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終章 明日の蒼く碧い空

「よし、帰ろっか」

 フェルの姿が見えなくなってからあたしは涼樹と魅月にそう言った。

 日はもう沈んでしまいあたりは暗くなり始めている。

「ああ、そうだな」

 今までずっと空を見上げていた涼樹があたしの方に顔を向けてくれる。あたしはそんな些細なことがすごく嬉しかった。

 涼樹があたしのことを見てくれればそれがあたしたちのつながりだって思えるから。

 そして、知らずの内に涼樹に握られている手の方に意識が向いてしまう。こうやって手を握り合っているのもあたしと涼樹のつながりだ。

 と、そんなことを思っていると涼樹とは手をつないでいない反対側の手が誰かに握られた。まあ、ここには涼樹のほかには魅月しかいないから魅月だと思うけどね。

 いまさっき手を握られたほうに顔を向けてみるとやっぱり魅月がいた。

「えっと、魅月、なにしてるの?」

 魅月があたしの手を握る理由がわからなくてそう聞く。

「見てのとおり、手をつないであげてるのよ。わたしだけ誰とも手をつないでいないから寂しいでしょう?だから、あなたと手をつないでいるのよ」

 うーん、納得できるような、納得できないような。

「けど、なんで、あたしなの?」

「本当は涼樹のほうがよかったに決まってるでしょう。でも、そうしたらあなたから涼樹を取りかねないでしょう?それに、今知ったんだけどあなたの手ってすごくさわり心地がいいから握りやすいのよ。……そうでしょ?涼樹」

 魅月はいきなり涼樹へと話をふった。そのことにあたしはどきり、とする。涼樹は、どう答えてくれるんだろうか、って。

「ん、あ、ああ、そう、だな」

 恥ずかしそうに涼樹は答える。恥ずかしがってるってことは嘘じゃないんだと思う。いや、本当はどうかわからないけど、そう思いたい。

「あの、あ、ありがと……」

 涼樹に褒められてあたしまで恥ずかしくなってきた。まだ、あたしも涼樹も些細なことで恥ずかしいって思ってしまう。体をくっつけたり、手を握ったりしたりするのは全然大丈夫なのに。

 ……え、えとこのあとはどうすればいいのかな?あたしもさわり心地がいいよって言うべきなのかな?

 そんなふうにあたしが混乱していると、

「もう、ほんとに、あなたたちは。早く、帰るわよ」

 呆れたような魅月の声が聞こえてきた。それで、あたしは我に返った。

「う、うん」「あ、ああ」

 焦ったようなあたしと涼樹の声が重なった。

 そんなことに嬉しさを覚えながらあたしたちは歩き始めた。


「あ、そうだ。真琴、今日はありがとね」

 駅に向かって歩いてる途中、いきなり魅月にお礼を言われた。

「えっと……なにが?」

 今日は魅月の哀しい、っていう気持ちを紛らわせるために魅月を呼んでフェルに乗せてあげた。けど、結果的にあたしが楽しんだみたいになっちゃって魅月の哀しい、って気持ちを紛らわせてあげられなかったように思う。

 だから、あたしは魅月になにが?、って聞き返した。

「今日は、わたしのためにフェルを呼んでくれたんでしょう?だから、ありがとう、っていってるのよ」

 あれ?魅月はあたしが魅月のためにやった、と思ってるみたいだ。でも、あたしの行動を思い返してみてもあたしはずっと魅月のことはそれほど気にかけてなかったように思う。

「うん、そうだけど。あたし、魅月に全然かまってなかったよね?」

「まあ、確かにそうだったわね。でも、わたしにはそれで十分だったのよ。だって、普通、元恋敵なんかと一緒にいないでしょう?だから、真琴はわたしのことをすごく心配してくれてるってわかったのよ」

「え?そんなことないよ。魅月が哀しそうにしてなくてもあたしは魅月と一緒にいてあげるよ。涼樹よりは全然短い時間になるけどね」

 あたしはそれが、当然のことだって思ってる。たしかに、魅月はあたしの恋敵だった。だけど、そこまで大きな対立があったってわけじゃない。

 それに、魅月と一緒にいたら結構楽しい。それなのに、魅月と一緒にいない理由なんてあるはずがない。

「ふふ、そう。涼樹、真琴のこと、ちゃんと幸せにしてあげるのよ。……こんなに純粋な人、滅多にいないから」

 魅月の言っていることがよくわからない。純粋な人、ってあたしのことだよね、たぶん。でも、あたしって純粋、っていわれるような人かな?

