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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第1章:泥を啜らされた令嬢、極寒の帝国で至高のスープを振る舞う

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第9話:帝国が私を見つけた日

「――ヴェスタ公爵令嬢、エリアナ様のお通りですわ」


 セリーナさんの凛とした声が、黄金に輝く大広間に響き渡りました。

 重厚な扉が左右に開かれた瞬間、千人を超える帝国貴族たちの視線が、一斉に私へと突き刺さります。

 かつての私なら、その重圧に足が震えていたでしょう。けれど、今の私の手には母の木ベラがあり、そして何より、隣にはこの世で最も尊大で愛おしい御方がいらっしゃいます。


 ゼフィロス様が、私の腰に手を添え、ゆっくりと歩みを進めます。

 漆黒のドレスの裾が、歩くたびに銀色の波紋を描き、シャンデリアの光を反射して煌めきました。


「……あれが、例の令嬢か?」

「なんて美しい……。雪山の亡霊などと誰が言ったのだ。まるで月光を擬人化したようではないか」


 会場に囁きが広がります。昼間、私を「泥棒猫」と呼んだ貴族たちも、今の私の姿を前にしては言葉を失い、ただ呆然と見惚れていました。

 その群衆の最前列に、青白い顔をして立ち尽くす一団がいました。

 王国の特使、バルト卿とその随行員たち。


「あ……エ、エリアナ……?」

 バルト卿が、信じられないものを見るように目を見開きました。

 彼の知る私は、灰を被り、常に俯いて厨房の隅にいた「便利な道具」だったはず。今の私が纏う、皇帝の寵愛という名の輝きは、彼の理解を遥かに超えていたのでしょう。


 ゼフィロス様は、壇上の玉座の前に立つと、バルト卿を氷のような瞳で射抜きました。


「王国からの使者よ。……我が客人を『泥棒』と呼び、返還を要求した不届き者は貴様か?」


「ひ、陛下……っ。それは誤解にございます! 彼女、エリアナは王国の財産であり、我が国の第一王子の……」


「黙れ。この女の価値も分からず、雪山に捨てた愚鈍が何を語る」


 ゼフィロス様の冷徹な一喝に、広間が震えました。

 彼はそのまま、私の手を優雅に取り、広間全体に聞こえるように告げたのです。


「今宵、私は諸君らに披露しよう。……帝国を蝕んでいた『虚無の呪い』を払い、私に再び生命を吹き込んだ、至高の奇跡を」


 陛下の合図とともに、銀のトレイを掲げた給仕たちが一斉に動き出しました。

 運ばれてきたのは、私が今しがた厨房で仕上げた、たった一杯のスープ。

 『月光とハーブのコンソメ・祝福仕立て』。


 ハンスさんをはじめとする帝国料理人たちが、まるで神事でも執り行うかのような敬虔な顔つきで、貴族たちへ配膳していきます。

 蓋が開けられた瞬間、広間は芳醇な、そして魂を震わせるような香りに包まれました。


「な……何だ、この香りは!?」

「ただのスープではない。……飲む前から、魔力が活性化していくのがわかる!」


 貴族たちが一口、スープを口に含みました。

 その瞬間。

 広間から、喧騒が消えました。

 ある者は驚愕に目を見開き、ある者はあまりの幸福感に涙を零し、またある者は自らの舌がこれほどまでの「生」を感じたことに震えています。


「……美味い。……ああ、神よ。私はこれまで、一体何を食べていたのだ!」

「この料理があれば、帝国の冬など恐るるに足らん!」


 昼間、私を蔑んでいた貴族が、皿を握りしめたまま私の前に膝を突きました。

「エリアナ様……! 申し訳ございませんでした! 私の舌は腐っていた! どうか……どうか、帝国を、我々をお見捨てにならないでください!!」


 その声は連鎖し、やがて会場全体が「エリアナ様!」という称賛の嵐に包まれました。

 状況が理解できず、狼狽するバルト卿の手にも、一杯のスープが差し出されました。

 彼は震える手でそれを口にし――。


「……がっ……、ああ、あああ……っ!!」


 彼はスープを飲み干した瞬間、その場に崩れ落ちました。

 美味しいから。……いいえ、それだけではありません。

 私の料理に含まれる「祝福」が、彼の腐った魂を照らしたことで、彼自身が「自分がどれほど愚かな裏切りをしたか」を、脳裏に直接刻み込まれたのです。


「バルト卿。……美味しいですか?」

 私は壇上から、哀れな彼を見下ろして微笑みました。


「それが、あなたたちが『無能』と呼び、捨てたものの味ですわ。……そして、あなたたちが二度と、死ぬまで二度と味わうことのできない『幸福』の味です」


「待ってくれ……エリアナ! すまなかった! 私が悪かった! 頼む、戻ってきてくれ! 殿下も、フィオナ様も、みんな苦しんでいるんだ!」


 縋り付こうとするバルト卿の前に、ゼフィロス様の漆黒の長靴が、冷酷に踏み出されました。


「……私の言葉が聞こえなかったか。……この女は、帝国の心臓だ。……王国の王太子に伝えろ」


 ゼフィロス様は私の肩を抱き寄せ、耳元で愛おしげに囁いた後、バルト卿へと死の宣告を突きつけました。


「『奪いたいなら、軍を引き連れてくるがいい。……その前に、貴様らの国が餓死していなければの話だがな』とな」


「……ひいっ!!」


 バルト卿は、帝国の騎士たちによって引きずられるように広間から追い出されていきました。

 後に残ったのは、鳴り止まない喝采と、私を見つめる陛下の、熱く、狂おしいほどの独占欲を孕んだ眼差しだけ。


「見たか、エリアナ。……世界はお前を見つけた。……そして、もう二度と離しはしない」


 私は陛下の胸に身を預け、ようやく確信しました。

 王国での私は、確かに死んだ。

 けれど、ここ帝国で、私は「祝福の令嬢」として、本当の人生を歩み始めたのだと。


 一方、王国の国境付近では。

 フィオナが必死に振るったはずの鍋から、真っ黒な煙と、汚水のような異臭が立ち上っていました。

「なぜ……なぜよ!? レシピ通りなのに! エリアナがいなくても、私が聖女のはずなのに……!」


 崩壊していく王国。消えていく光。

 地獄の幕は、まだ上がったばかりなのでした。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


「世界がお前を見つけた」……陛下、なんて痺れるセリフかしら!おーっほっほっほ!

広間全体がエリアナの虜になり、バルト卿が無様に這いつくばる姿……わたくし、書いていてあまりの爽快感に、紅茶を三杯もおかわりしてしまいましたわ。


バルト卿を追い返したことで、王国との関係はもはや修復不可能。

でも、自業自得というものですわね。

次回からは、さらにスケールアップした「ざまぁ」と、陛下の「甘すぎるご褒美」が待っておりますわよ。


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナの新しい門出を祝してくださると嬉しいですわ!

あなたの星が、彼女の木ベラをさらに輝かせるのですから!

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