花見 4
インフルエンザにかかってしまい、日夜闘病しておりました。行進が遅れて申し訳ない……
夕方のスーパー、そこは女性であることを忘れた猛獣たちの戦場。
俺と唯は今、そこに足を踏み入れる。
「お兄ちゃん……唯、怖い…」
「安心しろ。お兄ちゃんが傍にいるからな」
「うん……」
不安で一杯の唯を元気付けてやる。いざとなれば我が身を省みず唯を守る一存だ。
さあ、行かん! 戦場へ!
「お兄ちゃん!それ取って!」
「え!?」
怒号ともいえる指示に俺の頭がついていかない。
「ふっ、貰った‼」
もたつく俺の隙を見て、おばはんが激安の国産牛セットをかっさらってゆく。
「チッ! なにしてんだよ!」
「ひぃ! すみません!」
「お兄ちゃんって全っ然使えないね。もういいからカゴだけ持っててくれる?」
「…はい、すみません…」
妹の鋭い睨みに思わず平謝りの俺。
今、わが愛しい妹は羅刹と化している。既に別人の形相だ。特売という戦場はこうまでも人を変えてしまうのか。
『次のタイムセールは、卵一パック50円!限定100パックです!』
またもや店側が“エサ”を投入したようだ。
群衆がダーッと過ぎ去って行く。
「乗り遅れる! ほら、お兄ちゃん行くよ!」
「はいっ!」
唯がすごい速さで走り去っていく。アイツってあんな速かったっけ……
「やったぁ! 2パックゲッツ!」
勝利の雄叫びをあげる唯。ずいぶん逞しくなって、お兄ちゃんは嬉しいよ。
その後も唯軍曹の快進撃もあり、特売品をゲットし続けた俺たちは、予算の半分程度で買い物を済ませることができた。これも唯のお陰である。
主な戦利品。
卵2パック、牛乳1パック、鶏の骨付き肉3パック、豚肉肩ロース塊500g、焼き肉用牛カルビ3パック、その他野菜諸々。
「~♪」
至極満悦の唯と共にスーパーを出る。辺りはもう日が沈んでいた。
俺は停めてあった自転車のカゴにビニール袋を入れて唯の元に戻る。
「いやぁ、たくさん買ったなぁ」
カゴからはみ出んばかりのビニール袋を手で抑えつつ呟く。帰りも自転車を押した状態だ。もはや何故自転車を持ってきたか分からなくなってきた。
「唯、途中から記憶がないんだけど……」
「……そっか。無理に思い出すこともないんじゃないかな」
ハハハと笑ってみせる。あの時の唯はきっと内に秘めた獅子なのだ。むやみに起こしてはならぬ。
「なんか……引っ掛かる………特…売、たいむ………」
ヤバイ! 記憶を取り戻しそうだ!
「そ、そうだ! 浮いた金でお兄ちゃんが甘いものでも奢ってしんぜよう」
「え! 本当?」
「ああ、本当だ。今日は唯にはお世話になったしな。たまにゃ兄貴面せんとバチがあたるってもんよ!」
「わーい! お兄ちゃん大好き!」
ぎゅうううう!
唯が俺の身体に抱きついてくる。
ああ、よかった。話題を逸らせた。
「………にやり」
「え!?」
一瞬悪く笑う唯の顔が。き、気のせいかな?
「どうしたの?」
「な、なんでもないーよー」
汗ダラダラだが。
「? 変なお兄ちゃん』
天使のような顔をみせるわが妹。
だが、その笑顔の裏には鬼がいることを、俺は再認識させられた買い物だった。




