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彼と彼女たち  作者:
エピソード 3
37/37

花見 4

インフルエンザにかかってしまい、日夜闘病しておりました。行進が遅れて申し訳ない……

 夕方のスーパー、そこは女性であることを忘れた猛獣たちの戦場。


 俺と唯は今、そこに足を踏み入れる。


「お兄ちゃん……唯、怖い…」

「安心しろ。お兄ちゃんが傍にいるからな」

「うん……」


 不安で一杯の唯を元気付けてやる。いざとなれば我が身を省みず唯を守る一存だ。


 さあ、行かん! 戦場へ!






「お兄ちゃん!それ取って!」

「え!?」


 怒号ともいえる指示に俺の頭がついていかない。


「ふっ、貰った‼」


 もたつく俺の隙を見て、おばはんが激安の国産牛セットをかっさらってゆく。


「チッ! なにしてんだよ!」

「ひぃ! すみません!」

「お兄ちゃんって全っ然使えないね。もういいからカゴだけ持っててくれる?」

「…はい、すみません…」


 妹の鋭い睨みに思わず平謝りの俺。

 今、わが愛しい妹は羅刹と化している。既に別人の形相だ。特売という戦場はこうまでも人を変えてしまうのか。


『次のタイムセールは、卵一パック50円!限定100パックです!』


 またもや店側が“エサ”を投入したようだ。

 群衆がダーッと過ぎ去って行く。


「乗り遅れる! ほら、お兄ちゃん行くよ!」

「はいっ!」


 唯がすごい速さで走り去っていく。アイツってあんな速かったっけ……


「やったぁ! 2パックゲッツ!」


 勝利の雄叫びをあげる唯。ずいぶん逞しくなって、お兄ちゃんは嬉しいよ。




 その後も唯軍曹の快進撃もあり、特売品をゲットし続けた俺たちは、予算の半分程度で買い物を済ませることができた。これも唯のお陰である。

 主な戦利品。

 卵2パック、牛乳1パック、鶏の骨付き肉3パック、豚肉肩ロース塊500g、焼き肉用牛カルビ3パック、その他野菜諸々。


「~♪」


 至極満悦の唯と共にスーパーを出る。辺りはもう日が沈んでいた。


 俺は停めてあった自転車のカゴにビニール袋を入れて唯の元に戻る。


「いやぁ、たくさん買ったなぁ」


 カゴからはみ出んばかりのビニール袋を手で抑えつつ呟く。帰りも自転車を押した状態だ。もはや何故自転車を持ってきたか分からなくなってきた。


「唯、途中から記憶がないんだけど……」


「……そっか。無理に思い出すこともないんじゃないかな」


 ハハハと笑ってみせる。あの時の唯はきっと内に秘めた獅子なのだ。むやみに起こしてはならぬ。


「なんか……引っ掛かる………特…売、たいむ………」


 ヤバイ! 記憶を取り戻しそうだ!


「そ、そうだ! 浮いた金でお兄ちゃんが甘いものでも奢ってしんぜよう」


「え! 本当?」


「ああ、本当だ。今日は唯にはお世話になったしな。たまにゃ兄貴面せんとバチがあたるってもんよ!」


「わーい! お兄ちゃん大好き!」


 ぎゅうううう!


 唯が俺の身体に抱きついてくる。

 ああ、よかった。話題を逸らせた。


「………にやり」


「え!?」


 一瞬悪く笑う唯の顔が。き、気のせいかな?


「どうしたの?」


「な、なんでもないーよー」


 汗ダラダラだが。


「? 変なお兄ちゃん』


 天使のような顔をみせるわが妹。

 だが、その笑顔の裏には鬼がいることを、俺は再認識させられた買い物だった。








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