どうやら私は姉に利用されていたようです(1/1)
翌日。シャーロットとバスティアン、それに「お姉ちゃん」となった邪神リルは、ミース城の談話室に集合していた。
「それで、お姉ちゃん。君は、このペンダントには持ち主の魔力を吸い取る力があると言っていたわけだが」
大きな丸テーブルの上にバスティアンが例のペンダントを乗せた。
「それは間違いないんだな」
「うん」
リルが頷く。
「これ、私の姉……実の姉のザビーネからもらったものなんです」
シャーロットは「お姉ちゃん」の前なので、ザビーネのことを「実の姉」と言い直した。
「彼女はきっと、魔力を封じることで私を利用したかったんでしょうね」
「昨日のシャーロット、すごかったもんね」
リルは昨夜の戦闘を思い出しているようだった。
「あそこまでできる人間なんて初めて見たよ。それに気付いてザビーネも危機感を抱いたんじゃないかな? 姉より優秀な妹なんて存在しちゃいけない、って」
「危機感、ですか」
シャーロットは唸る。
「私の魔力が姉より上だなんて保証はないと思いますが。だって、姉は歴代最強の聖女と呼ばれているんですもの。それに私、自分がいつ魔法を使えるようになったのか全然覚えていないんです」
シャーロットは昨日一晩かけて昔のことを思い出そうとしたのだが、全くダメだったのである。
「私が魔力を得るところを見ていなければ、姉も危機感なんて抱きませんよね? その場合は、呪いのペンダントを渡そうなんて思い付かないと思うのですが……」
「ですが、シャーロット様はペンダントをお持ちです。しかも、それを姉から受け取ったという記憶もきちんとある……」
言葉を切ったバスティアンは、何かに気付いたような顔になった。
「もしかして、シャーロット様は意図的に記憶を封じられたのではないでしょうか?」
「なるほどね! 魔力に目覚めた時の記憶がなければ、本当は自分は魔法が使えるんだって考えも湧いてこないもんね!」
リルがポンと膝を打ち、「狡猾だなあ」と呆れる。
「もし魔法で記憶が封じられてるならさ、解いちゃいなよ。シャーロットくらいの力があるなら、そんなの簡単にできるって!」
気安く言われ、シャーロットは困惑する。自分の魔力はそれほど強力なのだろうか? 聖女と謳われる姉の術を破れるくらいに?
(まあ、ものは試しでしょうか……)
シャーロットは額に手を当てた。
「……解!」
呪いの解き方など知らないから、こんな方法でいいのか分からない。多分間違っているだろう。そんな風に思っていたのだが、その推測に反して、シャーロットの頭の中にあるイメージが浮かんでくる。
それは、幼き日のシャーロットがザビーネに先導されて見知らぬ場所を歩いている光景だった。
辺りにあるのは、珍しい魔獣の剥製や重厚な錠前のついた宝箱の数々。いかにも貴重そうな品々だが、ザビーネはそれらに目もくれない。
――お姉様、こんなところに勝手に入ったら怒られますよ。
怯えた口調でシャーロットが言った。だがザビーネは「うるさいわねえ」と取り合わない。
――黙ってりゃ分からないわよ。どうせ滅多に人も来ないような場所なんだもの。
やがて、ザビーネはある場所で足を止めた。現実世界のシャーロットは息を呑む。だが、驚きはそれで終わらなかった。その後のザビーネがあるとんでもない行動に出たのだ。
「……!」
シャーロットは我に返った。心配そうにバスティアンとリルが顔を覗き込んでいる。
「……私、過去を見ました。やっぱり私の記憶の一部は封印されていたんです」
シャーロットは椅子から立ち上がった。衝撃的な光景を目にしたせいで、肌がじっとりと汗ばんでいる。
「姉は悪人です。今ならはっきりとそう言い切れます」
シャーロットは自分が何を見たのかを二人に話した。全てを聞き終わったバスティアンとリルは呆然となる。
「困ったことになりましたね」
バスティアンがテーブルに肘をつき、顔の前で指を組んだ。
「これからどうしますか? シャーロット様」
「もちろん、姉をこのままにしておくわけにはいきません。彼女は罪人ですもの」
「バスティアン様、こちらにいらっしゃいましたか」
呑気な声と共に執事のオラフが談話室にやって来る。
「今、ちょうど行商人が来ていまして。記念式典用の服の布地を注文しようと思うのですが……。おや、どうされました? 皆さん深刻そうな顔で」
「オラフ、悪いがあとにしてくれ。今は大事な話をしているところなんだ」
バスティアンは執事に退室を命じたが、シャーロットは「構いませんよ」と返した。
「どうせいつかは姉に罪を突き付けさせなければならないんですもの。だったら、彼女の大好きなパーティーの場で決行するのもいいかもしれません」
我ながら悪いことを考え付いたものだ。だが、バスティアンは「面白そうですね」と賛成してくれる。リルも同意見のようだ。
「シャーロット、あなたなら上手くやれるよ。だってアタシの妹なんだから!」
「ええ、そうですね」
もはやシャーロットにはザビーネを姉と思う気持ちは残っていなかった。
彼女は悪女。自分をとことん利用し続けた罪人なのだと分かってしまったのだから。




