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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
3章 人格分裂編
32/68

32話 隠された技


翔馬と花野を見て無い野はゆっくりと息を吐いた。


「次は──誰だ?」


その言葉に答えるように、木々の影から一人が飛び出す。


与志野だった。


拳に蒼の気を纏わせ、死角から一気に踏み込む。


「thousand finger!!!」


光の連打が無数の刃となり、無い野の背後へ殺到する。


ドドドドドドドドドドドド!!!!!


無い野は振り返りもせず、冷たく言った。


「……お前には興味がない。」


その瞬間、無い野の身体がフッと横にずれ──

回避しようとした、まさにその時だった。


バキィッ!!


与志野が拳を地面へ叩きつけた。


その直下の大地が大きく割れ、

無い野の足元の土が“崩れ落ちる”。


「……!?」


わずかに体勢が傾いた。


ほんの一瞬──

しかし、致命的とも言える“隙”。


「今だ翔馬!!」


与志野の声と同時に、蒼の紋章が地を走る。


「Quattro Step!!!」


翔馬の姿が青い残像と化し、

無い野の胸元へ拳を叩き込む。


――ドガァッ!!!


「……っ!!」


だが無い野は腕を交差し、その拳を受け止めた。


(クソッ!!蒼鎧を合わせられた!!)


「甘い。」


無い野が亜里野にカウンターを仕掛けようとしたその瞬間。


ヒュッ……!!


空気を裂く音と共に、

“蒼の気をまとった小石”が無い野の側頭部へ飛来した。


ガンッ!!!


「っ……!?」


本来なら容易に防げるはずの投石。

だが先ほどの体勢の崩れが残っていたのか、

無い野はその石を完全には防げなかった。


当たった瞬間、わずかに顔が揺れる。


与志野が息を呑む。


(凄え……ただの石が……弾丸みてぇな威力だ……!)


無い野がゆっくりと投石方向を見る。


「そうだったな……お前が一番厄介だ」


「来い……無い野」


当て野がゆっくり前へ歩く。


「俺の攻撃は……絶対に外れない。

お前も分かってるだろ。」


無い野の表情がわずかに動く。


「ああ知ってるよ……効かないがな」


当て野は拳を構えた。


「俺の祝福──"sniper"。

“俺の攻撃は、対象に必ず当たる”。」


風が止まった。


「フッ!!」


次の瞬間、当て野は無い野へ真っ直ぐ突っ込んだ。


カウンター。


無い野の拳が当て野へ襲いかかる。


ブンッ!!


スレスレで当て野が回避。


その直後、当て野の拳が無い野の胸へ吸い込まれるように命中する。


ドゴッ!!


「……チッ」


無い野は一歩下がる。


当て野は畳みかける。


ドゴッ!!ドガッ!!バキッ!!


左、右、アッパー、ローキック──

すべてが必中。


「どうした無い野……着いて来られないか?」


翔馬はその様子に驚愕する。


(すげえ……!無い野の攻撃をギリギリ躱しながら反撃まで……!)


無い野の頬がわずかに歪んだ。


「中々良い攻撃だな……」


そして──


無い野の拳が閃いた。


(!?こいつギアが上がった!?)


当て野でも反応が遅れた。


(しまっ──)


直撃する──その瞬間。


「──捕まえた!!」


田野の叫び。


田野の足元から光の鎖が伸び、

当て野の身体を強引に後方へ引き寄せた。


「my only girl Friend!!」


同時に花野のツルも絡みつき、

二つの力が当て野を強制的に後退させる。


無い野の拳は空を裂き、地面を大きく抉った。

当て野は地面を転がりながら息を整える。


「助かった……!」


花野が震えた声で叫ぶ。


「当て野!!無理しすぎだ!!」


無い野は拳を下ろし、

ゆっくりと翔馬達を見渡した。


(花野は回復させられたか……恐らくは亜里野も……味方を回復させながら俺と絶妙な距離を保っている……)


「なるほど──悪くない。」


その瞬間、蒼の気が再び濃くなる。


「……だが、そろそろ終わりにしようか。」


──


岩の嵐の中心で、

大井死は息ひとつ乱していなかった。


無闘は額から汗を流しながらも、連続で拳を突き出す。


「まずいなこれは……受け流し続けるにも限度があるぞ……!」


大井死は淡々と返す。


「意外と粘るね……!たかが下界人がここまで動けるとは驚いたよ……!」


足元の地面が、ゴゴゴッ……と盛り上がる。


無闘は即座に察し、跳び退く。


だが──


「甘いね、後ろだ」


大井死の声と同時に、

無闘の背後で岩の腕が生えるように伸び──


バギィッ!!!


