第2話 注目の出会い
高校の門の前に着くとオレは立ち止まった。色々な人たちが学校の敷地の中へと入っていく。
落ち着きのない人、顔を輝かせた人、そういう人たちは共通して真新しいまだ着慣れないといった感じのオレが着ているのと同じ制服を着ている。たぶん、オレと同じ新入生なのだろう。もしかしたら、この中にオレの同級生になる人がいるかもしれない。
また、落ち着きのある人、新しい制服を着込んだオレたちを興味ありげに見ている人。それは、オレたちの先輩となる人たちなんだと思う。
それから、オレは校舎を見てみる。入学試験のときは緊張してしっかりと見ることができなかった校舎が今は輝いているように見える。
でも、それは精神的な状態が作用してそう見えるのではないと思う。オレがこれから通う私立鏡峰高校は最近設立されたばかりの比較的新しい高校だ。だから、校舎はまだかなり綺麗で真っ白に塗装された壁面が朝日を反射している。
浮かれた心でそれらの光景を見ていたオレはふと、あるものを見つけた。いや、もの、というのも失礼か。
距離が遠くてよくわからないのだがスカートをはいているところから少女だと思う人物が辺りをきょろきょろと見回している。何かを探しているようだ。他の人たちは歩いている中でその少女だけがその場から動いていないのでなんだか目立っている。
でも、そう考えてみれば門の前で足を止めているオレも目立つ存在だよな、と思った。
まあ、あの少女のことは気にするまでもない。あらかた、友達か憧れの先輩でも探しているのだろう。
オレはそう結論付けて歩き始める。
どんなやつがクラスメイトなるんだろうな、と考えながら門を通り抜ける。新入生はこちらへ、と書かれた看板が目に入った。オレはそれにしたがって進路方向をかえる。
オレの通るであろう道筋の途中にはいまだきょろきょろとしている少女がいる。そのことを確認してオレはその少女を少し意識しながら真っ直ぐと歩く。
そして、少女の前を通り過ぎようとした瞬間、オレの体を衝撃が襲ってきた。オレはとっさに受け身を取ろうとした。しかし、何かがオレの体に纏わりついているようで思うように体が動かなかった。
なので、受け身を取ることができずに勢いよく地面に倒れこんだ。地面に倒れこんだ衝撃と上から何かがのしかかってくる衝撃とで一瞬、呼吸が止まったような気がした。
な、なにが起きたんだ、と思い、まずオレは体を仰向けにする。けれど、視界の中に入ってきたのは青い空だけだった。けれど、まだ何かが体に纏わりついているような気がする。
と、いきなり隣から「やっと、会えた」という女の子の声が聞こえてきた。その声は鈴の音のように澄んだ綺麗な声で前世のオレが出会った魔王を連想させた。
そんなことよりも、オレは首を動かして声が聞こえてきた方を見てみた。
そこには先ほど、何かを探すようにきょろきょろしていた少女が嬉しそうにオレに抱きついているのが見えた。
「ちょっと、待てお前!何してんだよ!放せ!」
オレは初めて女の子に抱きつかれた、ということにドキドキしながらもそう叫ぶ。それでも、一向に放す気配見られない。
ざわざわ、と辺りが騒がしくなってきているのがわかった。たぶん、いや、絶対にオレたちのことを見て騒いでるんだ。
間近にある少女の顔は俺よりも幼そうに見える。何故かその少女は嬉しそうな表情を浮かべて目をつむっている。それらのことを総合してその少女は可愛い部類に入る。
そんな少女に抱きつかれて地面に倒れていて注目を浴びないわけがない。
先ほどオレが叫んだのは聞こえていなかったようでいまだに放してくれるような気配はない。なので、
「いい加減に放せよ!」
乱暴にそう言い放ち無理やり少女を引きはがし立ち上がった。
「きゃっ」
少女は小さくそんな悲鳴をあげる。そこで、オレは冷静さを取り戻し少女に声をかける。
「わ、悪い」
そう言いながらオレは手をさしのべる。
「う、ううん。あたしが悪かったんだから謝らなくてもいいよ」
少女はオレのさしのべた手を握る。女の子の手って柔らかいんだな、とかどうでもいいことを考えながらオレは少女を立ち上がらせる。
「ありがとう」
そう言った少女の顔は綺麗な笑顔を浮かべていた。オレはその笑顔につい見惚れてしまった。少女の顔を見ているのが恥ずかしくなり少し視線をずらす。
そこで、オレは注目されていたのを思い出した。というか、周りには思っていた以上に人がいた。オレはそれに愕然とすると同時に落胆した。高校生活初日からどんな噂が流れることになるんだろう、と。
オレのそういった思いが表情に出ていたのか少女は不思議そうに首を傾げた後にオレの視線の先、つまり後ろを振り返った。
「あ……」
という、少女の小さな呟きが聞こえた。それから恥ずかしそうにオレのほうを向く。混乱しているような感じだった。
確かに、オレもいきなり抱きつかれたりで混乱している。けど、少女の混乱はオレ以上のものだった。何故なら、
「ご、ごめんね!」
と、言って走り出してしまったからだ。多分、その一言はオレに向けての言葉で走っているのはオレや周囲の人たちから逃げるためだろう。
しかし、少女はオレの手を握りっぱなしだということに気がついていないようだ。オレは少女の走り出した瞬間にそれに気がついていた。
最初は手を離そうとも思った。けど、そうした場合この場から逃げるタイミングを失ってしまいそうだ。
だから、オレは少女の手を握ったまま半ば引っ張られるようにして少女と共にその場から逃げ去った。