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聖女の陰として生きてきた私が、廃太子と幸せになるまで  作者: 三羽高明


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49/50

十二時になったから、ただの恋する乙女に戻りましょう(2/2)

 その時だった。向こうから見慣れた人影がこちらにやって来るのが目に入る。


「シャーロット様!」


 バスティアンだった。


 彼もまた、大急ぎでシャーロットの元を目指している。二人の距離が近づいてもどちらもまったくスピードを緩めようとしなかったので、シャーロットたちは危うく正面衝突しそうになった。


「あなたに伝えたいことがあるのです!」


 バスティアンは息も整えずに話を切り出す。


「わたしは……」

「待ってください、バスティアン様!」


 いつものシャーロットなら、何事だろうと訝しみつつも余裕を持って彼の話を聞いてあげるくらいのことはしたのだろうが、今はそうはいかない。シャーロットは自分の用事の方が緊急だと信じて疑っていなかった。


「私の方からお話しさせていただきます。後回しにされたら、そわそわしてバスティアン様の話の半分も耳に入ってこないでしょうから」


 シャーロットはバスティアンの返事を待たず、握りしめていた拳を開いた。そこから現われた王妃の指輪を見てバスティアンの金の瞳が丸くなる。


「私と結婚してください、バスティアン様」


 シャーロットはバスティアンに指輪を差し出した。


 バスティアンはあまりに驚いたせいか、中々それを受け取ろうとしない。代わりに彼も握っていた拳を開いた。


 今度はシャーロットが瞠目する番だった。


 バスティアンの手に載っていたものもまた指輪だった。元はシャーロットが用意していたものだ。


 だが、その形状が先ほどとは異なっている。消費してしまった御供石の代わりに、台座の上にガラスでできたカモミールの花が乗っていたのだ。バスティアンが魔法で作り出したものだろうか。


「捨てるなんてできません」


 バスティアンが掠れ声で呟いた。


「あなたの愛の証を完璧でないからという理由で手放すだなんて。不完全でも欠けたところがあっても、これはわたしにとって大切な品なんです。……愛しています、シャーロット様。わたしと結婚してください」


 それ以上の言葉はいらなかった。二人は抱擁を交わし、それでも足りないとばかりに互いの唇を求める。


 そうやって何時間も過ごした気がした。思いが通じ合ったばかりの恋人たちは寄り添うようにしてその場に座り、相手に体重を預け合う。


 バスティアンがシャーロットの手を取って指輪を嵌めた。やっぱりブカブカだ。けれど、サイズの違いなど何でもないように、ガラスのカモミールはシャーロットの指の上で誇らしげに咲き誇っていた。


 シャーロットもバスティアンに指輪を嵌めてやる。彼の方は小さすぎである。指先までしか入らず、これにはシャーロットも笑わずにはいられなかった。


 この上もなく満ち足りて幸福な気分だ。


 ここは火災が起きた現場の真っ只中で、自分は灰で汚れたひどい姿をしていて、もう少ししたら牧場の関係者が被害状況の報告にやって来ると分かってはいたが、そんな事実でさえもこの幸せな気持ちに水を差すことはできない。


 自分の心に正直になり、本心からの望みを叶えるとはこういうことなのだろう。今のシャーロットはミースの領主補佐官ではなく、ただの恋する乙女なのだ。自分をそんな風に変えてくれたバスティアンをシャーロットはいっそう愛しく思った。


 遠くで従業員たちがシャーロットを呼ぶ声がする。恋する乙女をたっぷりと堪能したシャーロットは、敏腕補佐官の仮面をつけて立ち上がった。


「行きましょうか、バスティアン様」

「はい」


 バスティアンも晴れ晴れとした表情になる。


 二人は手を繋いで皆が集まる方へと歩いていった。

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