#98
『ラプラス』―――と言う、異次元からの侵略者を撃退し、その栄誉を称えられ遂に英雄に認ぜられたシェラザード。
これによって、彼女が目的としていた全目標はクリア出来たわけなのですが……。
「なあ~~んか、有名人になるの―――って、大変なんだわさ。」
「何を言っているのかしら―――……」
「いやあ~~まあねえ? 今回私達の活躍が認められた―――は、いいんだけどさあ……」
「ああいますよね、有名になった途端近づいてくる人達―――」
「あれ? けどオレ達はそんな感じじゃねえけどなあ?」
「そりゃあんた達“庶民”と、私ら“王族”との違いだろうさ。」
「……王族―――ねえ。」
今回の防衛戦での華々しい活躍が魔王によって認められる事となり、英雄にまで成れた―――
その事自体は実に慶しい限りだったのですが、そうした事が世間的にも大々に報じられ、今やシェラザードの周りには、そうした栄誉の“おこぼれ”に与ろうとした者達に集られていたのです。
それに、そうした事の原因は、やはり同じくして英雄に認ぜられたヒヒイロカネ達とは全く異なる事情―――
そこがつまりヒヒイロカネ達は“庶民”だからこそ、旨味のある“汁”はついてはくるものの、シェラザードは『エヴァグリムの王女』である事が知られているため、以前より阿って来る者達が増えてきてしまっていたのです。
そう……既得権益を獲得しようとする者達が、老若男女を問わず集って来る……
そうした事に辟易していたようですが―――……
「(……)―――なあクシナダ……あんた言いたいことがあるなら言えよ。」
「何がですか?」
「『何がですか?』じゃねえ~だろ! なに塩らしい態度取ってんダヨ! さっきだって絶っっッッ対に、『何言っているのかしら―――』の後、『このお駄肉エルフ様は』て言ってたでしょうに!! 気ン持ち悪いんダヨ~~言えよ! 言いなさいよ!! 以前のヨーニ!」
「(プヒw)いやですわあ~そんなw 私がそんなはしたない―――」
「なにカマトトぶってんだ、こんなろーーー!」
もう長い付き合いになるのだから、互いに何が言いたいのかくらいは判ってしまえている……
しかも今シェラザードが指摘していたように、以前ならば『このお駄肉エルフ様は』はつけていてもおかしくはなかった―――
おかしくはなかったからこそ、敢えて言わないで置いたことにむず痒さを覚えてしまい、つい過激な行動に移らざるを得なくなり……
「……あなた、今、私に向かって“グゥ”でパンチを放ちやがりましたね?」
「ああ―――放ったよ……放っちゃ悪いか! あ゛? 言いたい事は言えよ……以前はまだ言ってたから“スカッ”としたもんだったのによォ~~!」
「そぉ~言う物の言い方が、あなたが“ヤクザモン”と言われてるゆえんなのですよ!! お蔭で私達もそう言う目で見られるし……少しはその性格、矯正したほうがいいんじゃなくて?! しかも……口で勝てないと判ったらすぐ手を出すし―――あんた、王女と英雄、返上した方がいいんじゃないの!?」
「言ったなあ~~? くんなろーーー!」
「ええ~~言いましたとも?!」
「(いやぁ~~しかしまあ―――久々に見ると、ド派手だよなあ~~これじゃ、先頃あった防衛戦より凄くないか?)」
「(ヒヒイロさん―――そこ感心する処じゃないですって……)」
ここのところ、ラプラス達の侵略騒ぎで一時中断していたものの―――なければ、なければ……で勃発してしまう丁々発止に、『ああこれでまた騒々しい日々が始まるんだろうなあ……』と、早くも諦めが蔓延しているよう―――なのでした……が……
おしおきグラビトンx2
何処からともなく突如空間から発生した球塊に、両者顔面から“めっこり”といき、地に沈む時も仲良く同時に……しかも綺麗に鼻血を吹いてのノック・ダウンに―――??
「あらっ、ササラ―――……」
(ムヒ~!)「全くこの人達はぁ~~! 折角英雄として奉られ、敬い崇められなければならないものをぉ~~! なぜ、どうして行動を改めようとはしないのでしょ~~か!! それともあなた達は、その場から3歩歩めば物を忘れてしまうと言う、“鳥頭”サンなのでしゅかあ~~!!」(ムヒ!ムヒ!ムヒヒ!!)
突如空間から発生した球塊を創り出したご本人こそ―――黒キ魔女であるササラなのでしたが……
どうやら彼女が珍しく怒りの感情を表しているというのも、これまでにも幾度となく注意を促してきたというのに、中々直そうとはしない―――だから、キレまくっていたようでして……
それはそれとして、ようやく機嫌を鎮めた処で、“お説教”の開始―――
「あ゛~~頭、まだなんか“クラックラ”するわあ~~。 まあなんつーか、久々にイイモン喰らった~って感じい?w」
「シェラしゃん―――ちょっと言いたい事ありましゅので、そこ座ってください。」(プンスコ)
「あの~~もう座ってんですけど―――」
「“屁”理屈はいいですゅからね゛ッ?」(ずいっ)
「あ゛~~はい……判りました―――(顔が近いって……)」
普段は静観気味でメンバーそれぞれの言動などを見守っている立場―――のササラも、もう我慢の限界に来ていたのか。
一時は中断となっていた『第○次大戦』が再開したとなると、折角いい方向性になろうとしている、このクランの評判なども落ちてしまうと思ったため、つい苦言を呈したくもなると言うモノ……
しかも、この時はシェラザードだけではなく―――
「次―――クシナダさん。」
「はい―――」
「あなたはまたどうして、嘘を吐いたりしたのですか。」
「(えっ? 嘘??)……て、そりゃどういう意味―――」
そもそもの、今回の事の発端―――とは、クシナダが嘘を吐いた処から始まった……と、黒キ魔女は指摘したのです。
いや、しかし―――……相手をしていたシェラザードは許より、彼女達の一挙動を見ていたヒヒイロカネ達も、クシナダの嘘は気付けなかった……また見抜けなかった……
だとて―――
「その事を、言わなければなりませんか……?」
「(……はぁ)言いたくないのならば、言わなくても構いません―――ですが、今後は気を付けてください。」
自分達には判らない……までも、彼女達では、どこか判っているかのようなやり取り―――
それに、だからこそササラも、それ以上の問責を行う事はなかったのでしたが……
その一瞬―――このクラン内に、どこか変な空気が流れ始めた……
ただ、それ以降は別段変わった事はなく、また変な縺れ合いもつれあいもないまま、時は過去きました。
―――だとしても……“来る”モノは必ず“来る”……“訪れる”モノは必ず“訪れる”……
それは、この変わらぬ日常に、破綻が訪れる―――と言う、前触れでもあったのです。
#98;後日譚:変わらぬ日常
つづく