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第14話:影の峡谷の先と、広がり始めた名前


無頼の牙パーティーが影の峡谷を攻略してから十四日目。

アレン・ヴォルドは朝の宿屋で道具ベルトを丁寧に巻き直し、小型のノートをポケットに入れた。

黒髪を短く整え、茶色の瞳に今日の集中を込める。

ここ最近のクエストで、回復魔法を連発する負担は相変わらずだが、仲間たちとの息が少しずつ合ってきた実感があった。


ギルドの入り口では、三人がすでに待っていた。

ガルドが大剣を肩に担ぎ、赤毛を朝日に輝かせて元気よく声を上げる。

「アレン! おはよう! 今日は『灰色の丘陵』の石甲亀討伐だぜ! 甲羅が硬いらしいが、報酬は悪くない!」


レオンが銀髪を後ろで束ね、風魔法の杖を軽く回しながら軽く笑う。

「ははっ、ガルドは相変わらず元気だな。アレン、回復の準備はできてるか?」


バーンは無精髭を撫で、のんびりとした足取りで盾を担いでいる。

「アレン、今日は肉の量を多めに持ってきてくれたか? 戦いが終わったら腹が減るからな」


アレンは軽く頭を下げて三人と合流した。

「みんな、おはようございます。少し慎重にいきましょう。石甲亀は甲羅が硬いので、脚や首の付け根を狙うのが良さそうです」


ガルドが豪快に胸を叩く。

「連携はいいけどな! 無頼の牙は勢いで勝負だ!」


クエスト受付カウンターでは、ミリアが明るい金髪ポニーテールを揺らして笑顔で待っていた。

「無頼の牙のみなさん、おはようございます! 今日のクエストは灰色の丘陵の石甲亀群ですね。甲羅が硬いので注意してください。アレンさんたちの回復魔法なら、きっと上手くいくと思います!」


ミリアは地図を渡しながら、いつものように追加情報をくれた。

「丘陵の中央に大きな親亀がいるらしいです。最近、無頼の牙の名前をギルド内で聞く機会が本当に増えましたよ。このパーティー、どんどん目立ってほしいんです。頑張ってくださいね!」


アレンは丁寧に礼を言った。

「ありがとうございます、ミリアさん。いつも本当に助かります」


ガルドが親指を立てる。

「おう! ミリアちゃん、期待しててくれ! 無頼の牙、今日も派手にいくぜ!」


レオンがくすくす笑う。

「受付嬢の期待を背負うとはな。アレン、回復、よろしく頼むぞ」


バーンがのんびり頷く。

「まあ、戦いが終わったら飯だな」


四人は馬車に乗り、灰色の丘陵へと向かった。

丘陵地帯は岩が多く、地面が硬い。石甲亀の群れが岩のように擬態して待ち構えていた。

大きな甲羅から鋭い棘が生え、ゆっくりとした動きで襲いかかってくる。


「よし、無頼の牙の出番だ! 俺が前で引きつける!」


ガルドが大剣を構えて突進した。

石甲亀の棘がガルドの脚に突き刺さり、血がにじむ。


「アレン、傷が痛え! 癒してくれ!」


「ガンガンいけ! まだ来るぞ!」


アレンはすぐに軽い回復魔法を唱えた。

緑色の柔らかい光がガルドの体を包み、傷を癒していく。

同時に支援魔法でガルドの力を強化し、動きを少し速くする。


「ガルドさん、甲羅の隙間を狙って! 脚や首の付け根です!」


「そんな悠長なこと言ってる場合じゃねえ! 無頼の牙は勢いでぶち破る!」


レオンが後方から風の刃を連発し、石甲亀の動きを乱す。

「おいおい、また無茶かよ。アレン、俺にも強化を!」


バーンが盾で棘の攻撃を受け止め、斧で石甲亀の脚を狙う。

「アレン、回復ありがとうな。まだいけるぞ」


戦闘は硬い甲羅相手に長引いた。

石甲亀の群れがゆっくりだが確実に囲んでくる。

アレンは汗を浮かべながら回復魔法を懸命に連発した。

精神力が消耗していくのを感じつつも、仲間たちの傷を一つずつ癒し、支援を重ねていく。


「アレン、傷がヤバい! 癒してくれ!」


「了解です……回復、続けます!」


緑色の光が何度も閃く。

アレンの魔法がなければ、この硬い敵相手の戦闘はすぐに苦戦していただろう。

レオンが風魔法で隙を作り、バーンが盾で守りながら斧を振り下ろす。

ガルドが大剣で親亀の首の付け根を狙い、ようやく大きな石甲亀を倒した。


親亀が倒れると、残りの群れも動きを鈍らせ、次々と倒れていった。

丘陵に静けさが戻る。


ガルドが息を荒げながら大笑いした。

「ははっ! 勝ったぜ! アレン、お前の回復連打がなかったら危なかったな!」


レオンが汗を拭いながらアレンの肩を叩く。

「ははっ、相変わらず無茶だったが、今日はだいぶ連携が良くなってきたぞ」


バーンがのんびり笑う。

「いい運動になった。今日は飯を豪華にしようぜ」


アレンは汗だくになりながら、軽く微笑んだ。

「みんな、無事でよかったです……少しずつ、息が合ってきたと思います」


ギルドに戻る馬車の中で、ガルドがアレンの背中を軽く叩いた。

「お前がいるおかげで、俺たちはもっと無茶できるんだ。無頼の牙、悪くねえチームだぜ!」


ギルドに到着すると、ミリアだけでなく、他の受付嬢たちもカウンター越しに視線を向けていた。

ミリアが明るく手を振ってくる。

「無頼の牙のみなさん、おかえりなさい! クエスト成功おめでとうございます! 傷は大丈夫ですか?」


アレンが簡単に戦闘の流れを報告すると、ミリアは嬉しそうに頷いた。

「すごいですね……最近、無頼の牙の成功率が高いってギルド内で話題になってますよ。このパーティー、どんどん目立ってほしいです!」


その時、近くで他の冒険者たちの会話が聞こえてきた。

「無頼の牙、最近クエストを順調にこなしてるらしいな」「男ばかりの熱血パーティーなのに、意外と粘り強いって評判だぞ」


アレンはそれを聞いて小さく息を吐いた。

まだ小さな変化だが、無頼の牙の名前が確かに広がり始めている。


その夜、『鉄の杯』で四人は勝利を祝った。

ガルドがジョッキを高く掲げて叫ぶ。

「無頼の牙に乾杯!」


レオンがくすくす笑いながらグラスを合わせる。

「ふっ、ギルドの視線が増えてきたな。アレン、お前の回復が効いてるぞ」


バーンが肉を頬張りながらのんびり言う。

「アレン、これからもよろしくな」


アレンは麦酒をゆっくり飲みながら、仲間たちの顔を見回した。

灰色の丘陵での硬い戦い。

回復魔法を連発する毎日。

ミリアをはじめとする受付嬢たちの視線。

そして、男ばかりの熱い仲間たち。

追放されてからわずか十四日。

無頼の牙での日々は、確実に周囲の注目を集め始め、着実に前進していた。


明日もまた、回復を連打する日々が続く。

でも、今はこの仲間たちと一緒に、ゆっくりと強くなっていける気がした。


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