無闘の背中を捕らえようと振り下ろされた。


「くッ……!」


ギリギリで受け流す無闘。

だが衝撃で大きく吹き飛ばされる。


その瞬間──


Fが上空から迫る。


「うりゃああああああ!!」


高速回転しながらの回し蹴り。


多い死は視線だけを向け、静かに手をかざす。


「やんちゃな子だ、怪我をしない様にね」


石壁が瞬間生成され、Fの脚を受け止めた。


だが、Fも負けてはいない。


「がぁッ!!」


バキバキバキバキ!!!


(……!?無理矢理……!?)


全身の筋力を爆発させ、

壁を粉砕すると同時に大井死へ踏み込む。


「おりゃぁぁ!!!」


「いいね、嫌いじゃないよ」


大井死がFが放った拳を右手で受け止めた。


(……!?何この手!キモッ!)


“岩化”した右腕。


ガキィィィィンッ!!


衝撃が散る。


Fの拳が止まり、大井死の右腕にヒビが入った次の瞬間。


「隙だらけだよ」


大井死の左腕がうねるように伸び、

岩の棘となってFの腹へ突き刺さる勢いで迫る。


「うあっ──!!」


寸前で無闘が割って入り、拳で軌道をそらした。


「F!下がれ!一度立て直すぞ!」


Fは息を荒げながら後退する。


「う〜……なんか全然手応え無いんだけどー、あいつ本体じゃないんじゃない?」


無闘は睨みつける。


「いや、本体は間違いなくあいつだ。

多分フジツボみたいに岩をくっ付けてるだけだろ」


(問題なのはこの出力!初めて来たであろうこの地形全体を自分の身体みてえに扱ってやがる!とんでもねえ技術タイプ!やりずれぇ〜〜!)


大井死が歩み出す。

一歩踏むたびに、大地が震えた。


「鬼ごっこは終わりだよ、」


パチン、と指を鳴らす。


その瞬間──


岩牢(せきろう)


周囲が“岩の塔”に囲まれ、二人は閉ざされた。


完全な閉鎖空間。


「無い野が心配なんでね……一足先に早退してもらおうか」


Fが叫ぶ。


「なにこれ高っ!?出られないじゃん!!ずる!!」


大井死は冷たく笑む。


「土葬してあげるよ。」


無闘は拳を構える。


「この強さ……お前七天神か?」


「へぇ……知ってるんだ。

ご名答、まあ元だけどね。」


「やっぱりか……!光栄だな、元とはいえ神界の精鋭部隊と戦えるなんてよ……!」


「戦える……?ハハッ、驕りだね。」


そして──


大井死の両腕から“岩の刃”が十数本、扇状に展開した。


「これは戦いじゃない、処刑だよ。」


次の瞬間──


「墓石。」


頭上に再び隕石が生成される。


「うわっ!!」


Fが叫び、無闘が即座に指示する。


「ぶっ壊し続けろ!上も足元も来るぞ!」


ドォォォンッ!!!


隕石が落ちた衝撃で、岩牢全体が波のようにうねり地震のような振動が走る。


地面が裂け、巨大な岩壁が噴出。


同時に地面の割れ目から岩が槍のように伸びてくる。


Fは跳びまくりながら悲鳴を上げる。


「ちょッ!?下からも横からもとか反則!!それは違うよ!!」


無闘は息を荒げながらも拳で砕き続ける。


「クソッ……!こいつ……!」


(逃げ場がねえ……!俺らを囲ってるこの岩にだけ蒼鎧がかけられてやがる!壊すのは不可能!)


大井死は全く動かず、

まるで“大地そのもの”の様に攻撃してくる。


淡々と呟く。


「大丈夫かい?さっきから防戦一方だよ。」


その語り口は変わらず冷静で、静かで、淡々。


──その瞬間。


ピシッ、メキメキッ……


Fの方の石牢にヒビが入る。


「……?」


ドガァァァァァン!!!


