座る。
テーブルには既に朝食が4つ準備されていた。
きっと愛姉ちゃんが作ってくれたのだろう。だが、まだふたりの姿が見えない。
「栞姉ちゃんと唯は?」
「唯なら今シャワー浴びてるよ。栞は……まだ寝てるんじゃないかな?」
「はぁ、栞姉ちゃんも相変わらずだな…」
栞姉ちゃんは朝に滅法弱い。その癖夜更かしが好きだから尚たちが悪い。
まだ完全に連休モードから立ち上がっていないようだ。
「…晶」
「ん?」
愛姉ちゃんに呼ばれ顔を向ける。
「申し訳ないんだけど、栞を起こしてくれないかな? 私はこれから学校に行って入学式の準備をしないといけないんだ」
愛姉ちゃんは、高校3年になり、今年から生徒会の会長を務めることになったそうだ。当たり前の話だが、愛姉ちゃんが身内にいると俺も鼻が高い。
……それに引き替え、栞姉ちゃんは……ダメダメだな。
「ああ、承知した。俺が責任を持って起こしてくるよ」
「うん。ありがと…」
そう言って、うっすらと笑う愛姉ちゃん。
……嗚呼、朝からいい気分だ。
「…あ、晶」
一旦廊下に出た愛姉ちゃんが俺をチラッと見ると、トトトとこちらに戻ってくる。
なんか忘れ物だろうか?
「…ネクタイ、曲がってるよ」
と言って、軽くしゃがみ俺のネクタイを直してくれる。ふわりと愛姉ちゃんの髪が俺の鼻孔をくすぐる。シトラスの良い匂いがした。
「もう……いい男が台無しだよ? 今日は入学式なんだから、しっかりね。…はいオッケー」
「あ、う、うん。ありがと」
愛姉ちゃんは、最後にもう一度笑うと、今度こそ家を出ていった。
女神が降臨された瞬間だった。
俺は唯が戻ってくるまで、しばらく放心しているのだった。




