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#97

ルキフグスがシェラザードの手によって討滅させられる、その僅か数分前。

(ヘッズ)”を含める他の6人を、ヴァーミリオン達が相手をしている―――その後方にて……





「シェラザード、少し話がある。」


「あ……魔王様。  はい、なんでしょう?」


「これから彼の者……ルキフグスは最後の抵抗を試みてくるだろう。  そこで、私は彼の者に対し“取り引き(ディール)”を持ちかけようと思う。


「えっ?! なんで……どうしてですか? この魔界は、あいつらの都合だけでこんなにも荒らされたのに―――それなのに……“取り引き(ディール)”?」


「ああ、そうだ。  だがこの“取り引き(ディール)”は、必ず決裂に終わる。」





この時、敢えてヴァーミリオン達が残ったルキフグス達を相手としていたのは、この為の時間稼ぎの様なものでした。

そう、カルブンクリスとシェラザードの話し合いに、目を向けさせない為……

そしてこの時カルブンクリスは、前話での概ねの行動―――ルキフグスに対しての“取り引き(ディール)”を持ちかける事を話したのです。


けれどその事に、シェラザードは納得はしませんでした。

なぜなら彼らの一方的な侵略行為に対して、自分達が住まうこの魔界(せかい)が……なにより“悪友(よきとも)”が蹂躙(ふみあら)されてしまったのだから……。

しかし、カルブンクリスの“目的”は、『平和的和解』ではなかった―――なにより、彼の者達に対して、一番に怒りを感じているのは、彼女自身なのだから。

その証拠としてカルブンクリスは、この“取り引き(ディール)”自体が、決裂に終わる事を前提としていたのです。


彼女ほどの“交渉屋”が、“取り引き(ディール)”を持ちかける前に既に決裂を見越していたとは―――?

それにこの交渉自体も、ある事の時間稼ぎ―――だったとしたら……?


そう、それこそが―――





「『神意(アルカナム)』……つまりはそう言う事ですね。」


「えっ? はい?! アルカ―――……なんだって?」


「その総じての意は『神々の有する顕現』と言われているものです。  そして、これこそが魔界(こちら側)の『最終的な切り札』―――それにシェラさん、あなたには前任者であるローリエ様からグリマーを引き継がれた折、この『神意(アルカナム)』の要諦に関しても話されたはず……。」


「それは―――そうだけど……話されはしたけど、ワケ判んないよ……。」


「まあ尤も(もっとも)、頭で理解しろ―――と言う方が無理かもしれないね。  逆説的に言えば、理解した上で行使できるならば、これ程頼もしい事はない。」


「―――と言う事は……?」


「その権能が我々に向けられれば、それは我々の全面的な敗北を意味する事に(ほか)ならない。」


「そ―――そんな……そんな事って……」


「それほどまでにグリマーには、強力な権能が与えられているものなのですが……。  ローリエ様の前例を見て申し上げるまでもなく、強力過ぎる権能以外は、普通に私達とどこも変わらないのです。  大きな怪我もすれば、悪くすれば生命だって落とす事もある……そして、“魅了”や“洗脳”にだって陥る事もある―――だからこそ、取り扱いを慎重にしてきたのです。  それに、シェラさんが遠隔攻撃を得意とされた事は、魔界(こちら側)としても僥倖でもありました。  ヴァーミリオン様の様に近接攻撃が得意だとあれば、こちらの戦略もまた違ったものになっていた事でしょうから……。」





シェラザードが冒険者として立身して以降、得意としていたのは剣であり、槍であり、斧であり、弓であり、魔法でした。

それは、どれを取っても遜色ない―――まさしくのオール・ラウンダータイプだったのです。


けれど、数々の交流を交えていくに従い、徐々に“近接”なモノは使わなくなっていた……。

そして今回の防衛戦に関しては、後衛に於いての遠隔攻撃に徹底していたのです。


だからこそ、虜囚にはなり難い―――

当初ササラやミカエル等は、シェラザードが前線で活躍するのを喜ぶ一方で、ちょっとしたものの弾みでシェラザードがラプラスの手に陥ちはしないものかと、気を揉んでいた時期もあったのです。

