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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第2章:復讐は黄金の焼き加減で――腐敗した王国を焼き尽くす断罪のフルコース

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第27話:帝都の泉が枯れた朝、エリアナは微笑みを絶やさない

「……おや、セリーナさん。今朝の紅茶は、随分と『鉄分』が多そうですわね」


 離宮のテラス。

 私が朝の光の中でカップに手を伸ばそうとした瞬間、立ち上がったのは芳醇なアールグレイの香りではなく、鼻を突くようなどろりとした血の臭いと、湿った泥の重苦しい気配でした。


 ティーポットから注がれた液体の色は、美しい琥珀色ではありません。

 どす黒く濁り、水面に油のような虹色の膜が浮いている――。


「申し訳ございません、お嬢様。……たった今、帝都中の泉、そして離宮の魔導水道に至るまで、すべての水がこの『泥』に変わったとの報が入りましたわ」


 セリーナさんが眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、すでに戦闘態勢の冷徹な声で告げました。

 階下の広場からは、水を求めて集まった民衆たちの悲鳴と、パニックの足音が聞こえてきます。


「……フン。これがお前の妹とやらが煮込んだ『スープ』の正体か。……不愉快極まりないな」


 ゼフィロス様が、音もなく私の背後に現れました。

 彼の右手からは、抑えきれない怒りの魔力が黒い炎となって揺らめいています。彼が地面を一歩踏みしめるたび、その足元から石床が凍りつき、腐敗の臭いを力ずくで封じ込めていきました。


「陛下、そんなに怒っては、せっかくの朝の空気が台無しですわ。……皆様、水が飲めなくてお困りのようですし。……少し、私の『木ベラ』で、帝都の喉を潤して差し上げましょうか」


 私は、ゼフィロス様の猛々しい魔力をなだめるようにその腕に手を添え、ゆっくりと立ち上がりました。


 帝都中央。

 帝国の象徴である『神竜の噴水』。

 そこには、昨夜まで清らかな聖水が溢れていたはずの場所に、今は粘り気のある漆黒の泥水がどくどくと溢れ、周囲の石畳を汚していました。


「この水は呪われているわ! 飲んだ者が次々と腹を壊し、正気を失っている!」

「ああ、もう終わりだ! 食べ物が実っても、水がなければ死ぬしかない!」


 絶望に染まる民衆の前に、私はゼフィロス様と共に、最上級の純白のドレスを翻して降臨しました。

 

「皆様、お静かになさい。……おーっほっほっほ! 泥水が流れているくらいで、帝国の民が取り乱すなんて、それこそ王国の思うツボではありませんか」


 私の凛とした高笑いに、広場がしんと静まり返りました。

 私は噴水の縁に立ち、どす黒い水面を見つめました。

 木ベラをかざすと、その先がチリチリと嫌な熱を放ちます。……これはただの汚れではない。生き物の執念と、腐った魔力の塊。


「セリーナさん、ハンスさん。……少しばかり、『出汁』を整えますわ。……火を」


 ハンスさんが「御意!」と叫び、騎士たちと共に噴水の周囲に魔導の炎を灯しました。

 噴水全体を巨大な「鍋」に見立てた、前代未聞の広域調理。


 私は、木ベラをその泥水の中に深々と突き立てました。


「冷え切った大地に、祝福の一掻きを。……淀んだ命に、太陽の薫香を。……洗い流しなさい、私の『慈愛トリートメント』! ――清輝のピュリファイ・ドロップス!!」


 木ベラから放たれた黄金の光が、噴水の底から爆発するように広がりました。

 ジュゥゥゥッ! という、汚れが蒸発する凄まじい音が響き、漆黒の泥水が、一瞬にしてまばゆいばかりの、透明を超えた『青白き輝き』へと変質していきました。


 立ち上るのは、霧のような細かな飛沫。

 その飛沫を浴びた民衆たちが、一様に目を見開き、魂を洗われたかのような表情で空を見上げました。


「……香りが……、ミントと、朝露の香りがする……!」

「泥が消えた……! 宝石のような水だ!」


 噴水から溢れ出したのは、もはやただの水ではありません。

 一口飲めば、全身の魔力が活性化し、病さえも癒やす『祝福の霊水』。


 私は、手元の銀のカップにその水を汲み、一口だけ、毒見のために口に含みました。


(……!?)


 その瞬間、喉の奥に走ったのは、癒やしの甘さの裏側に隠された、ゾッとするような「生々しい感覚」。

 それは魔力の残滓ではなく――何らかの「生命体」が、その身を溶かして混ざり込んでいた後のような、ねっとりとした余韻。


「……エリアナ? どうした、顔色が悪いぞ」


 ゼフィロス様が私の肩を抱き寄せました。

 私はカップの底に残った、目に見えないほど小さな『紅い結晶』を見つめました。


「陛下。……この呪い、ただの魔術ではありませんわ。……フィオナは、自らの『肉体』を、この水脈に溶かし込んでおります」


「……何だと?」


「これは料理ではありません。……自らを供物とした、大陸規模の『心中』ですわ。……彼女、本当に……自分の身を削って、帝国を道連れにしようとしておりますのね」


 浄化されたはずの噴水の底で、一瞬、不気味な紅い瞳がこちらを覗き、嘲笑うように消えた気がしました。

 王国の地下から伸びる、文字通りの『死の手』。

 エリアナの祝福と、フィオナの狂気。……二人の「おもてなし」の戦いは、今、最も凄惨な段階へと足を踏み入れようとしていたのです。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


噴水の水を一瞬で「霊水」に変えてしまうエリアナ様……。

おーっほっほっほ! 泥水を前にしても「出汁を整える」と仰る余裕、まさに帝国の女帝に相応しい貫禄ですわね!

パニックを一瞬で鎮める黄金の光に、わたくしまで心が洗われましたわ。


でも、水の中から見つかった「紅い結晶」。

フィオナさん……まさか、本当に自分の体を水脈に溶かしているのかしら!?

執念を超えて、もはや呪いの塊となってしまった彼女に、エリアナ様はどう立ち向かうのか……。


次回、第28話。

「泥水を極上の葡萄酒に変える、祝福の錬金術」。

水が浄化されても、人々の不安は消えません。

そこへ、さらなる「味の奇跡」を畳み掛けるエリアナ様の、華麗なるアフタヌーンティー・バトルが始まりますわよ!


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナ様の木ベラにさらなる加護を授けてくださいませね!

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