#96
古の英雄達や上位者達によって、総てのルキフグス達は打倒されました。
そしてこれにより、魔界を防衛する事は出来た……と、思われたのですが―――
「気を抜くのは早計です! 真の闘争はこれから―――……」
「クシナダ……そうか、あんたはニュクスと同化していることにより、私達よりはあいつらに詳しい……」
「フン―――通りでね……手応えが軽いとは思ったんだ。」
「……と、言う事であれば、私達は少々サービスが過ぎてしまったようですね。」
「だから……なんだと―――? また再び立ち上がろうと言うのなれば、また祓い討てばよいまでの話し……」
「神威は相変わらずのようですね。 けれど我々は、このまま前線に立つべきではない―――と、そう考えます。」
「それはどうしてかしら。」
「公主―――あなたもお人が悪い……。 こちらの手札は、総て見せるべきではない……と、こう申しているのです。」
魔界側の他の誰よりも、ラプラス達に精通しているクシナダにより警句がなされました。
それはつまり、ルキフグスが単なる、同じ称を持つ9人もの有象無象の寄せ集め―――ではないと言う事。
この事が示す事と言えば、先程馘を断たれた“頭”が……
「フン―――ニュクスめ……余計な知恵をつけてくれたものだ。 だが、まあいい……お前達の“最大奥義”とやらは、この眼で……身体で確と見極めさせて頂いた。 そう言う事だ―――あの9人全員がオレであり、ルキフグスなのだ!!」
* * * * * * * * * * *
「―――そして、その総てを統括するのが、“頭”であるお前と言う訳だね?」
「ほう―――御大将自らおでましとはな……。 では、大将同士で決着を着けると―――」
「それには及ばない。 私はこう見えて憶病なのでね、お前如きの口車に乗って、うっかり敗けてしまわないかと気を揉んでいるのだよ。」
「は? はは―――は……これはとんだ拍子……」
「―――と、私がそう言えば、少しは油断したかな?」
そう、この“頭”こそがルキフグスの本体―――である事を、既に魔王は看破いていたのです。
そしてここで、“攻”と“防”の総大将の初対面―――と言う事で、ルキフグスは直接対決に持ち込もうとしたのですが。
意外にも気弱な発言に気を好くしてしまったか、『これならば―――』と、思ってしまった……。
しかしそれは、知恵ある者の歪言である事が知れると、ルキフグスの御業が魔王を襲い……?
≪業火;爆炎抗壁≫
「控えろ、下郎―――お前自身は“大将同士”と思っているようだが、こちらとしては事情が違う。 所詮お前達は、お前達の次元で“神”を僭称する者の前に膝を屈し、言いなりになっているに過ぎない。 そんな者共が、自らの意志で魔界の頂点に立とうとした御方と、対等だと思い上がるな!!」
魔王は、自らの身に危険が及ぼうとも、その両の腕を組み、悠然と佇んだままだった。
その姿は余裕からくるものなのか……はたまたは諦めからくるものなのか―――
いやそれもまた愚問―――
魔王カルブンクリスは、避ける事も防ぐ事も、これっぽっちも考えてはいなかった。
それはまた、自身が魔王登極を表明した頃から交流のあった、『神人』は天使族の長、大天使長ミカエルがいたから……
一つの派閥の頂点にありながら、その“虚”を以て互助関係を構築させてきた、“天使”と“魔王”―――
信じ合って背中を預けてきた間柄だからこそ、魔王は無防備にすらなれていたのです。
そしてルキフグスが放った御業は、ミカエルの炎の防壁により掻き消され、ここに勝負は極まったか―――に、思われたのですが……
「フフフッ……ここまでになると、最早憐れ―――としか言い様がないね。 まあ尤も、君達に対し憐憫を持ち合わせるなど論外だ。 そこで……“取り引き”と行かないか?」
「(カルブンクリス―――?)」
「(魔王さんよ……この期に及んで何を―――?)」
「(まさか……?)」
「(この方―――!?)」
総勢100万の軍勢で構成された、今回の魔界侵略軍―――
その圧倒的戦力、物量に於いて魔界が自分達の手に陥落るのは、時間の問題であろうとさえ言われていました。
なのに……結果としては、侵略軍は自分ただ一人を残すのみ―――……
こんな馬鹿げた戦争で生命を散らすなど以ての外―――とはしていても、周りを囲まれており、逃げるにも……退く事も儘にならず、窮地へと追い込まれるのでしたが。
ここで思ってもいなかったような言葉が、実に意外な人物より投げ入れられた―――
“取り引き”……それは、交渉を以て相手に応じる―――しかしながら魔王のそうした慮りを“疑う”ものと、慮りの先を見据えたもの……
そう―――魔王は……
「“取り引き”……だ、と? ああ―――よかろう……屈辱的なれど、この上は致し方のない事だ……。」
「ならば、話してもらおう。 一体“誰”の差し金だ……話せ、“総て”を―――話せば、お前如きの小虫のする事、単なる“戯れ言”として赦してつかわそう……。」
現在の状況に於いて、自分は絶体絶命―――なのに、意外と魔王は人が好かった……?
