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第一章_5[固有スキル『魔束者:真』の効き目]

 「あ、あれ?あたし、疑われてる?」


 全く意識してはいなかったのだが、俺は魔王エレシアに問いかけた際、訝しげな表情をしてしまっていたようだ。

 可愛らしい六歳くらいの幼女の外見とは裏腹に、中身は四十五を迎える予定だった、極道であるが故……つい長年の癖というやつだろう。

 言った言わぬで面倒事の元凶になる言葉にはせず、表情だけで自分の心情を周囲に伝えることを、俺は常々してきていたからだ。


 「はいっ!!じいぃぃぃっ……」

 「こらー!!もう!!ユレシア……やめなさい。でもね、エレシアちゃん……?ユレシアの言い分も、一理あるの。耳に入るのが、早すぎじゃない?」

 「あー!!もしかして、フィリシア叔母さん……スキル解放の洗礼式について詳しくない?」


 どうして洗礼式の話がここで……と、一瞬思ったのだが、その直後……俺はこの先の魔王エレシアの言わんとしたい事が、何となく分かってしまった。

 確かに……俺の頭の中へと思い浮かんできた内容が、本当だとすれば、逆に知らない方がおかしいと言えるからだ。


 「毎年、その年に六歳になる子供を対象に、生まれ持ったスキルを解放する洗礼式……でしょ?」

 「フィリシア叔母さん、知らないのか……。『真』スキルを持っていた場合、全世界に向けてお告げがされるんだけど……」

 「ぜ、全世界ですって?!」


 そう……あの天の声みたいなやつが、世界中にアナウンスされたということだ。

 まさに、大規模多人数同時参加型のオンラインゲームで、ゲームマスターがメンテナンスや、イベントの予告を、プレイ中に突然してくるアレだ。

 あとは、MVPモンスターを討伐したり、ギルド戦で拠点を奪取したり、伝説級アイテムをゲットした場合、そのプレイヤーの名前がアナウンスされる。


 「うん……。今朝、寝てたりしなければ……世界中の誰もが、魔王であるあたしを超える……ユレシア『様』の存在を、知ることになった……」

 「そ、それじゃあ……ユレシアは……」


 今回の場合、俺の置かれた状況的に言えば、その後者が当てはまると言えるだろう。

 ただ、今朝……スキル解放の洗礼式で、天の声がアナウンスしたのは、俺の所持スキルと名前だけなので、面識がない限り身バレはし辛い筈だ。

 そうは言っても……『ユレシア=ニールベルカ』という名については、全世界に知れ渡ってしまった為、もう……迂闊に口に出来なくなってしまった。

 

