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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
3章 人格分裂編
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30話 人格分裂決戦


山奥──静寂を裂く足音


鳥の声すら途切れた、深い森の奥。

翔馬たちは地面に刻まれた岩肌の上で、ただじっと“来訪者"を待っていた。


空気が重い。


花野の花びらが、風もないのに震えている。


(……来る)


当て野が何処からか取り出したライフルを構えると同時に──


森の奥からゆっくりとした足音が響いた。


ザ……ザ……ザ……


闇の中から二つの影が現れる。


ひとりは、薄笑いを浮かべた男。

黒い気配をまとい、翔馬の背中に冷たい汗を走らせた。


「覚悟はできた様だな……亜里野」


そして、その横に立つのは──

翔馬たちの担任、大井死。


しかし彼の表情は、いつもの気だるさとは違った。

鋭い瞳、何かを覚悟した顔。


「見慣れない顔がいるな……あれも無い野くんの人格かな?」


「ああ、だが問題はない。

あいつらなら十分対処できる」


無い野が指先を揺らすたび、空気が歪むようだった。


「花野、当て野……位置が集まっていた時はまさかと思ったが……そっちについたとはな」


翔馬は吐き捨てるように言う。


「ここで……終わらせに来たんだよ」


その時、大井死が前へ歩み出た。


「じゃあ私は……弟子達の相手をする。」


無闘とFが同時に身構える。


「体罰かよ先生〜、教育委員会に言っちゃおっかな〜」


「暴力は違うと思うよ!」


「生憎だが……私はもう教師じゃない」


大井死の声音は淡々としていた。

だが、その眼だけが異様に冷たい。


「無い野の邪魔をされると困るんでね……こっちでやろうか」


無闘が舌打ちしながら拳を握る。


「……チッ、行くしかねえな、翔馬たちは無い野を頼む!」


Fが振り返りながら叫ぶ。


「死ぬなよ翔馬!否定から入るけど、絶対死ぬな!!」


無闘とFは多い死に連れられ、森の奥へ消えた。


「何だそりゃ……」

「やっぱあいつちょっと変だよな〜」


残されたのは──

翔馬、与志野、田野、花野、当て野。


無い野は静かに笑った。


「五人か……前の廃工場の時の奴らは連れてこなくていいのか?」


無い野が一歩踏み出す。

それだけで、地面が鳴った。


翔馬が息を呑む。


(……重い……!なんだこの圧……!)


花野が花びらの盾を展開する。


「当て野」


「ああ……分かってる」


当て野が地形を利用し狙撃位置へ跳ぶ。


与志野の指先に蒼の気が集まり、田野がその背後を守るように立つ。


「いくぞ……!」


翔馬が叫んだ瞬間。


無い野の姿が消えた。


「!?消え──」


理解するより先に、


ドゴッ!!!


翔馬の腹に、拳がめり込む。


「ゴッ……!!」


肺から空気が全部抜け、視界が反転した。


「翔馬!!」


与志野が走るが、そこに無い野の膝が飛んでくる。


ガッ!!!


「ぐっ……!!」


一瞬。


たった一瞬で、翔馬と与志野は地面に転がされていた。


当て野が高所から狙撃する。


パンッ!!パンッ!!


だが無い野は弾丸を羽虫を振り払う様にあしらった。


ドシュッ!!ドシュッ!!


(弾丸に蒼の気が込められているな……だが込め方が雑……命中した所でそこまでのダメージにはならん)


「当たらない……!?」


花野が叫ぶ。


「田野!もう少し下がれ!」


(塵野を吸収したとは聞いてたけど……ここまで強化されるものなのか……!)


無い野は静かに、そして薄く笑った。


「花野、当て野……返って来い。

本来お前たちは、俺の中に“戻る”べき存在だ。」


田野が前へ一歩出る。


「戻る?ふざけんなよ……!こいつらはお前みたいなやつのために生まれたんじゃ──!」


その時。


無い野の手が軽く振れた。


その風圧だけで、田野の身体が吹き飛んだ。


「──グッッ!!!」


木に叩きつけられ、血が舞う。


翔馬が叫ぶ。


「田野!!」


無い野は変わらぬ表情で言った。


「雑魚が……お前ら如きがこの戦いに参加できると思っているのか?」


その目を向けるだけで、全員の背筋が凍った。


これが──“王”。


祝福 多重人格の本当の支配者。


圧倒的な格の差に誰もが一瞬、呼吸を忘れた。


翔馬の拳が震える。


(クソ……俺たちも必死に鍛えて強くなった筈なのに……ついて行けねえ!)


無い野がその身をわずかに傾け、静かに宣告する。


「さあ──終わらせようか。」


森が闇に飲まれた。


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