それがいつの頃からか……シェラザード自身から、前線へと出る機会を減らしてきていたのです。


{*実は、その時機と言うのを逆算してみると、クシナダがニュクスに取り込まれてしまった時機と被って来る}


そしてここで、その真意が語られる―――……





「君が持っている『神意(アルカナム)』……そして遠隔攻撃を可能とする弓……最早説明するまでもないだろう。  これから私が為す“取り引き(ディール)”は必ずや決裂する―――これはもう決定事項なのだ。  だから君は、この私が合図をすると同時に、この場からルキフグスを射抜くのだ。」


「で……でも、先程からの闘争を見ている限り、あいつの前には……」


「≪ディスペル・ウォール≫……まあ、魔法防壁陣の様なものだね。」


「ミカエル様……それは一体なんなのですか?」


「あれは、私達にも備わっている魔法障壁と同じ様なモノ……あらゆる物理攻撃や魔法攻撃の効果を遮断し、状態異常もほぼ無効化させると言った代物だ。」


「そ……そんなあ~~そんなの、どうやって―――」


「そうした防壁や障壁の類総てを、君の『神意(アルカナム)』が無効化できる―――と、したなら?」


「え?? なんですか―――それ……私ですら知らない事を、どうして魔王様が……」


「私だって、何も政務や研究に明け暮れていたわけではないよ。  グリマーたる君の本質……その事をよく知る為に、張り付かせていた人達の事をもう忘れたのかい。」


「(!)竜吉公主様に―――ウリエル様……」


「まあ、君には悪いとは思ったけれど、魔界一の戦力たる君の事をよく知らなければ、魔界の頂点に立つ者としては失格だからね。」


「それであるが為、魔王様御自らも出陣する経緯に至ったのです。」


「それに……どうやら頃合のようだ―――では行くとするよ。  それからシェラザード、何も君が心配しなくとも、“その言葉”は自然と湧き、その口から溢れる事だろう……。  そして、紡がれ終えた時―――その時こそが、この戦争の終結だ。」




#97;遂にその名を為さしむ




こうして、まるで書きあげられた台本(シナリオ)通り本編は進み―――ルキフグスの消滅を以て(もって)防衛戦の終結を見たのです。


その後日―――魔王城では今回の防衛戦の勝利を祝い、その為の戦勝の宴と論功行賞が発表されました。

かつて英雄と呼ばれた者達は、再びその栄誉を取り戻し、『三柱(みつはしら)』の実力者も更なる各付けと新たなる権限を授与されました。


そして―――……





「右の者―――ヒヒイロカネ・シルフィ・クシナダ・シェラザードを、新たなる『英雄』と認定し、その序列に加わる事を許可する。」





この、魔界(せかい)の王の高らかなる宣言によって、遂に自分が成りたかった『英雄』と成った、エヴァグリム王女―――シェラザード……

彼女が自分の城より出奔したのは、自国に巣食う“身中の蟲”の退治が主目的としてありましたが、なにより“城”と言う狭き世界から脱却し、もっと広い世界を見聞したかったから……。


そして幼い頃から読み耽り(ふけり)、終には全内容を諳れる(そらんじれる)まで暗記(おぼえ)てしてしまっていた―――『緋鮮の記憶』……


王女は、幼心に『いつしか、このお話しに描かれている英雄様達の様に成りたい』……そう願っていました。

しかしそれは、所詮叶わなかった夢―――叶わないであろうとされていた夢……

幼かった頃はまだ良いとしても、次第に成長していくに従い、夢見がちではいられなくなる……

それほどまでに王女の身の周りの状況は逼迫(ひっぱく)していた―――

自分の周りには、自分一人しかいない―――味方なんて、誰一人として居はしない事を思い知っていたのです。


けれども、現在より10年以上も前に、“プイ”と自国の城を訪れた一人の吟遊詩人により、外の世界への興味がまた“フツフツ”と湧いてきた……

そして出会う―――自分の“運命”達と……。





「―――なんだか……笑っちゃうよね、私達が英雄だなんて……。」


「そうね―――でも、あなたはそうなる為に目指してきたのでしょう?」


「そうだね……それに、あんた達と一緒なら、悪い気なんてしないよ―――」





ここにこうして、その本懐は遂げられました。

その“きっかけ”がなければ、世間知らずの王女様―――で終わったかもしれない……

けれど、王女はその“きっかけ”から何かを掴み、掴んだからこそ世間知らずの王女様では終わらなかった……


“鳥籠”から羽搏いて(はばたいて)征った(いった)一羽の(とり)は、大空を舞い―――

やがては“その名”を、魔界全土に知らしめられるほどに成ったのです。





つづく





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