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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第1章:泥を啜らされた令嬢、極寒の帝国で至高のスープを振る舞う

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第11話:偽りの聖女と届かぬレシピ

「……どうして! どうしてお姉様と同じに作っているのに、こんなものになるのよ!」


 王国の王宮厨房。そこには、かつてエリアナが美しく整えていた清潔な面影はどこにもありませんでした。

 至る所に煤がこびり付き、腐りかけた食材の悪臭が漂う中、フィオナは狂ったように鍋をかき回しています。


 彼女の傍らには、エリアナが追放される直前まで書き溜めていた『調理日誌』が置かれていました。

 分量、火加減、投入のタイミング。すべてが完璧に記された、料理人にとっての聖典。フィオナはそれを一文字も違わずに再現しているはずでした。


 しかし。

 鍋の中から立ち上るのは、芳醇な香りではなく、鼻を突くような酸っぱい硫黄の臭い。

 黄金色になるはずのスープは、みるみるうちにドロドロとした黒い泥状へと変質し、ぶくぶくと不気味な泡を噴き出しています。


「レシピ通りよ……! 水一滴、塩一つまみまでお姉様の真似をしたわ! なのに、どうしてこんなゴミができるの!?」


 フィオナが絶叫し、お玉を鍋の中に放り込みました。

 その瞬間、パァン!と鼓膜を震わせるような破裂音が響き、黒い泥が四方八方に飛び散りました。

 フィオナの純白のドレスが、どす黒い汚れで無惨に染まっていきます。


「……様。フィオナ様、もうおやめください」


 厨房の隅で立ち尽くしていた料理人たちが、震える声で懇願しました。

 彼らには分かっていました。

 料理とは、単なる手順の再現ではない。その奥にある「祈り」と、食材に命を吹き込む「祝福」の力。

 エリアナがいた頃、この厨房の野菜はいつもみずみずしく、肉は熟成の極みにありました。それは彼女が厨房を歩くたびに、無意識に加護を振り撒いていたから。


 心に醜い毒を抱えたフィオナがどれだけ真似をしようとも、彼女が触れるたびに食材は腐り、鍋は悲鳴を上げる。

 彼女が作っているのは料理ではなく、己の『虚栄』という名の毒物でしかないのでした。


「黙れ! 私は聖女よ! お姉様よりも優れた、この国の太陽なのよ!」


 フィオナが発狂したようにノートを破り捨てようとしたその時。

 背後から、冷徹な足音が近づいてきました。

 やつれた、けれど瞳だけが異様な光を放つジュリアン様です。


「……無駄だ、フィオナ。レシピだけでは、あの女の代わりにはなれん」

「殿下……! そ、そんなことはございません! 次は、次は必ず……っ」

「もういい。……プランを変える」


 ジュリアン様は、破り捨てられかけたノートを踏みつけ、歪んだ笑みを浮かべました。


「あの女を連れ戻せないなら、帝国の料理番として汚名を着せてやればいい。……帝国中に毒を撒き散らした『魔女』として追放させ、絶望したところを鎖で繋いで引きずり戻す。……そのための『種』は、すでに帝国の厨房に植えてある」


「……殿下。流石ですわ、おーっほっほっほ……っ!」


 黒い泥を浴びたまま、フィオナが不気味に笑い出しました。

 壊れてしまった二人。彼らの執着は、もはや王国を救うことではなく、エリアナを自分たちと同じ「泥」の中へ引きずり下ろすことだけに向いていました。


 一方その頃。

 帝国、黒の離宮の厨房。


 私は、ゼフィロス様が楽しみにされている「食後の特製ソルベ」を作るため、一人で作業台に向かっていました。

 帝国に来てから、私の力は驚くほど増しています。

 木ベラを振るうたびに、食材たちがキラキラとした光の粒を放ち、私の心と共鳴する。

 ゼフィロス様が「美味い」と言ってくださるたびに、私の祝福はさらに純度を増していくようでした。


(今日は、あの冷たい湖の底に眠るような、静かな甘さを……)


 私は丁寧に、厳選された果実の果汁をボウルに注ぎました。

 仕上げに、ほんの少しの塩を加えることで、甘さを引き立てるのが私の隠し味。


 パントリーから取り出してきたばかりの、新しい塩の瓶。

 銀の匙でそれを掬おうとした、その瞬間。


(……え?)


 私の指先に、チリッとした嫌な熱が走りました。

 木ベラが、これまでにないほど激しく、震えるような警告の熱を放っています。

 私は眉を寄せ、匙に乗った白い結晶をじっと見つめました。


 見た目は、何の変哲もない最高級の岩塩。

 けれど、私の『祝福』の瞳を通してみれば。

 その結晶の中に、ドロリとした「黒い霧」が、まるで虫のようにのたうち回っているのが見えたのです。


(これは……塩ではありませんわ。……呪いの結晶!?)


 背筋に氷を押し当てられたような戦慄が走りました。

 もしこれに気づかず、ゼフィロス様に差し上げていたら。

 ただでさえ呪いに苦しんでいた彼の体は、今度こそ内側から食い破られていたかもしれない。


「……何をしている、エリアナ様」


 背後からかかった、低く、湿った声。

 振り返ると、そこには見覚えのない、けれど宮廷料理人の服を着た男が立っていました。

 彼の瞳は濁り、口元には卑屈な笑みが張り付いています。


「そのお塩、新しいものに取り替えたばかりなのですが。……何か、お気に召さないことでも?」


 男が、音もなく一歩踏み出してきました。

 私の右手には、呪いの塩を乗せた銀の匙。

 厨房には今、私とその男の二人きり。


 セリーナさんも、陛下も、ここにはいません。

 静寂の中で、私の心臓の音だけが、不吉な警笛のように鳴り響いていました。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


偽聖女フィオナの「爆発調理」シーン、いかがでしたかしら?

おーっほっほ! どんなにノートを盗んでも、彼女の「真っ黒な心」がスパイスになっては、料理ではなく兵器になってしまいますわね!


けれど、帝国に忍び寄った魔の手。

エリアナが異変に気づきましたが、目の前には怪しげな男が……。

ああっ、エリアナ、負けないで! 陛下、早く助けに来てくださるかしら!?


次回、帝国の厨房で繰り広げられる「味覚と魔力の決闘」!

エリアナの木ベラが、呪いの塩をどう捌くのか……。

続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、彼女に勇気を与えてくださいませ!

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