ここまでの窮地に追い込まれたのは、ルキフグス自身が彼自身の次元に於いて、“神”を僭称する者に膝を屈させられて以来だった……。
それをあの当時には、その生命を繋いでもらう代わりとして、以後は“神”を僭称する者の命令に従わなければならなかった……。
それをまた、この度も味わわされようとは―――けれども、“生命あっての物種”……生きていればこそ、機会はまたある―――
そして人好しの敵の総大将からの温情―――“取り引き”を持ちかけられ、悔しい半面ながらも、生きていればこそまた機会は―――そう思っていたのに……
魔王からの質問に、途端に彼の者は口を噤んでしまった……。
しかし、これこそが魔王からの取引の内容だったのです。
けれど、カルブンクリス自身は、周知―――の様……だった、にも拘らず、今回の侵略担当者本人の口から言わせようとした。
“取り引き”とは銘打ってはいるものの、それは既に取引から著しく外れたもの……
言わば、脅迫―――嘲弄……
魔王は―――赦す気など、毛頭ない……
しかし、“ある者”に関しての事を、言わせようとしている……
それも、敗残者の“存続”を、天秤にかけて―――
もう……この取引は、申し出た直後から、既に破綻をしている―――……
そして、決裂をしてしまうのも……時間の問――――――――題………………
「ぅ……おのれえ~~―――!」
「シェラザード、『解放を許可する』!!」
「シェ:はいっ―――!」
〖久遠の空〗――〖恵の大地〗――〖大いなる聖域〗――〖いかなる邪悪を弾き〗――〖あらゆる邪念を貫きたる至高の鏃よ〗――〖来れ破邪の一撃〗
〖アルダー・ストライク;セレスティアル・スタンピード・アナイアレイション〗
#96;神意
言えようはずがない―――もし言ってしまったなら、自分は“彼の者”との服従の契約により、何の力も莫き存在に変えられてしまう……
しかもそれは、“ハッタリ”ではない事を、何度も何人もこの眼にしてきた……
ルキフグスは、元は“彼の地”に於いては、その“彼の者”に対しての抗し得れるべくの“急先鋒”ではありましたが、“彼の者”の圧倒的な力の前に平伏さざるを得なかった……しかしなから、ただ敗北を受け入れたわけではなく、いつか―――隙あらば……の、反攻の機会は伺っていたのです。
しかし、それすらも叶わないと判ってしまった今となっては、“彼の者”の命令通りに動くしか外ほかはない―――
それに、“彼の者”にしても、そうしたルキフグスの心中を詠んでもいた為、安易に信用することはなく、そうした“契約”を半強制的に結ばせたのです。
けれど……そうした事情など魔界側には伝わらない―――伝わる事はない……
だから自暴自棄と成り、カルブンクリスと玉砕を試みようとするも―――
それに、魔王にしても、この機会を待っていたのです。
自分達……魔界側が保有する“最大の戦力”―――
それは、緋鮮の覇王を筆頭とする古の英雄達でもなけれは、『三柱』の実力者の2人でもない……。
その“称”―――『閉ざされた闇に躍動せし光』……
シェラザードは、『グリマー』である者は……前任者より権能の継承をした時、己に秘められたこの権能に覚醒めていました。
100人張りの剛弓を引き絞り―――放たれた矢は、眩いばかりに輝きを放ち、やがて幾つもの“陣”を形成しました。
そして1本に見えた矢は、標的に近まるにつれ分裂し、標的の至る所……文字通りの9つもの“急所”を貫いた……
ルキフグスもまた、ニュクスよりも格段上の実力を保有する者ゆえ、敵の猛攻撃に耐え得るだけの耐久性に手段を擁していましたが、その為の防壁陣が見る影もなく打ち砕かれ、しかも再生機能も無効化された……そして終の一撃が、本体である“頭”を貫破する……
それこそが『神意』―――“閉ざされたる闇に躍動せし光”に備わる、唯一にして無比の権能なのです。
つづく