壊れない筈の石牢が破壊された。


(防戦の間に二人で一点に攻撃を集中させたか……)


大井死へ突撃する。


「違う!!私が攻撃するからぁ!!」

「何でだよ!?二人でやった方がいいだろうが!」


二人の渾身の攻撃。


拳が大井死の顔面を捕らえ──


ガンッ!!!


「──え?」


音が軽い。


大井死が微動だにしない。


次の瞬間、拳が砕けたように跳ね返される。


「え、石……?全部、石!?」


無闘が叫ぶ。


「F、下がれッ──!」


だが遅かった。


大井死の身体が“ひび割れ”落ちていく。


本体の声が足元からした。


「ここだよ」


地面が裂け、本物の大井死が背後から現れた。


Fのみぞおちに、岩化した腕が深々と入る。


「ぐっ……!!!?」


Fが弾かれたように吹き飛ぶ。


十メートル以上跳ね飛び、岩壁に叩きつけられる。


無闘が叫ぶ。


「F!!」


(マジかよ……身代わり!?蒼の気をあの囮に集中させて本物と思い込ませたのか!?)


大井死は肩の埃を払いながら言う。


「まあこんなものか……流石ヴァルキリ野だ、下界人をここまで戦えるようにするとは」


冷たい目。


無闘はゆっくり拳を握る。


「師匠を知ってんのか……」


「有名だよ、神界でも数少ないA級指名手配犯の一人……もう捕まったけどね」


「捕まったんじゃない……託したんだ、俺達にな」


大井死は鼻で笑う。


「託した?下界人に?ハハハ……面白いジョークだね……私にすら勝てない君達に何を託したっていうんだよ」


「本当は使いたくねえんだよ……かなり蒼の気消費しちまうし……師匠からもなるべく使うなって言われてるしよ」


蒼の気が無闘の周囲で暴れ出す。

いつもの無闘とは違う。


“反転”するように、殺意を帯びていく。


(何だ……この気配は……?)


大井死が初めて、警戒の色を見せる。


「蒼の気の反転……?まさかお前……」


無闘は静かに息を吐いた。


「神界人だけの特許じゃねえぞ……!

見せてやるよ──」


その身から蒼い波動が爆発する。


「MODE反転!!!」


肉体が軋み、蒼気が“逆回転”するように螺旋を描く。


ドッッッ!!!!!


無闘の瞳が鋭く光る。


「MODE反転──決闘けっとう。」


「……馬鹿な……その技は……神界人でもごく一部しか使えない……何故下界人が……!!」


「悪いな……俺、才能の塊なんだわ」


たった一歩踏み出しただけで、

近くの岩牢の床が──爆ぜた。


バチィィィィンッ!!!


大井死が目を細める。


「──ッ……!ありえない……!」


無闘の姿が消えた。


次の瞬間──


ドガァッッッ!!!!


大井死の胸に膝蹴りがブチ込まれる。


「ガハッッ!?」


岩化した身体が大きく凹む。

削られた石の破片が散らばった。


「は……っや……ッ!!?」


無闘はすでに背後に回り込んでいる。


「どうだ?下界人様の膝蹴りはよ?」


拳が振り下ろされる。


大井死は咄嗟に岩壁を生成して防御する。


「舐めるな!蒼鎧で極限まで岩を固めればお前など……!」


ドゴォッッッ!!!!


無闘の拳が岩を粉砕した。

速度も破壊力も、さっきの数倍。


大井死が叫ぶ。


「調子に乗るな……下界人!」


「うるせえええぇ!!!」


ドドドドドドドドドド!!!!


拳が雨のように降り注ぐ。


大井死が岩で防御しても、次の一撃で粉砕される。


動揺が表情に浮かび始めた。


(バカな……!!押されてる……下界人に……!?)