「わかってる。……けど、朝は真琴がオレを幸せにしないと真琴を恨む、とか言ってなかったか?」

「そういえば、そんなことも言ったわね。あれは撤回するわ。……こんな子、恨めるはずがないじゃない」

「まあ、確かにそうだな」

 涼樹は魅月があたしのことを純粋って言った意味がわかってるようだった。

「ねえ、二人とも。あたしのことを純粋、とか言ってるけどどのへんからそう思えるの?」

 このままだとあたしだけが会話から取り残されたような気分になるから聞いてみた。

「ん?あなたが純粋だって言う理由?それは、あまり前の関係に固執しないところからよ」

 そういえば、さっき魅月は普通、元恋敵なんかと一緒にいないでしょう?、とか言っていた気がする。でも、あたしにとってはこうやって気に入った人なら前がどんな関係でも関わるのが普通だ。

「あたしにとってはそれが普通なんだよ。だから、それが純粋とか言われてもなんだかぱっとしないんだけど」

「まあ、純粋、って言われて自分でぱっとするやつなんかいないだろうな」

 あたしの答えに付け加えるように涼樹はそう言った。

 純粋って言われてあたし自身はそうなんだ、って実感はできないけど、なんとなく嬉しかった。

「あ、涼樹、駅に着いたわよ。どうするの?」

 気がつくと駅の前についていた。魅月のどうするの?、とは駅のホームまで来るのか?と言うことだと思う。

「決まってるだろ。ホームまで一緒に行ってやるよ」

「そう――――」

「うん!涼樹、ありがと」

 あたしは魅月が何かを言おうとしていたのに途中でついそれを遮ってしまった。涼樹がホームまで来てくれるのが嬉しいとはいえ、魅月には申し訳ない。

「ご、ごめん、魅月」

「はあ……。別にいいわよ。たいしたこと言おうとしたわけじゃないから」

 魅月は溜め息をつきながらそう言った。溜め息の中にはあたしへの呆れが多大に混ざってた。

 さっきのあたしの反応は自分でも素直すぎた、と思ってる。

「……二人ともこんなところで話さずにホームの方で話したほうがいいんじゃないのか?」

「それも、そうね。……それじゃあ、行きましょうか」

「うん」

 

「それじゃあ、また明日ね。涼樹」

 あたしは電車に乗り込みながらそう言った。

 魅月は数分前に電車に乗ってしまった。だから、数分間だけ涼樹と二人きりでいられた。

 でも、今日はこれでおしまい。涼樹と一緒になるためには明日を迎えなければいけない。そして、手をつなぐのも。

「ああ、また、明日な。それと、大丈夫だとは思うけど、気をつけろよ」

「うん、気をつける」

 あたしは頷いて答える。

 今は一分一秒でも涼樹と長く話したかった。電車が発車するまで、あたしと涼樹の間にある扉が閉じるまで話をしたい。だから、あたしは席が空いていてもここにいる。

「明日はあたしが迎えにいってあげるよ。だから、あたしが行くまでにちゃんと準備はしといてね」

「ああ」

 涼樹は笑顔を浮かべて頷いてくれた。あたしはそれだけで幸せを感じていた。

「真琴、顔がにやついてるぞ」

「え!そ、そんなこと、ないよ?」

 そうは言ったもののやっぱりあたしはにやけているかもしれない。顔の筋肉なんかが真顔のときとは違う感じがするし。

 というか、あたし、なんで否定してるのに疑問形になってるんだろう?

「いや、自分で気がついてないだけだって」

「うん、そうかもしれない。涼樹と一緒にいられてあたし、幸せだ、って思ってるもん」

 あたしが幸せだ、っていうことを涼樹に伝えたくて自分がにやけていたことを認めた。

「オレも幸せだ、って思ってる」

 涼樹がそう言ったと同時に扉が閉まり始める。そうだ、これだけは言っとかないと。

「涼樹、大好きだよ」「真琴、大好きだ」

 見事にあたしたちの声は重なっていた。そのことに驚いていたら扉が閉まってしまった。

 涼樹はどんな顔を浮かべてるんだろう、って思って扉の外の涼樹を見てみたらあたしに手を振ってくれていた。あたしも小さく手を振り返す。そして、涼樹の姿は見えなくなった。

 それから、あたしは小さく笑ってしまう。理由はよくわからない。もしかしたら、これが幸せだ、っていうことなのかもしれない。

 明日は何があるんだろう、そう強く思うことが出来る。涼樹と一緒ならきっと楽しい一日になるに違いない。

 魔王だったあたしを助けようとしてくれた彼に対する恋は今日、実った。長い長い片想いだった。

 だからなのか、今は恋人となった彼の顔を思い浮かべるだけで顔がほころんでしまう。

 そして、あたしは想う。明日も蒼く碧い空があたしたちを見守ってくれるんじゃないか、って。


fin


これにて「蒼く碧い空」は完結です。

ここまで付き合ってくださった方々、ありがとうございます。

よろしければ、感想を書いていってください。


次回作の公開は未定ですが、

書き上げるつもりはありますのでまたいつか霽月の名前が目に入ったら、

そのときはよろしくお願いします。

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