 どうして、遠く離れた場所に住まう魔王が、フィリシアさんと俺の居場所を……こんなにも早く把握できたかについては、あらかた予想がついている。

 この世界で言うところの、勇者と魔王による覇権争い……俺のいた裏社会で言えば、志の異なる者同士の抗争……そこには大抵、間者はつきものだ。

 それに、そもそもあの村には……魔王に与する者たちも一緒に暮らしていたので、俺たち母娘が出て行く情報など、筒抜けだった筈だ。


 「……」


 だからこそ、血縁関係にある魔王が直々に、フィリシアさんと俺の元へ……会いに来てくれたのだと思いたいが、殺しに来たという線も拭えない。

 魔王という地位を容易に揺るがす、『魔束者:真』という上位互換スキルを、俺は生まれ持って……この異世界に転生させられてしまっている。

 血縁関係だと近づいて……俺たち母娘を油断させ、頃合いを見て亡き者にしないとも限らない。

 同じ組織の人間ですら、油断ならぬ極道の世界で生き、結局は内部抗争に巻き込まれる形で、護るべき相手の盾となり、俺は命を落としたから分かる。


 「エレシアちゃぁんっ!!わたしと、かあさまをぉ……まちまでぇ、あんないしてくれるぅ?」

 「ゆ、ユレシア!?な、何言ってるの?!」

 「はい……ユレシア様。早急にご案内させていただきます」


 流石は『真』スキル……効果は絶大のようだ。

 相手は……魔王だから、『魔束者:真』が効くのか俺も不安ではあった。

 でも、伝説級スキルの前では、無印の『魔束者』を持っている魔王エレシアであっても、赤子同然だったみたいで、俺も少しホッとしている。

 さっき、危機感を覚えた俺は……試しに、一度口を開きかけたが、結局……声には出さず、頭の中だけで……こうしたいと願っただけだ。


─_─_─_─_


 鬱蒼とした森の中の街道から一転、魔王エレシアとフィリシアさん、ユレシアこと俺の姿は……見慣れない大きな港街にあった。

 しかし、ここが魔王の支配地域だと言うことは明白で、街の通りを行き交うのは、オーガやオーク、ゴブリンの姿が殆どで時折、人間が混じる程度だ。


 「わたしぃ……ここで、かあさまとぉ……くすりやさんしたいのっ!!」


 ハーフダークエルフの俺からすると、ここで暮らせるのであれば、あの村での生活とは違い……迫害されず、母娘で生きていけそうな気がしたのだ。

 少しでも選択を誤れば、『美人に育つが娼婦に堕ちる程極貧』と……転生する際、あの謎の美女が俺に選ばせた未来が、現実のものとなってしまう。


 「ゆ、ユレシア!?な、何てこと……お願いしてしまってるの?!」


 少しでも、俺を待ち受けるそんな未来……運命に逆らえる可能性に賭けて、抗い続けていかなければならない。

 絶対に……せめて、フィリシアさんだけでも、娼婦になんか堕ちさせたりはさせない。

 それには、まずは……母娘だけで生活出来るくらいの、安定した収入源が必要となってくる。


 「うにゅぅ?」


 幸いにも、俺の母親のフィリシアさんは、ハイエルフである上、薬草を始めとした製薬の知識や、回復系統の魔法にも精通している。

 これまで暮らしていた村では、エルフや人間も暮らしていたことで、治療方法も、薬だけではなくスキルや魔法も選択肢にあり、競合店が多くあった。

 基本的に、この世界の製薬の類に於いては……エルフの専売特許と言えるだろう。


 「はい……ユレシア様。大至急、薬屋を営める場所の手配をさせていただきます」

 「うんっ!!エレシアちゃん、ありがとぉ!!」


 故、エルフが極端に少ない街であれば、回復薬などについて、仕入れたものを販売する……仕入転売というビジネスモデルになるだろう。

 そうなれば、必然的に商品の価格帯が、エルフ直営の店と比べ……ワンマークもツーマークも上になってしまう為、売れ行きは悪い筈だ。

 当代の魔王を……傀儡の如く使うことも可能な、俺の固有スキル『魔束者:真』だが……この件について、あの謎の美女は関与しているのだろうか?


 普通に考えてみても、俺の行く末を娼婦にしたいのなら……もっと、何も役に立ちそうもない……ゴミスキルを授与されているはずだ。

 色々考え始めると……これは本当に偶然か、それとも他の誰かが……俺に生きる力を与えてくれたのか、または……などと色々浮かんできて尽きない。


 「ほ、本当に……大丈夫なの?無理しないでね?」

 「いえいえ……あたしたち、数少ない親族じゃないですかぁ!!あぁ……そうだ!!フィリシア叔母さん、早速……母さんに、会いに行きませんか?」

 「ミュレシアに?!良いの!?」


 目の前での二人のやり取りを聞いて察したのは、フィリシアさんに接する際の魔王エレシアの口調は、先程の街道で会ったときと変わらぬようだ。

 ただ、立場が逆転した……俺に対する魔王の口調は、六歳程度の幼女……もとい美少女に対し、若干声を振るわせながらに、変わってしまっている。

 そんなつもりで、『魔束者:真』を使ったのではなく、この世界での俺の護るべき相手……フィリシアさんの身の安全を、最優先したに過ぎない。


 「うんっ!!絶対、母さん喜ぶから!!行こうxっ!!」


 こうして、フィリシアさんと俺は、この港街で……魔王の傘の下、生計を立てていくことになる。

これでユレシアの幼女期は終了となります

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