無闘の蹴りが大井死の腹を撃ち抜き、

地面ごと吹き飛ばす。


「ゴホッ!!!」


無闘は獣のように睨む。


「土弄りは終わりかよ……元七天神さん」


「土弄りだと……貴様!」


大井死は初めて焦りの色を見せた。


無闘の圧倒的な速度と破壊力に押され、

大井死は岩壁を乱れた呼吸で連発しながら後退していた。


「ありえん……!ありえるはずがない!!下界人がどうやってその技を!!」


無闘は答えず、ただ迫る。


大井死の視線が揺れる。

次の瞬間、彼は空を見上げた。


「……なら……もう……手加減はしない!」


冷静さを取り戻したように、

大井死は両腕を天に向けて広げた。


大地が震える。


空気が震える。


そして──


「死ね!!下界人!!」


天を割った。

雲海を突き破り、空の彼方に影が生まれる。


それは山を影で覆い尽くす“巨大隕石”。

まるで世界の終わり。


遠くの街の一般人までもが空を見上げた。


「な、なにあれ……!?」

「隕石……!?でかすぎる……!!」

「落ちてくるのか!?逃げろ!!」


誰もが空の異変に気づき、恐怖を覚える。


同じ頃、無い野と戦う翔馬達の頭上にも影が落ちた。


「……は!?」

「何だあれは……!?」

「無闘達の方からだ!!やべぇぞ!!」


翔馬達は信じられない目で頭上にある隕石を見上げた。


「範囲が広すぎる……!!俺達もやばい!!」


当て野が蒼の気を感じ取り、顔を青ざめさせる。


「ククク……随分と派手なフィナーレだな」


無い野はニヤけながら頭上を見る。


隕石の影は、

このままでは戦場どころか山ごと飲み込む。


「無い野の楽しみを奪ってしまうのは少し申し訳ないが……」


大井死は静かに言う。


「これが落ちれば……君も、仲間も……全部一括で処理できる」


無闘は無言で空を見上げる。


その身体から吹き出す蒼の気は、

もう気ではなく──獣の咆哮そのものだった。


草陰から出てきたFが無闘に問う。


「無闘……あのデカさいける?」


「……当たり前だ」


無闘が足を踏みしめた。


「師匠ならこのくらい……何ともない!!」


ドンッッ!!!


大地が砕け、

“反転”した蒼の気が爆発する。


大井死の視界から消えた。


「……!?どこに……!!」


──空だった。


無闘は、隕石へ向かって一直線に飛んでいた。


大井死の瞳が広がる。


「な……!?まさか……!!!」


隕石が落ちてくる。

無闘が迫る。


世界が揺れた。


無闘の拳が蒼く輝く。


「お前の岩ぶっ壊すなんてよぉ──」


渾身の咆哮。


「クッキー割るみてえに!!簡単だぜ!!!」


ドッッッッッ!!!


天が割れた。


隕石が、山のような巨塊が──

粉々に砕け散った。


破片が光の雨となって空に舞う。


地上から見上げていた一般人は息を呑む。


「……うそ……だろ……?」

「ぶっ壊れたぞ……何なんだあれ!?」

「自然現象なのか……?」


大井死も同じ顔をしていた。


「……馬鹿な」


(……これが……下界人……?嘘だ……ありえない……)


隕石を砕き、無闘が急降下する。


衝撃波をまといながら真っ逆さまに。


「ッ……!!ヴァルキリ野!!!」


ドドドドドドド……!!!


大井死は自らの全ての蒼の気を解放し、

地面から“岩の軍勢”を生み出す。


周囲の地形全体が揺れ、混沌と化した。


その全てが無闘へ向かい襲いかかる。


「来いよ!!!」


無闘は吠える。


拳の軌跡だけで巨兵が砕け、

蹴り一発で岩壁が粉と化す。


少し離れた木陰で座り込み、Fはその様子を見ていた。


「うわー……なんかもう無闘が悪役っぽいね!」


大井死の声が震える。


「グッ……俺は……俺は元七天神だ……!!俺が……神が下界人に負けるなど!!あってはならない!!」


だが無闘は止まらない。


「あるんだなそれがぁ!!!」


無闘が大井死の目前まで迫る。


大井死は全岩を集中させ、

自身の前に“最硬岩壁”を生成した。


「これなら……ッ!!」


だが──


無闘はその壁に手を当てただけで、

雷鳴のように砕き、突破した。


「は……?」


「おらぁぁぁあ!!!」


特大の蒼の気を纏った渾身の右ストレート。


「ガハッッッ!!!」


ドゴォォォォッッ!!!


多い死の身体が大きくひしゃげ、岩牢ごと吹き飛び、遥か後方の岩山へ叩きつけられた。


爆煙。

静寂。


大井死の身体は動かない。


無闘は荒い息をつきながら呟いた。


「……フゥ……Fの野郎……自分だけサボりやがって……」


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